第十二話 観光・2
主人公たちの住んでいる町はリトホルムと言います。ゼルマは主人公の乳母です。
護衛の兵士の一人の名前を変更いたしました。既存キャラとの名前被りがあったからです。
ヘロルド→トーマス
「おお、これがヨアヒムの使っていた大剣か! あっちには鎧まで! いくぞマルテ!」
「お待ちくださいジギスムント様」
記念館に着いた僕たちはすぐさま建物の中に入った。玄関を開けて最初に目に入ったのはガラスケースに入れられた大剣、その周りには十人ほどの人だかりができていたが、貴族が来た事を察した見物人達が道を開ける。
ジギスは真っすぐに大剣へと向かった。大剣に見とれたかと思えば壁際に展示されていたヨアヒムの鎧まで駆けだした。それを後ろからジギスのメイドが追う。
「ジギスムント様は大変元気でいらっしゃる」
そういってトーマスさんはジギスとメイドの後に続いた。僕の横にはアニと、ミランダさん、ユーリが立つ。
「とりあえず、端から見ていきます」
僕は手前の展示物の前に向かった。
三十分位たっただろうか。僕はほぼすべての展示物を見終えていた。玄関前のロビーに座り、ジギスの観覧が終わるのを待っていた。ジギスはまだ一週も見終えていない。一つの展示にいる時間が長いうえに、すぐに一つ前の展示に戻ったりする。
僕も前世では恐竜博物館なんかで同じことをした時もあるし、気持ちはわかる。子供にとっての博物館はそれだけ心を躍らせるものなのだ。
「アルノルト様はもうよろしいのですか? もうしばらく展示を回っても大丈夫そうなご様子ですけれど」
アニが僕に尋ねる。
「ああ、もう大丈夫。それより、僕は少しお腹が減ったかな、ジギスが展示を見終わったら次は昼食を取りに行きたいな」
「お、なら俺のおすすめの店に行くか?」
そういうユーリをミランダさんが睨む。その視線に気が付いたのかユーリが一言付けたす。
「大丈夫だって、ちゃんと貴族様にふさわしいような店だよ。俺だってAランクだぜ? 貴族様の食事処に行けるくらいの金はあるっての」
「ならば、よいのですが」
「いつも女を口説くときに使ってるんだよねぇ。いい雰囲気の店でさぁ、結構成功率たかいのよねぇ」
「不潔な!」
またもやユーリとミランダさんが喧嘩を始める。喧嘩と言ってもミランダさんをユーリがからかい、ミランダさんが突っかかるという感じだが。
それからジギスが展示を見終えたのはさらに三十分程経った後だった。戻ってきたジギスに今度は昼食を取らないかと提案した。走り回って疲れたのか、その提案をジギスはすんなりと受け入れた。
それから僕らはユーリのおすすめのお店へと向かった。その店は雰囲気が良く、確かに、デートの時に使ってもよさそうな内装をしていた。店の中には僕とジギス、それにメイドのみが入り、護衛組は建物の外で待機することになった。
どうやら店のドレスコードというやつで、鎧姿では中に入れないとの事。そもそも店の中には店で雇った護衛の者もいるらしく、中のお客に危害が加えられることは無いとのこと。
料理の味自体も大変美味で、普段食べている料理よりもおいしいのではないかと思うほどだ。流石王都とでもいうべきかな?
