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21話 舞踏会にカチコミ

マナ・パンポット……浮気性でマフィアの旦那に愛想を尽かし、家を出る。ナイフさばきが上手い。旧姓マーメルを使うことにした。


メリメオン(ミカ)……ノーリンジ王国の第1王子。橙色の髪に、透き通るような白い肌。王宮内の陰謀により誘拐された。


キンカ……ノーリンジ王国の国王。ミカが誘拐され行方不明になって以来、憔悴している。


カーリー……ノーリンジ王国の王妃。冷えきった目に燃え盛る野望を宿している。ミカ王子誘拐事件の黒幕。


ポンカ……ノーリンジ王国の第2王子。武芸に秀でる。わんぱくで生意気なクソガキ。


レモ……ノーリンジ王国の前王妃。ミカの実母。故人。


バンズばあや……パンポット家の有能な使用人。〔パンポット・ファミリー〕先代のボスの娘。


カット卿……政財界の黒幕。ナイト爵持ち。カーリー王妃の父親。


ジェイミー・ジュースカジュー……マナの昔の男。銃の達人。マナとの決闘に破れ死亡。

 まるで色とりどりの波が打つ海のようだった。

 舞踏会に臨む大勢の貴族はいずれも華麗な衣装で身を包んでいた。

 特に女性陣のドレスは、鳥獣や植物などの凝ったデザインや、もしくは珍しいパターン模様が、きらめく糸を用いて刺繍されており、一着一着が芸術品のレベルに達している。

 それが音楽にあわせて踊るわけだ。

 当然、にぎわいは素晴らしい。

 にもかかわらず、


「はあ……」


 浮かない顔をしているのは、他でもない、主催者であるキンカ国王その人だ。


「陛下。踊りませんこと?」


 彼のとなりに立つカーリー王妃が冷たい微笑で誘いをかける。


「とてもそのような気分にはなれん」

「公務です。せめて笑顔をおつくりになってくださいませ」

「このような時に笑っていられるものか」

「お祝いですもの。自然と笑みが浮かんでくるではありませんか」

「祝い……? 何のことだ……?」


 首をひねるキンカ。

 だが、追及は客人によって妨げられた。

 貴族の中でも特に重要で、決してぞんざいに対応してはならない人物だったため、さすがにキンカも国王らしくふるまわざるを得ない。

 例によって、大人の会話を黙って聞いていられるほど、ポンカ王子は我慢強くなかった。


「おっさん。これ見てよ!」


 ポンカは、そこらの花瓶から引っこ抜いた花を宙に投げ、次の瞬間、


「おらあ!」


 ナイフですぱすぱっと切り散らかした。

 それはミカから没収した折りたたみ式のナイフ。

 処分されてしまうところを、ポンカがねだったため、もらうことができたのだ。

 さて、唐突な余興は客人を感心させたものの、


「これ。危ないではないか。そもそも、おっさんなどとは失礼な」


 父を怒らせてしまった。

 しょぼんとするポンカ。

 気まずかったのか、客人は話題を変えるように、


「ところでミカ王子殿下はいらっしゃらないのですか? 本日はお姿が見えませんが」

「あ、ああ。あれなら熱を出しておってな」

「それは残念」

「うむ。あれは母親に似て、体が弱くてな……」

「ええ、ええ。お顔立ちも前王妃陛下によく似てらっしゃって……」


 誰も傷つけない、ごく普通の発言。

 そう思っていた客人だが、ふいに現王妃カーリーの表情を見やると、冷たい視線が自分に向けられているではないか。

 能面から、とてつもない圧が発せられている。


「わ、私は踊ってまいります。それでは……」


 あわてて立ち去った。

 いぶかしがるキンカ。

 王妃は彼の手をとって、


「私たちも踊りましょう」

「しかし……」

「ぱーっと踊って、すべて忘れておしまいなさい」


 会場には貴族の他、豪商も数名いた。

 もちろん、カット卿の姿もある。

 豚のように膨れ上がった体型から想像がつく通り、運動は苦手なのだが、王宮からの招待に応じないわけにはいかない。

 躍りを誘われないよう、隅っこの方で、ちびちび酒を舐めていた。


(つまらんなあ……)


 立場を忘れて、さっさと帰ってしまいたい。

 溜め息をついていると、


「おお……」


 小さなどよめきが起こった。

 何の期待もせずに、そちらを見たカット卿の目が大きく開く。


(これはこれは……)


