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迎えに来た結実理の夫は、紺色のスーツを着た、物腰の柔らかい男性だった。
「このたびは妻がご迷惑をおかけして、大変申し訳ありません」
【桂不動産管理(株) 代表取締役社長 桂嘉人】
差し出された名刺に目を落としていると、
「社長っていっても、ただの地上げ屋の息子ですよ。土地を引き継いで、看板だけ残したようなもんです」
秒で注釈を挟むあたり、説明し慣れている感じがした。
それでも嫌味な感じはしない。
「結実理さんとは中学の同級生で、偶然ここを知って来てくれたみたいで。会うのは七年ぶりなんです」
「そうでしたか。久しぶりにお友達に会えたので、はしゃいでのぼせてしまったんですね」
と言いながら、桂さんは横たわる結実理に目を落とした。
「……妻はいつまで経っても子どものようなところがあって、お恥ずかしい限りです」
首をすくめているところに、おばあちゃんが麦茶を持ってやってきた。
「ああ、すみません、お構いなく」
「よく眠っておられますし、今夜は泊まっていかれてはどないですか」
おばあちゃんが問いかけると、桂さんはきっぱりと首を振った。
「いえ、そこまでご迷惑をおかけするわけにはいきません。車で来ていますので、寝かせたまま連れて帰ります」
「嘉人さん、ごめんなさい」
声がしたほうを見ると、結実理が長い睫毛をぱちっと開けていた。
「久しぶりに銭湯に来て、ささらちゃんに会えたから……嬉しくて。ついつい長湯しちゃったの。でも、もう大丈夫」
「無理しなくていいよ、もう少し休んでいったら?」
「ううん、大丈夫」
結実理は、鏡をなぞるように夫と全く同じ角度で、首を静かに振った。
確固たる決意を感じたので、私は引き下がった。
「分かった。じゃあ、くれぐれも気をつけて。髪ちゃんと乾かして、お水飲んで、ゆっくり寝てね」
結実理はこくりと頷いた。
しっかり者の夫の横で、彼女の横顔は急に影を落とした。
まるで、叱られるのを待つ子どものように。




