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都市魔法伝説:魔界仁川  作者: 魔界市民
第1章: 白いマッチ箱の村の章
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失うことがあった

読者の皆様の理解を助けるため、はじめにの下で作中の背景となる地図を掲載します。

- はじめに -

本作および本作の宣伝物において言及・描写されている人名、人物、企業、団体、地名、国名、事件、製品、その他すべての固有名詞は、すべて実際のものとは一切関係のない架空のものです。したがって、万が一実在のものと一致する点があったとしても、それは偶然によるものです。

この小説には、陰謀論や独自の妄想が含まれています。



挿絵(By みてみん)


1. 力とはあなたが持っているのではなく、あなたが持っていると周囲の人々が信じているのだ。

- アリンスキー兵法中


(BGM: BOBBY - 연결고리#힙합)


 アイシャの制服は分子単位でほどけるように分解され、データ化されるかのようにナマジュの中へと吸い込まれていった。


 それと同時に、彼女の周囲には生命石が生成した粒子によって魔法の衣装が形作られた。


 白いブラウスとスカートは、赤い色を基調に黒をアクセントとしてあしらった韓服とミニスカートへと姿を変え、上着の上には黒いファーと文様を施した赤いベストが重ねられた。


 スニーカーは戦闘靴を思わせるロングブーツへと変化し、彼女は学んだ通り、衝撃を受けにくいカバンの奥――背中側に最も近い位置――へと、急いでナマジュをしまい込んだ。


 車道側の信号は青から黄色、そして赤へと変わり、やがて横断歩道の信号が青になった。


 まず、魔法少女名「オレンジ・キャラメル」ことペク・ユナが、金色(#FFD700)のツートーン・ボブヘアに映えるオレンジと白を基調としたアイドル風のドレスを身にまとい、アスファルトの横断歩道を蹴るようにして駆け寄ってきた。その背後には、へそ出しドレスを纏ったショートヘアの少女が続いていた。


 さらにその背後には、他の魔法少女たちや――賢さゆえか運が良かったのか魔法少女にならなかった(あるいは幸運にもなれなかった)一般人の女子生徒たち、そしてゴプニックのような格好をした一般人の男子生徒たちまでが続いてくるのを目にし、キム・ジヨンは、自らの前に立ちはだかる運命と向き合うほかないのだと悟った。


 逃げればよかったんじゃないかって?


「おい、コラ」


 黒髪のショートヘアに紫のメッシュを入れたチンピラの怒号に、アイシャは聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。

 「魔法少女って、たとえ持久力が最下位でも、現代のソナタ、の6世代くらいなら追い抜けるらしいし……。桂陽(ケヤン)の端から松島(ソンド)の端まで約1時間半で走破できるうえに、それくらいじゃ息も切れないんだ」


「あぁ? クソが、俺の言葉を無視してんのか?」


 何より、再び学校へ行かなければならないアイシャにとって、逃げたところで結局は同じ「罠」の中に戻るしかなかったため、逃げ場などなかった。


「10万ウォンだ、10万ウォン出せ、てめえ――ッ!!」


「いや、それって死ぬほどの罪なのか!? なんで10万ウォンも払わなきゃいけないのよ??」

 アイシャは悔しさを滲ませながら言った。10万ウォンは彼女に大金だった。お小遣いは2万1000ウォンしかなく、家から金をくすねれば、その日は殴られる羽目になるからだ。


 アイシャは正直、ここまで来てまた拳を振るいたくはなかった。これまでは変身もせず、一般人のキム・ジヨンとして生きていこうと決めていたのだが、


「おい、この混血のガキが、俺にたてつく気か?」


 世の中は、ほんの些細なことで他人の肩にぶつかったというだけで、彼女から「普通に生きる」機会を奪い去っていたのだ。


 ショートヘアの女がロングブーツを履いたまま駆け寄り、右足で横蹴りを放つと、アイシャは即座にガードを固め、紫色のミニスカートをなびかせながら左足を上げた。アイシャは相手の攻撃を防御こそしたものの、かわしきれず、左のふくらはぎからは血が噴き出した。


 しかし、左脚を前に突き出すと同時に、アイシャはショートヘアの女の顔面に強烈な一撃を叩き込み、反撃の隙も与えずにフックと肘打ちを浴びせた。アイシャが両の掌を掲げると、ショートヘアは一瞬躊躇し、肘打ちを繰り出さなかった右腕の方にばかり気を取られていた。


「カハッ!!」


 ショートヘアの取り巻きたちは、予想外の展開に呆気にとられ、ただ立ち尽くすしかなかった。


「こ……こいつ、何なんだよ……」オレンジ・キャラメルがその光景に動揺しながら言った。


「おい、てめえら……ッ!」


 それでもアイシャは、恐怖と敵意に満ちた眼差しでショートヘアの首根っこを掴み、右膝でみぞおちを強打した。


「姉貴!!!」


「こ……の野郎ォォォッ!!!」


 無力化したショートヘアを、アイシャは両腕で首を力強く締め上げて制圧した。たとえ呼吸をしなくても生命石の力で生き延びることはできたが、息が詰まる感覚はそのまま伝わるため、ショートヘアは呼吸を阻まれてパニックに陥った。


「グゥニュゥゥッ……!」


 荒涼とした道端で、アイシャ・イスマイロヴァは一人、野球バットを構え、彼女を取り囲む9人の連中に対して警告を発した。


「お……俺に触るな。俺に触るんじゃないよ!」


「このイカれたクソ女が! 警察に通報してやるからな!! 分かったか!?」


「クソ食らえだね」と、アイシャは他校から来たミント色の髪の魔法少女の脅し文句に対し、心の中で毒づいた。


 どうせ自分たちだって学校であらゆる暴力を振るってきたくせに、相手に刑事罰を持ち出すなんて笑止千万だ。自分たちが、ロシアにいた頃の先輩か何かだとでも思っているのか?


