第54話
「幕は早かったですね」
湖に釣り糸を垂らしながら呑気に呟くロレッタ。
「そうだな」
隣でぴくりとも動かない釣り竿を眺めながらアダンが答える。
相変わらず釣りは下手糞な二人だが、マブトはもう気にしないことにした。
アダンの名前を名乗っていた者は全員倒し、その後村の人間に彼らが偽物であると伝えた。
結果村人は……
『あの糞野郎共!!ぶち殺してやれ!!』
このように怒り狂った村人が今にも手に手に武器を持って殺到しようとしていたがどうにかアダン達で抑えた。
無用な死人は出すべきじゃないだろう。
そう判断して。
「さて、俺達もそろそろ退散しようぜ。アダンちゃん」
「まあな。食料も暫くは補給に困らなさそうだしな」
宿屋に宿代に幾ばくかの金を渡して作ってもらった魚の塩漬けと油漬けを指差して言った。
小型の樽に限界まで詰め込んでもらったそれがあれば暫くは食料に困らない。
「……で、ロレッタ。お前はどうする?」
「どうする、とは?」
「付いてくるか?」
「そのつもりです。僕も賞金首になりましたし」
そう言って黒服の袖から似顔絵の書かれた紙を出した。
『ロレッタ 生死を問わず』
金貨300枚の首……
「立派なもんだな」
「『薬の番人』は全員賞金首です。師匠も気をつけてくださいね?」
「ああ、そうだな」
じっとマブトを見ながらそう言うと、アダンは立ち上がり竿を仕舞い始める。
「いくぞ、支度しな」
「あいよー」
「あ、僕忘れ物が。ちょっと待ってて下さい」
「ああ。早く帰ってこいよ」
「はい!」
ロレッタはアダン達と少しの間別行動。
向かった先は……
「あ……が……がぁ……」
首に食い込む鋼糸を解こうと暴れる男。
ロレッタが向かったのはアダンの名を騙っていた男たちの居る場所だった。
といっても陽気におしゃべりをするためにここに来たわけではない。
ここに来たのは始末するためだ。
「は、話が……違うじゃねぇか……お前の言う通りにすれば賞金が手に入るって……」
仲間の一人が腹に突き刺さった短剣を押さえながら絞り出すように声を出す。
彼以外は全員、ロレッタの手によって殺されていた。
首の骨を折られ、あるいは絞殺されて。
「約束はしたさ。けど君たちはしくじっただろう?」
「な……」
「最初の時に呑気におしゃべりなんてせずに弓でもなんでも使えば良かったものを」
「つ、次はうまくやるつもりだったんだ」
「君達みたいなド素人に警戒されてる師匠に勝てるもんか。……時間もないから早く死ね」
鋼糸を持つ手に力が入る。
「あ……」
解こうとしていた手が力なく落ちた。
「終わったか……じゃあね」
「さっさと行っちまえクソが……」
「もう行くよ。僕も師匠もむごたらしく死ななきゃならないんだ。そうしなきゃ僕たちは償えない」
「何言って……」
「僕が殺してあげますよ。師匠」
男が怪訝そうな顔を向けるが、ロレッタはどこか遠く……虚空を見ているようだった。
「ああそうだ。それには毒塗ってあるからね」
「ああ……糞が……」
「お休み」




