第50話
水責めという拷問がある。
やり方は濡らした布で鼻や口を塞ぐ、大量の水を強制的に飲ませる、顔面を漬けるというふうに様々だ。
なぜこんな説明をするのか……
答えは簡単だ。
「ごぼぼぼぼぼッ!!ふぁふけへッ!!」
「我慢強いなあアンタ」
「いやアダンちゃん。さっきから吐こうとしてるのをお前が無理やり水に沈めるからそうなってるんだぜ?」
魚を取っていた二人を襲ってきていた男たちはあっけなくアダンとマブトの手によって湖に叩き込まれ頭にたんこぶをいくつか作って浮かんでいる。
そして彼らの仲間の一人は今こうしてアダンによる尋問……いや拷問を受けている真っ最中。
「ああすまん。どうにも苦手だこういうのは」
「げっほげっほ……」
「で?お前ら以外にこういうことしてるやつらは何処にいるんだ?頭は誰だ?」
水を吐いている男に優しく語り掛ける。
彼の頭を掴んだままのアダンの手は頭蓋が割れそうなほど力が込められていたが。
「仲間はこれだけごぼぼぼぼぼ」
「やっぱり我慢強いぞこいつ」
「本当に知らないんじゃないのか?」
呆れた表情で彼をゆっくり水に戻すアダン。
「もういいだろ?帰ろうぜ。魚も無事だしよ」
「……仕方ないか。ほれ、もう帰っていいぞ」
「ごっふごっふ……げほ」
「湖の中にな」
「ぎゃああああああああ!?」
他の仲間と同じく、アダンは彼を湖に投げ込んだ。
「いやアンタら強いな。お陰ですっきりしたよ」
「ありがとうよ」
湖の村、そこでアダン達は宿をとった。
今は近くにある古そうな造りの小料理屋で食事をしている。
内装は古いが手入れが行き届いていて釣りが名物になるだけあって魚を使った料理はとても美味、アダンはバン粉を付けて揚げ、香草をつけたものが気に入った。
マブトも美味しそうに食べている。
「ああこれおまけだ。食ってくれ」
「松の実か。いい酒の肴になる」
店主に出された皿に盛られた松の実を食べつつ葡萄酒を飲む。
とても幸せな一時……
「ところであいつら、他に仲間は居ないのか?あんなのが野放しになるくらいだ。自警団もないんだろう?ここ」
「いや、自警団はある。けど数が多くてな。見つけ次第対応はしてくれてるが人出が足りてない」
(あいつら傭兵崩れかなにかか?)
「おまけに腕の立つ用心棒が付いているらしくてな。皆怯えてる」
「用心棒?名前は?」
店主にそれとなく聞いてみたが次に出た彼の言葉に思わず二人は口に含んでいた葡萄酒を噴き出した。
「隣の国で暴れまわった賊で『薬の番人』って呼ばれてるそうだ。名前はそう『アダン・ルー』」
マブトの大笑いを聞きながら、アダンは黙って葡萄酒を呷った。




