第51話
「マブト……」
「もう一軒行こうぜ。だーはっはっはっはっはっは!!」
時間は真夜中、すっかり酒が回り上機嫌になっているマブトとそれとは対照的に頭を抱えているアダン。
振られた男を慰めているようにも見えるが。
「俺の偽物までいるとは……」
「名前が売れてる証拠だろ。喜べよ」
「嬉しかねぇよ」
アダンの評判を聞いてみたが散々な物だった。
老いも若きも殺しつくす悪党だとか、平気で人を裏切る外道だとか、あとは間違いなく嘘だが処刑されても生き返って報復してきたなんていう話まで大真面目にされていた。
(一部本当なのがたちが悪い)
「まあまあ、罪ならその偽物が請け負ってくれるさ。お前はどんと構えとけばいい」
「冗談じゃない。俺の名前を勝手に使われてたまるか」
「じゃあどうするんだ?」
「捕まえる。当然だ」
なんなら罪を追加されかねない。
「でもよ。あいつら帰しちまったぞ。追いかけるのはもう」
「暫くここに滞在するか。少しだが金もあるしな」
「そうすっか。よっしんじゃもう一軒行こう!!」
「お前は飲みたいだけだろ!」
やいのやいの話しながら大通りを歩いているとマブトが人にぶつかった。
「おおっと!?」
「この馬鹿、すいませんうちのもんが」
「ああいえ、こちらこ……そ?」
ぶつかったのは暗闇に紛れるような黒い服を着た女性だった。
鼻から下を黒布で覆っているのであまり表情は分からないが……
不思議そうに顔をアダンに寄せてくる彼女に、思わず眉をひそめる。
「師匠……?」
「お前……」
「なんだ?お知り合い?」
布をずらして顔を見せると、アダンの表情が驚愕の色にそまる。
「ロレッタ!?ロレッタじゃないか!!」
「お久しぶりです師匠!お元気そうで」
「え?」
完全に置いてけぼりなマブトであった。
「いやーまさかこんなところで会うとは。奇遇ですね」
近くの酒場まで移動した一行。
店の中は暖炉などのお陰で暖かく、外に比べて格段に明るい。
アダンがまじまじとロレッタの姿を眺めていると可愛らしい表情を浮べた。
「アダンちゃん、この娘だあれ?」
「『薬の番人』の一人、ロレッタだ。俺の昔の弟子でもある」
「え?こんなにかわいらしい娘が!?」
マブトが驚きつつも彼女を見るが、そこに居るのはただの笑顔の少女。
「……ヘルガちゃんといいこの娘といい、俺人間が信じられなくなりそう」
「ヘルガ姉さんに会ったんですか?」
「ああ、襲われたけどな」
思い出しただけでも鳥肌が立つ。
「そうですか。僕はまだあれ以来あってないんですが……元気そうなら良かったです」
「元気ねぇ……」
処刑人の剣を振り回して殺しにかかってきたヘルガを思い浮かべ思わず身震いした。
「なあロレッタちゃん。こいつのこと師匠とか言ってたよな?どんなんだったの?」
「僕をしっかり一人前にしてくれた人、ですかね。……ところで貴方は?」
「俺はマブト。こいつと一緒に旅してる」
「……そう、ですか」
(……なんだこの子、ちょっと雰囲気変わった?)
背筋になにかうすら寒いものを感じつつ視線をアダンに移した。
「ま、まあここで会ったのもあれだ!明日は一緒に釣りでもしようや」
「そうだな。どうだロレッタ?」
「僕は構いませんよ。ご一緒します」
「んじゃ決まりだな。お二人の再会を祝して、乾杯!」
「「乾杯」」




