第70話
「じゃあなロレッタ。おやすみ」
一通り治療とマブトへの説明が終わったアダンは冷たくなったロレッタの遺体を埋葬した。
二人で祈りを捧げ、土を被せる。
道具も碌になかったものの、どうにか墓穴を掘ることができた。
とはいえ周囲は暗く、辺りは松明の光だけがあった。
「なあマブト」
「なんだ?」
「俺はやっぱりイカれちまったみたいだ」
「……どうしてそう思う?」
「涙がな、出ないんだよ。自分の弟子殺しといて」
彼女を殺す寸前まで出ていたはずの涙はもはや一滴たりとも出ていなかった。
悲しい気分すら何処かに消え失せ、あるのはどうしようもない虚しさだけ。
「どこまでも腐ってやがる。俺って奴はな」
「……ロレッタちゃんもお前もアレだな」
「アレ?」
「自分の過去で悩んで、向き合って、どうしていいのかわからなくなって。迷いに迷って……最後はこれだ」
墓を指さすマブト。
「もうちょっと不真面目に生きたって良かったんじゃないか?多少自分がやりたいように動いたってだれも責めやしないさ。組織もくそもない、自分の好きなようにな」
「マブト……」
「そんでこれからどうする?たしかあれだよな。南に革命党の残党が……とかなんとか」
「ああ、ロレッタがそう言った。だから俺は、仇討に行く。過去の因縁を完全に断ち切りに行く」
「そうか……とはいえまずは……」
「なんだ?」
「休めよ。アダンちゃん」
そう言われた瞬間、アダンは一瞬何を言っているのかわからなかった。
「ボロボロだぞ。アダンちゃん」
「なん……だ……?」
浮遊感と凄まじい眠気に襲われた後、急に視界が歪む。
「っと……俺よりボロボロになってやがる。ロレッタちゃんはそれだけ強かったってことか」
倒れるアダンをどうにか受け止めると、マブトは彼の背中を撫でた。
「辛かったな……」
さてこれからどうしようか……思案を巡らせたマブト。
「た、助けて……黒い肌のお兄ちゃん」
「ん?俺か?」
考え込んでいたら暗い茂みから出てきた子供に呼ばれた。
肩に怪我を負っている。
「どうしたんだ?その傷」
「矢で射られた。助けて、痛いんだ」
「丁度いい、こっちも助けがいるんだ。この兄ちゃんを助けたくてな」
「え?うわっ俺よりひどい怪我」
「坊主、お前さんここの近くに村を知らないか?そこに行こう」
「俺の村があるよ!こっち」
「どれぐらいかかる?」
「夜明けまではかからないくらい」
「そいつはいいな。助かるぜ」
夜の森の中を子供とアダンを抱えた状態のマブトが走る。
ここで死なせるわけにはいかない。
そう思って。




