第十三話 パーティー
心臓の鼓動が早くなる。手には汗が浮かび始め、喉がカラカラに渇いているのがわかる。僕はテーブルの上に置いてあった水を持ち、一気に飲み干した。
周りでは僕以外にも似たようにそわそわした仕草をしている子供たちがいる。それとは反対に堂々とした立ち振る舞いを見せるものも。
僕は王城にいる。王主催のパーティーに来ているのだ。周りには今年七歳になる、もしくはすでになった子供しかいない。
それ以外にはこのパーティーの主催者である王様と、その直属の世話係、食事を運ぶウェイター位しかいない。
各々の家のメイドや執事すらこの場には同席を許されなかった。
会場では位の高い貴族から王様へとあいさつをしていった。その間、僕らは待機時間を過ごすわけだけど、とても歓談なんてできる状態じゃない。どの貴族の子供もいつ自分があいさつに行く番かとそわそわしている。
普段ならば大人に付き添い、それについていけばいいだけだが、今周りに大人はいない。
挨拶の順番は位順だが、同爵位の中では去年の領地ごとの査定によって順位付けがなされている。僕らはその順番を覚えておかなければならない。
ここで自分の順番を覚えられない、守れない様な者は貴族としての評価を低くみられることとなる。
僕とジギスの番まであと少しとなった。
僕は先ほどから一向に緊張が解けないままドキドキし続けている。ジギスはどうなのだろうと思い、僕の横に立つジギスを見た。ジギスは表情に緊張を出さないように工夫しているが、やはり緊張はすさまじいようで、手の先がかすかにふるえている。
「ジギス」
僕は声をかける。
「なんだ」
短く言葉が返ってくる。
「緊張してる?」
「そんなものしているわけないだろ。なんだ、お前は緊張しているのか」
「うん、だからさ……」
僕はジギスの手を握った。その行動にジギスは驚いたような顔を見せ、体が固まった。
「こうやって手を握っていてくれないかな? 王様の前に出ていくまででいいから」
「…………いいだろう。アルノルトが失態をすれば俺も恥をかくことになる。それは父様や母様の外聞にも悪い。しょうがないからこのままでいてやるよ」
僕はジギスと手を繋ぎ順番を待った。
繋いだ手は震えることなく、固く握りしめられていた。
「リーベルト伯爵家ヘロルド・リーベルトが第一子アルノルトでございます」
「同じく第二子ジギスムントです」
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「うむ、リーベルトの者よ。よく来た」
僕らの礼に軽く返す王様。僕らは王様の前でひざまずき、顔を下に向けている。正直、今王様がどんな目で僕を見ているのか凄く怖い。第一声から失礼はなかったかとか、散々勉強したはずなのに不安があふれそうになる。ジギスの様子も気になるけど、それでも今は王様の前。横を向くなんて不敬ととらえられてもおかしくない。
「まずは、そなたらの顔をよく見せてくれ」
その言葉を聞いて僕とジギスは顔を上げる。目の前には優しそうなおじいちゃんのような微笑みで僕らを見つめる王様がいた。
「ふむ、アルノルトは真っ赤な髪の真っ赤な目。エルネスト家のリアだったか……よく似ておるな。ジギスムントはクレンティエン家のアンネローゼだったな。やはり、よく似ておる。おぬしらは二人とも母親になのだな。……しかし、二人が確かに兄弟だと思わせる様な処もある。そちらは父親のヘロルド譲りなのだろうな」
王様は僕らを見て、母親の容姿を思い出したかの様に懐かしんだ顔をした。すごいな、アンネローゼはともかく、僕の母親は伯爵家の第二夫人、それも数年も前に亡くなっていたのに。
「さて、二人の顔も見れたことだし、もう会場の方に戻るがいい。今は私の前で緊張しているだろうが、向こうではノビノビとするがいいさ。ここは大人のしがらみなどない場だからな。自由に会話をし、友を作り、次世代の絆を強くしてほしい」
「お言葉、ありがたく頂戴いたします」
そういって僕とジギスはその場を後にした。
それからしばらくして、一番最後の序列の者が王様に挨拶を終えた。
最後の人が王様の席から離れた事を確認すると、王様は立ち上がり大きな声を上げた。
「貴族の幼子たちよ。今宵は私の主催したパーティーへ参加よくぞ来てくれた。例年ならばこのまま私が去り、君たち幼い世代のみの交流会へ移るのだが、今日は私から紹介したい者がいる。入ってきなさい」
会場入り口の大きな扉がゆっくりと開く。扉の奥には二人の子供が手をつないで立っていた。二人はゆっくりとした歩調で進む。進路にいた貴族たちは彼らに道を譲る様に脇に退いた。
二人が僕らの横を通った。二人は僕らに目をやる事すらせず、真っすぐに王の下へ向かう。
王様の前まで来た二人はこちらに振り返る。
「さぁ、紹介しよう。君らから見て右側の女の子が、セレスティーナ。左側の男の子がレオンハルト。二人とも私の孫だ。二人とも皆と同じ年だ。この後友好を深めてほしい。されでは今度こそ私は退出するよ。それじゃあみんな仲良くな」
王様は先ほど王子たちの通った際にできた道をそのまま歩いて帰っていく。
「俺はルンドグレン王家第一王子エリックの三男レオンハルトだ」
「私は長女のセレスティーナです。皆さま、本日はよろしくお願いします」
待て待て待て待て待て! なんで急に王子や王女様が出てくるんだよ。今の第一王子に僕らと同い年の子供が二人もいるなんて聞いてないぞ!?
周りの貴族たちも二人の存在を知らなかったようで驚きを隠せていない。そんな中一人の男の子が二人の前に走り出し、ひざまずく。
「私は南部の辺境伯家のアルセルム・カラズと申します。レオンハルト殿下、セレスティーナ殿下にお会いできたこと誠に嬉しく存じ上げます」
「ふむ、カラズの者か。覚えておこう」
レオンハルト殿下のその言葉に反応したのか、次々に子供たちが王子たちの前に走り込み、ひざまずき始める。
「邪魔だ」
僕は後ろから押し寄せる子供たちに突き飛ばされ、転んでしまった。
「アルノルト」
ジギスが僕に心配そうな目を向けるがジギスは流れに乗りそのまま殿下たちの下へと流されていく。
転んだ僕の横を子供たちが我先にと過ぎ去っていく。
「大丈夫?」
僕の目の前に手が差し出される。
「ありがとう」
僕はその手を取り立ち上がる。
「みんな殿下達に夢中……全く、王様も最後にどでかい爆弾を残したものね」
「君はいかなくていいの?」
「ええ、私は別に王族に取り入る必要なんかないもの。もう仕える先が決まっているしね」
そういって目の前の少女は僕の顔をじっとみる。
「な、なに? そんなに見られると恥ずかしいんだけど……」
顔と顔がぶつかるくらい近くに顔を寄せる少女。困惑する僕の表情を楽しんだのか、すぐに普通の距離に戻る。
「そういえば、あなたの名前……聞いてなかったわね」
「え、ああ。ごめん。助けてもらったのにね。僕はア――」
目の前の少女は僕の言葉をさえぎって声を上げた。
「私はフィーリネ・エルネスト。ゼルマの娘よ。初めまして、アルノルト君。そして私の仕える予定のご主人様」
少女は舌を出し、いたずらっ子の様に微笑んだ。
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