昼食を終えると、ジギスが懐から紙を取り出し、トーマスへと渡した。今日の行程表の様だ。随分と準備がいい。よほど今日の観光が楽しみだったんだね。
僕はなんだか遠足に出かける子供を見るような気持ちになった。
日が暮れてきた。馬車の中から見える人影も段々と少なくなってきた。その人たちも昼間に見た人たちとは違い、子供を連れ、買い物籠を持っていた主婦の方たちから、獲物をぶら下げ、傷だらけの体の者たちへと変わっていった。
「武器を持った人たちが目立つね。やっぱり、みんな冒険者たちかな?」
誰にでもなく呟いた僕の言葉をジギスが拾った。
「そうだろな。やっぱり冒険者はかっこいいな。あの体の傷、きっとみんな死線を潜り抜けてきた証なんだろうな」
「ジギスは昔から冒険者とか騎士とかそういう戦う人に憧れてるよね。なにか特別な思い出とかあったっけ?」
ジギスは昔からそういう者達への憧れがあった。それには気づいていたけれど、ジギスがそうなったのはいつからか覚えていない。何か特別な経験をした覚えはなかったけれど……。
「何でアルノルトなんかにそんなことを言わなければいけない」
「家に着くまでの少しの間だからさ。別にいいじゃん」
「……いいだろう。――俺が騎士や冒険者に憧れるのは小さい頃に聞かせてもらった話がきっかけだ」
ジギスは少しだけ寂しそうな表情を見せた。
「正直、俺自身記憶にはほとんど残っていない。けど、確かに聞いたことがあったんだ。その話はマルテに聞いても、母様に聞いても知らないと言われたんだがな。もしかしたらゼルマに聞いたのかもしれながな」
「それはどんな話なの?」
「民を脅かす魔物を冒険者が倒す話だ。不思議な果実から生まれた男が神の啓示に従って、三匹の神獣と共に邪悪なる魔物の親玉を倒すんだ」
あれ?
「神獣は男の持つ宝玉を目印にしていたんだ。『桃太郎さん、お腰に付けたキビ団子』とかなんとか言っていた気がする。ただ、あまり聞きなれない発音だったのを覚えている」
おい。
「小さい頃の本当にかすかな記憶だ。でも、泣きじゃくっていた俺をその話で楽しませてくれた。それだけは頭の片隅に残って離れないんだ。それから俺はずっとあの話に出てきた男に憧れているんだ」
あっああ、ああああああ。思い出した。そうだ、確か一度だけ、ジギスに桃太郎のは話をしたことがあった。まだ、ゼルマがいた時の話。その日は父さんとアンネローゼが外せない会議があるからと二人してリトホルムからいなくなった日だ。
ゼルマが誰かに呼ばれて部屋から出て行ったとき、しばらくしても戻らなかったゼルマに不安を覚えたのか、ジギスがわんわんと泣き出したのだ。
子守の経験のない僕は何を考えたのか、話も通じないであろう年のジギスに昔話を聞かせたのだ。何やってんだろうと思いながらも、当のジギスはきょとんとしながらもこちらを見て、泣くのをやめてくれた。そのまま興が乗った僕は身振り手振りを交えて、桃太郎の話を聞かせた。
ただ、一言言いたいのは僕は決してアレンジなど加えていないという事だ。神獣やら宝玉、神の啓示なんてのはジギスの記憶違いだ。どうしてそんなアレンジが加わったのか知らないけどさ。
ふむ、どうやらジギスの英雄好きは僕が原因だったらしい。
「おい、アルノルト。人に話を聞いておいてなんだその態度は」
「え、ああごめん。ちょっと考え事をしてて」
「っち。アルノルトはこの話に聞き覚えはないか?」
どうしようか。正直に言ってもいいけど、ジギスはそこら辺納得するだろうか。どうにも僕にはこじれるような気がしてならない。
僕は黙っていることにした。
「いや、知らないよ。ジギスは父さんたちの来客によく会っていたからその時の話なんじゃないかな?」
「そうか、お前が知らないとなると、家の者ではないか……」
ジギスは誰から話を聞いたか思いだそうとしているのか、俯き口に手を当てて考え込む様子を見せる。ごめんね、本当は僕が話したお話だから、来客の人を思い浮かべても語り部は見つからないんだ。
僕らはゆっくりと馬車に揺られながら家へと向かった。
お読みいただきありがとうございます。
ご指摘ご感想などいただけたら幸いです。




