第62話
「俺はその子の病気を治すためにこんなところで仕事してるのさ」
「ほう」
すっかり冷め切ってしまった粥を不快そうに胃に流し込みながらアダンとマブトはポールの話を聞いていた。
ロレッタはというと換気の為に窓と扉を全開にしてそこから顔を出し、ほぼポールの話を無視している。
「病気か、なんの病気だ?」
「目だ、片目が見えてない」
「そうか……辛いな」
アダン達は家の中で寝息を立てているコレットに目をやる。
ボロボロの服に臭う身体、不潔極まりない環境。
当然体に良くないのは明らかだ。
「少しは綺麗にしたらいいんじゃないか?家だってこんなボロじゃその子にも良くないぞ」
アダンはそう言った。
「そんなことわかってる。だが……」
「行く場所が無いんでしょ?」
先ほどまで外の空気を吸っていたロレッタが口を挟んできた。
「通常なら森の所有者は領主、で森番はあくまで委任されて仕事をするわけですがさっきみたいに勝手に木を切り倒したりするのは明らかにおかしい。僕たちに木を切るように指示した時も『金になる』っていうのが理由のようでしたし」
「……」
「ポールさん、貴方は……正規の森番じゃないですね?」
ロレッタに言われ、ポールは黙り込んだ。
答えに悩んでいるようにも見える。
「勝手に森番を名乗り、付近の村の住人や貴族から金を巻き上げ儲けてるわけか、そりゃ付近の村には住めないわな」
「…………そんなやり方しか無かったんだ。この子の目を治すためには」
「別に責めてるわけじゃないさ、子供を助けるためにどんなことでもする。親ならそうするだろうさ」
「まあ俺達には関係のない話だわな」
マブトは鼻をほじりながらそう言った。
「でも、どうやら僕たち以外はそう思ってないみたいですよ」
「あん?そりゃどういう……」
外に目を向けていたロレッタの表情が険しくなったのを感じた3人。
一緒になって外に目をやると……
「お客さんみたいだ。沢山いるが酒の準備は出来てるかポール」
「なんだと?」
夜よ森の中を松明を掲げながら歩いて来る集団。
それがポールの家に向かって歩いてきている。
「僕の追手の可能性もありますが……どう考えても面倒事の臭いしかない。逃げた方が得策ですね」
「コレットちゃんを起こせ。逃げるぞ」
「怖い……」
暗い森の中を明りもなしに怖がるコレットを連れ歩く一行。
目を凝らせばそこかしこに揺れる松明の灯りが見える。
探しているのだろう。
「さてとどうするか……」
顎に手を当てて考え込むアダン。
周りは敵だらけ、逃げ道がかなり限られている。
「おい、俺が音を立てるから逆の方向に逃げるぞ」
アダンはそう言うと腰にかけていた紐を解いた。
紐の真ん中付近だけが幅広い奇妙な紐……
「あらやだアダンちゃん、こんなところでズボン脱ぐつもり?」
「馬鹿、よく見ろ」
こんな時でもふざけるマブトに呆れつつアダンは近くにあったこぶし程の大きさの石を拾い上げた。
「投石器ですね。皆準備を……」
「そらっ」
石を紐でくるくると回し、勢いよく投げる。
そうして放たれた石は静まりかえった森の中で大きな音を立てて木にぶつかった。
「あっちだ!行け!!」
遠くからアダン達を探している人間の声が聞こえた。
「今のうちだ。行こう」
「おうよ」
アダン達はゆっくりと森の外を目指して歩き始めた。