 ともあれ、彼女は野球バットを手に突進してくる周囲のゴプニクたちに向かって、自身のショートヘアを投げつけた。


 ショートヘアは地面に放り投げられた木の枝のように、空中でくるくると回転しながら落下し、連中を打ち据えた。それを受けて、アイシャは再び叫んだ。


「カツアゲなんてすんじゃないよ! クソッ、ただじゃおかないからね、このクソ野郎ども……!!」


 アイシャは、かつて《兄弟姉妹団》で全身に痣を作りながら叩き込まれた近接格闘術(CQC)を使えば、彼らを十分に制圧できると考えていた。


 しかし彼女は、ふと次のような非物理的な理由から恐怖を覚え、戦意を喪失した。

 明日の学校はどうするのか?


 その隙を見逃さず、連中の中の魔法少女たちが、一般人なら対処もできないほどの速度でアイシャに飛びかかってきた。


 アイシャは、あのショートヘアの顔を見ながら、自分が彼女たちを投げ飛ばしておきながら逃げなかったことを、その時になって後悔した。周囲の雑草が生える歩道ブロックや、樹皮の剥げた街路樹が、一瞬パノラマのように揺れ動いた。


 やがて7メートルほど放り投げられた後、駆け寄ってきた連中に取り囲まれ、蹴りや野球のバットなどで殴打され始めた。


 ゴプニクに顔を執拗に殴られ、視界が定まらない中、アイシャはちらりと、血まみれだった状態から回復したショートヘアの姿を見た。よく見ると、ショートヘアがブローチとして胸元に着けていた紫色の生命石に、わずかな亀裂が入っていた。


「だいたい、なんで宝石を見せびらかすように着けて戦うわけ……? それでいて、どうして『松島(ソンド)の女王』なんて呼ばれてるの……?」アイシャは殴られながらも問いかけた。だが、抱えていたカバンも、あっという間にチンピラの一人に奪われてしまった。


「隅々まで探れ。てめえには命で償わせてやるからな!」ショートヘアの女が、まくし立てるように凄んだ。


「く、クソッ……」アイシャは殴られて血まみれになり、瞬時に傷が癒えるのを繰り返しながら、ショートヘアの女に向かっていった。


「……」


 しかし、ショートヘアの女は迷っていた。真剣な悩みというよりは、アリの巣のアリを踏んで遊んでいて、小さなアリを一匹踏み潰すかどうか迷っているような――そんな様子が、その瞳からありありと伝わってきた。


 その時だった。どこからかサイレンの音と共に、エンジンの音が聞こえてきた。連中全員がハッとした様子を見せ、オレンジ・キャラメルが言った。


「サツか……? おい、逃げるぞ」


 やがて連中は全員、アイシャの通学カバンまで放り投げると、一斉に逃げ出した。幸い、奥深くにしまっておいた「ナマジュ」だったため彼らに見つかることはなかったが、あの女はそれを探そうとして、ファイルや教科書をくしゃくしゃにしたり、一部を破いたりしていた。


 そんなことはどうでもいい。アイシャも自分の荷物をまとめると、慌ただしくその場を後にした。魔法少女と一般人の間でトラブルが起きた時にしかやって来ない警察は、殴られていた女が魔法少女だと知ると、厄介事には関わりたくないとばかりに、そのまま立ち去ってしまった。


 そうして松島駅の近く、海賊船のような外観をした中華料理店の前で足を止めたアイシャは、


「ここでは人を殴ったりしないって決めてたのに……それにしても、クソッ、明日はどうしよう……」


 と呟き、自身の置かれた現実を嘆きながらも、先ほど自分を打ちのめした恐怖を拭い去れずにいた。明日学校に戻れば、噂は一気に広まるだろう。連中は他の生徒たちにも自分を避けるよう強要するだろうし、時には自分をサンドバッグ代わりにすることだってあるはずだ。


 抵抗したところで無駄だった。自分も彼女たちも一般人より強大な力を持つ魔法少女だったが、教師や警察官はあくまでただの公務員にすぎない。厄介で危険なことには関わりたくないだろうから、結局、学校でも警察署でも頭を下げなければならないのは自分の方なのだろう。


 殴られた傷は癒えたものの、服についた靴の跡はそのまま残っており、ジンジンとする痛みもまだ引いてはいなかった。


 アイシャはふと、その向こう側を車が次々と通り過ぎていく車道を眺めるだけだった。



 そんな折、電話がかかってきた。

 おやじからだった。


「Да, папа. Почему?(ええ、とうさん。どうしたの?)」

 アイシャはロシア語で電話に出た。


「Сейчас у меня ест работа, так что оставайся на месте. Папа приедет на машине. А ты где?(今ちょっと用事があるから、父さんが車で行く。だからそこで待ってろ。お前、今どこだ?)」

 少し重苦しく、かつ高圧的でありながらも、素直に従えば「ご褒美」はやるぞ、といった口調でアイシャのおやじは言った。


「Там, перед станцией Сонгдо, находится здание, похожее на корабль.(あの、松島(ソンド)駅の前に、船みたいな形の建物があるんけど)」


 何でもないふりをした。もし自分の置かれた状況を父親が知れば、また怒鳴り声や罵詈雑言、そして拳が飛んでくるだろうことは、同居して9ヶ月近くになる今、痛いほど分かっていた。


 どうせまた、輸出用の車を盗んでモーテルへ行けと言われるのだろう。電話を切り、アイシャは眉間を寄せながら不満を漏らした。

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