第69話
(くそッくそッくそッ!!なんでこうなった!?)
傷ついた体を無理やり動かしながら林の奥へと走り去るロレッタ。
汗で張り付いた服に嫌悪感を感じつつ、後ろから追ってくる凄まじい殺気の持ち主から逃げるのに精一杯だった。
「待て、逃げるな、戦え」
後ろから追ってくるアダン。
半分意識が飛んでいるのだろうか?
途切れ途切れの言葉をロレッタに投げかけながら追いかけてくる。
(距離をとって……そうすればあんな状態の師匠なんて敵じゃない)
再び彼女が振り返った時だった。
「え?」
思わず間抜けな声が出た。
振り返った先にアダンの姿がなかったからだ。
(一体どこに……)
思わず身構えるが、意外なことに答えはすぐに帰ってきた。
「え?」
針。
小さな小さな針がロレッタの首筋に刺さった。
(僕の毒針!?いつの間に!?いやそれよりも)
首筋に刺さっているおが彼女の針ならばこれには細工がしてある。
「あ、がっは……ッ!!」
毒蛇の毒、それが針には塗られているのだ。
幸いにも命を奪うほど強力でないにせよ痛みと腫れが症状として出てくる。
「おらァッ!!」
「ッ!!」
針が飛んできた方角に目を向けたのがいけなかった。
いつの間にかアダンが右側面に回り込み、飛びかかってきた。
「ロレッタ……なんでだ!?なんで俺たちを狙った!?吐け!!」
髪の毛をつかみ乱暴に地面にたたきつけ馬乗りになる。
そうして仰向けに見たアダンの顔は……
「師匠……」
泣いていた。
血を失って青白い顔が涙でぐしゃぐしゃになっていた。
「答えろロレッタ!!お前に俺を殺す理由はないだろ!!」
涙ながらにアダンはそう言った。
「理由……まだそんなこと言ってるんですか貴方」
「なんだと?」
「昔のあなたなら、こんなことせず殺してた」
アダンのその言葉を聞いてから、彼女の体から力が抜ける。
「何言ってる?俺は理由が知り……」
「何善人ぶってるんだよ!!ふざけるな!!」
ロレッタの怒号が林に響き渡る。
「組織の命令とはいえあれだけの罪のない人間を殺しておいて、今更人助け?弱者をお助け?自分の過去から逃げた糞野郎が!!」
「……」
「僕たちは無様に無惨に死ぬ、もうそれ以外に償う術なんてないんだよ!!」
「……」
「もし償える方法があるっていうなら……教えてくださいよ。師匠なんでしょ?貴方。教えてくださいよ。死んでいった人間に償える方法ってのを」
答えが見つからなかった。
彼女の投げた問いに答えを出すには、アダンはあまりに血にまみれすぎていたのだ。
「いつまでたっても消えてくれないんですよ。罪もない人間を殺してしまったと知ったあの日から……夢の中だろうがどこだろうが殺した人間の悲鳴が今も聞こえてくる」
「お前……ずっとそれで苦しんでたのか」
「殺してくださいよ。もうそれしかない」
ロレッタから自嘲じみた笑みがこぼれた。
死ぬのなら今だ、そう思った。
「出来ない」
「なぜ」
「出来ない」
「はは……この意気地なしが」
馬乗りになりながら涙を流すアダン。
その姿はまるで子供のよう。
「ロレッタ……ちゃん?」
押し問答をしていたその時だった。
聞きなれた声が二人の耳に飛び込んでくる。
それはマブトの声だった。
「アダンちゃん、なんでロレッタちゃんを……まさかロレッタちゃんが俺達を?」
「っは!あっはっはっはっは!!」
魔太の姿を見た瞬間、ロレッタの表情が醜い笑みに染まる。
そして空いている腕をマブトに向け……
(仕込みか!?)
「やめろ!ロレッタ!!」
「死ね!」
狙いをつけ撃とうとした瞬間。
アダンの腕は自然と彼女の首筋に向かい。
「ア………………」
彼女の首をあらぬ方向にへし折った。




