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薬の番人、旅をする  作者: 田上 祐司
硝子の街 編
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第39話

 「すいません頭!!何も持って帰れませんでした!!」


 燭台に置かれた蝋燭の光だけが灯る薄暗い部屋……そこで恐怖に震えながら男は頭を下げていた。

 目の前に居るのは机の上に並べられた豪勢な食事を優雅に食べる頭。

 右耳を失い豊かな顎髭を蓄えたやや痩せ型の男……

 虚ろな黒い瞳からは不気味な雰囲気を醸し出している。


 「何も持って帰れなかったか……どうしたもんかねぇ。お客人を待たせることになるが」


 気だるげな声で話しながら頭は目の前にいる黒い肌の青年に視線を向ける。


 「まあ、のこのこ帰ってきたお前には何か罰を与えないとなぁ……そうだな。俺と同じように耳をそぎ落とすか」


 愛おしそうに今はもうない右耳を撫でる頭、そんな姿を見て男はガタガタと震えるだけ。

 だが頭は次の瞬間にはその姿を見て驚くほど快闊に笑い出した。


 「冗談だ。まあ形は違うにせよちゃんとあいつは連れてきてくれたんだからな」


 「え?」


 思わず疑問符が浮かんだ。


 「頭!!上の見張りが消えました!」


 「え?どういう」


 「アダンだな。丁重にもてなしてやれ。殺す気で行かないと死ぬぞ。ほらお前も行け」


 「は、はい!!」


 慌てて上に走っていく男達。

 その姿を満足げに見送ると、頭は青年の方に向き直った。


 「マブト……だったか?少し待ってろすぐに来てくれるからな」


 「…………」


 




 「……」


 人一人が通れる幅の地下通路には入ってきた敵に対して奇襲をかけられるように人が立って隠れられる窪みがいくつもある。

 彼らの一部はそこに隠れ潜み哀れな犠牲者が来るのを短剣片手に今か今かと待っていた。

 響いて来る足音に思わず身構える彼ら。


 「……音が消えた?」


 通路の反対側に居る仲間に手で合図を送る。

 怪訝そうな顔をしながら鏡の破片を使い様子をうかがう。

 人影は何処にも無い。


 「……何処にいやがるんだ?」


 誰も居ないことを確認して窪みから出た彼ら。

 一つ気が付いたことがある。


 「煙?」


 入り口の方向から白い大量の煙がこちらに向かってきている。


 「燻りだすつもりか!?」


 「どうする?」


 「……」


 出ていけば出た端から狩られる。

 とどまれば……


 (このままじゃあの人質は俺達諸共死ぬことになる。ってことは)


 「このまま待て。突入してくるぞ」


 「お、おう……」


 段々と煙が充満し視界も呼吸も悪化していく一方。

 焦りつつも待っていると、視界に何か黒いものが少しだけ映った。


 「なんだ?」


 仲間の一人が確認しようと短剣を前に突き出しつつ進んだ。

 もっとも、行った仲間が帰って来ることはなかったが。

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