表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
明日を迎えるための場所 ~炎上した銭湯と、居場所をなくした人たちの再生物語~  作者: 凪子
【結実理編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
7/15

天見家の朝食は、割とゆっくりの九時ごろである。


『松の湯』の開店は午後三時だが、それまでに店内の清掃を行い、設備チェックをし、ボイラーで湯を沸かす必要があるので、十二時には仕事を開始する必要がある。


前日の騒動で寝たのが二時過ぎになってしまったので、まだ眠い目をこすりながら起きる。


朝食は私が作り、昼食は各自で、夕食はおばあちゃんが作るのが我が家のルーティーンになっていた。


白ご飯とお漬物に、味噌汁と卵焼きを作って、たまに焼き魚なんかも添える。


パンの日もあるけど、おばあちゃんが和食派なので朝はこんな感じのメニューが多い。


一階の居間にある昔ながらのちゃぶ台にご飯を並べ、テレビをつけて朝のニュースを見ながらご飯を食べる。


お仕事前の、ほっとするひとときだ。


「昨日の子、あれは家出やな」


食後のほうじ茶をおいしそうに飲みながら、おばあちゃんは唐突に言った。


ニュースが終わったので、私はテレビを消したところだった。


「何?」


「指輪しとらんかったやろ」


「あ、ゆみりーのことね。家出って……子どもじゃないんだから」


指輪の件は気になっていたが、家出という単語がそぐわず、曖昧な返事になった。


おばあちゃんが手を差し出したので、新聞を渡し、流し台に食器を持っていく。


「ほら、お湯で変色するとか言うし、結婚指輪、外す人もいるでしょ?」


水を出して食器を洗い始めると、不意におばあちゃんの声が消えたので、私は振り向いた。


「何か言った?」


おばあちゃんはこの話題に興味が失せたのか、返事もせずに新聞を読んでいる。


本当マイペースな人だ。慣れてるけど。


私のおばあちゃん――松田登紀子は、二十歳そこそこで松田家に嫁いできて、若女将として『松の湯』で働いていた。


若女将といっても特別扱いは一切なく、掃除から始めて番台を任せてもらえるようになるまで十年かかったそうだ。


曾祖父と曾祖母が亡くなってからは、看板女将として『松の湯』を盛り立ててきた。


戦後の高度経済成長期とはいえ、銭湯の経営は厳しく、苦難の連続だったという。


その間に娘を二人産み育て、長女が私の母・松田宏子というわけだ。


六十年間、松の湯を訪れるさまざまな人や出来事を見てきたおばあちゃんは、それなりに肝が据わっているし、見識もある。


特に人を見抜く力は尋常じゃなくて、時々こっちの心の中まで見透かされてるんじゃ?とぞっとすることがある。


皿洗いを終えて、私はスマホを見た。着信もメッセージもない。


昨日せめて結実理とLINEだけでも交換しておいたらよかったなと、ちょっぴり後悔した。






















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