第58話
「覚悟は出来てるのか?下手すれば死人が増えるぞ」
河口に向かって雑多な武器を持ち行進する村の男たちに向かってアダンが問うた。
「俺たちの仲間が殺されたんだ、女子供も区別なく」
「仇討ちしてやらなきゃ死んでいった奴らが眠れない。だから行く」
「そうか……無礼なことを言った。許してくれ」
「いいさ、こうやって力を貸してくれるんだからな」
それから河口に着くまで彼らは何もしゃべらなかった。
「俺たちが回り込んで指揮官をやる。散ってきたら必ず数人でかかってくれ」
「ああ、分かった」
「頼んだぜアダンちゃん」
賊のいる場所までなんとかたどり着いた彼ら。
村の男たちはマブトに任せアダンとロレッタが賊の指揮官に向かう算段だ。
「骨が折れそうだな」
「慣れてますよ」
警戒している見張りを掻い潜り腹這いになりながら茂みに隠れ指揮官にアダンとロレッタは近づいていく。
「俺達はともかく、あいつらは素人だ。さっさと片付けないと……あん?」
「どうしました?ってあれ!?」
「馬鹿野郎共がッ!!」
当初の計画を無視して賊に向かって一直線に駆けていく一人の村人が見えた。
だがそれだけでは収まらない。
彼に同調して、あるいは止めようとしてほぼ全員が突撃しているのだ。
「ええい!ロレッタ!援護しろ!!」
「はい!」
見張りが叫ぶ。
その声に気が付いた賊の一人が続いて弓を先陣をきって走ってくる村人に狙いを付けた。
(間に合わん……)
どうやっても間に合わない。
諦めかけたその時だった。
「退け……」
全てを呪うような声がどこからか聞こえた。
「ッ!?」
アダンのすぐ脇を猛禽類のような速さで何かが駆け抜けた。
白金のような髪をなびかせながら一直線に駆け抜けていく女性……
「ヘルガ!?」
村人目掛けて飛んでいく矢、だがその矢が彼の身体を射抜くことは無かった。
「……ッチ」
すんでの所で飛び込み彼を突き飛ばしたヘルガ。
「あ、あんた……」
尻餅をつきながら彼が見上げればそこにいたのは左肩から血を流しているヘルガの姿が映った。
だが彼女の顔は痛みに歪んでなどいなかった。
ただただまっすぐに賊を見据え力の限り手にした剣を握りこむ。
「おいアンタ!どいてくれ、そいつらは俺達が……」
彼の言葉を遮るように彼女は剣を振るって地面に線を書いた。
「ここより先誰も入るな。これは私の戦いだ」
「おいヘルガ!やめ……」
駆け寄ろうとした瞬間、彼女の手から短剣が投げつけられアダンは思わずたたらを踏んだ。
「アダン、貴様も手を出すな」
鈍く輝く切っ先の無い剣。
それを構えた彼女は躊躇なく賊へと突撃していった。




