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薬の番人、旅をする  作者: 田上 祐司
硝子の街 編
39/78

第38話

 マブトが娼館へと繰り出している間アダンは宿で面倒そうに弩の整備を粗末な机に道具を並べてやっていた。


 「弦はそろそろ変えたいが、まぁないなら仕方ないか」


 彼の持っている弩は通常のものよりも小型なもの。

 その分威力も射程距離も落ちるが軽く、装填も少ない力でやれるのだ。


 「にしてもマブトめ……いつになったら帰ってくるんだ」


 ここにはいないマブトについてぶつぶついいながら整備をしていると部屋の扉をこんこんと叩く音……恐らく彼だろう。


 「マブトか?おまえ女遊びもいい加減にしとけよ」

 

 「残念、あんたの連れじゃないぞ」


 「あん?」


 聞きなれない声に整備の手を止めて振り返ると部屋の中に小汚ない黒服に身を包んだ男が入って来ていた。

 当然彼に見覚えはない。


 「誰だおまえ?」


 さりげなく短剣に手をかけるアダン。


 「俺が誰か分かるか?」


 「知らないさ。綺麗なお嬢さんなら喜んで覚えるがね」


 「まぁいい、本題に入ろう。俺と一緒に来てくれ」


 「断る」


 「お前の連れ、預かってると言ってもか?」


 「………………」


 頭が痛い。

 中々帰ってこないとおもえばマブトはよりにもよって人質にされているようだ。


 「奴は俺達が面倒見てる。あまり待たせると殺されるかもな。……で?来てくれるな?」


 「ああ、そうだな」


 アダンは立ち上がり男の近くまで寄っていくと……


 「ぐべらっ!?」


 顔面を思いっきり殴った。


 「ちょっと鬱憤はらすのに付き合ってくれ」


 男は折れた歯を口から吐き出しながら見上げると彼はドス黒い笑顔を浮かべていた。






 「よっこいせっと……もうくるなよ?じゃあな」


 上着と足を掴んで男を窓から外に投げ捨てるアダン。

 まるで潰れた蛙のようになっている男を尻目に、彼はまた弩の整備に戻った。


 「あ……あの野郎……話が違うじゃないかよ」


 血反吐を吐きながら、半ば這いずるようにして男は宿を離れていく。


 (なんでこうなった……?)


 男はただの一般人一人連れてこいと上から言われていただけ。

 だが結局それは出来なかった。

 ほぼ無抵抗で殴られて仕舞いだった。


 「帰ったらどうなるんだろ……俺」


 下手すれば殴られるどころか川に沈められる。

 だが逃げ出してもこの体では野垂れ死にするのが容易に想像できる。

 

 「帰るしかないか……」






 「おい!?何があった!?」


 這う這うの体で仲間のまつ場所まで戻った。

 崩壊しかけた元は何に使われていたのかも分からないような木造の建物。

 そこが彼らの拠点だった。


 「酷いな。腕が完全に折れてやがる」


 「連れてこいって言ってた奴は……この分だとしくじったなお前」


 「……ああ。頭は?」


 「居るよ。酒飲んでる」


 呑気に戻ってきた男を見て心底憐れそうに見る仲間。

 こいつも今日で見納めか、そんな顔をしていた。


 「御愁傷様」


 そう言うと仲間の一人が床のタイルを上げた。

 下にはまるで奈落のように口を開けた穴が一つ……地下への入り口だ。 

 少し迷いはしたが、男は意を決したように入っていく。


 「……あいつも災難だな。そう思うだろ?」


 「……」


 「おいどうした?な……」


 振り向いた瞬間、尋常ではない力で首を締め上げられた。


 「ひゅ……ひゅ……」


 まともに息も吸えず間抜けな音が口から漏れる。

 薄れていく意識の中でかろうじて確認できたのは力なく倒れた仲間と……


 「…………」


 くしゃくしゃの黒髪をした青年の姿だった。


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