 一人の女性が会場へ遅れて入ってきた。

 美しい。

 月光よりもまぶしいドレス。

 星を石に閉じこめたような宝石。

 彼女がマナ・マーメルだとは誰も知らない。

 カット卿でさえ、直接の面識がないため、彼女の名前もわからないし、ましてピラドスの妻だと連想できるはずもない。

 よしんば気づいたとしても、硬直したまま動けなかっただろう。

 カット卿の目は彼女の美貌に釘づけになっているのだから。


「もしよろしければ、私と踊りませんか?」

「いやいや。ここは私と……」

「是非、私と!」


 マナは高貴な殿方たちから、お誘いをたくさん受けた。

 淑女たちから嫉妬の視線が向けられる。

 が、すべて断って、まっすぐカット卿のもとへ。


「私と踊ってくださらない?」

「も、もも、も、もちろん!」


 今度は紳士たちの嫉妬の視線がカット卿へそそがれる。

 二人は誰の目も気にすることなく、手に手をとって、前へ後ろへ、右へ左へ、人にぶつかりまくりながら踊った。

 カット卿はダンスに慣れていないのに加え、美人を前にしてひどく緊張しており、ぎくしゃくと不自然極まりない動きをしている。

 このような美人が、


(どうしてわしなどを……?)


 選んでくれたのか疑ってもみないのは、大胆に開いた胸元に夢中だから。

 曲が変わっても相手を変えず、二人は躍り続けた。

 他の男たちはすっかりあきらめた様子。

 その時、マナが彼の耳にささやいた。


「一緒に抜け出しませんこと?」


 カット卿は鼻の下を伸ばして、うんうんうなずいた。

 二人は周囲に怪しまれないよう、別々に移動した。

 マナが会場から外へ出ると、先に移動したカット卿が自分の馬車の中から手招きをしているのが見えた。

 その時は優しげな年寄りの顔だったが……


「ぐふふ。こりゃいかんねえ。実にふしだらな体をしとるじゃないか」


 馬車の中。

 誰の目も気にしなくてよくなった途端、目尻を下げ、鼻の穴をかっぴろげ、今にもマナに吸いつかんばかりに唇を突き出した。

 マナの腕や脚をさすりながら、


「わしの家へ行こう。悪いようにはせんから。むしろ、いっぱいよくしてあげようじゃないの」


 必死になって口説く。

 その手と口が止まったのは、外から鈍い音が聞こえてきた時。


「……?」


 その音も気になるが、馬車が全然走り出さないことも気がかりだ。


「おい……?」


 御者に声をかけたのと、扉が開かれたのは同時だった。

 次の瞬間には、老女が入ってきて扉を閉めている。

 老女は担いでいた御者を足元に転がす。

 さっきまでタコのように紅潮していたカット卿だが、たちまち真っ青になって、


「こ、殺したのか……!?」

「お疲れのようでしたので、眠っていただきました」

曲者(くせもの)め!」


 カット卿は襟元からネックレスを引っ張り出した。

 その先端には笛がくっついている。

 これを鳴らして助けを呼ぼうという魂胆だったのだろうが、思いもよらない方向からネックレスは切断され、奪われた。

 ついで、ナイフが首にあてがわれる。

 それをやってのけたのは、ほんのさっきまで自分に好意的だった女性……。


「誰がこんな親指みたいな男を好きになるもんか」


 マナはげらげら笑った。

 バンズばあやがそれに続いて、


「指と言えば、この人の指をご覧ください。ぶよぶよでございます。これは、ろくに働いていない男の指ですね」

「部下を酷使して、自分はあぐらをかいてるタイプだね」

「日焼けもしておりませんものね」

「おまけにスケベジジイなんだから」


 カット卿は怒りに震えた。

 これだけ好き放題に言われたら、当然ではある。

 が、抗議の言葉は出てこない。

 そんな勇気はないのだった。


「それじゃあ、本題に入ろうか」


 マナは老人を睨み、


「あの子の居場所を教えて」

「……あの子?」

「メリメオンだよ」

「??」


 カット卿は困惑した。

 メリメオンなんて子供は聞いたことも見たこともなかった。

 バンズばあやが不安げな面持ちで助け船を出す。


「ミカ王子殿下のことでございます」


 今度はきちんと伝わったらしく、カット卿は逃げようと身をよじり始めた。

 ところが、いつの間にか体を縛られていることに気づき、だったら叫ぼうと口を大きく開いたところで、


「静かに……ね?」

「う……」


 マナによって黙らされてしまった。

 ただ単にマナが怖かったという話ではない。


「おとなしくしてくれないなら、ぐさっといっちゃうよ?」


 ナイフの先端が、爪の下側をえぐるように突きつけられている。


「拷問は得意だよ」


 マナのささやきから、カット卿は本物の殺気を感じ取った。

 それにしても……


(どうしてこやつらは王子誘拐のことや、その裏にわしがいることを知ってるのか……それに、この手慣れた感じ。ただ者じゃあないぞ……)


 思いきって、疑問をぶつけた。


「あんたらいったい何者だね?」


 すると二人の女性は悪そうな笑みを浮かべ、


「マフィアの元妻、と名乗っておこうかな」

「わたくしはマフィアの娘でございます」


 カット卿の心臓がますます鼓動を早めた。


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