↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/41

第8話 特別とは

 アレストと油迂は、ギルドへと戻った。

 ギルド内が他の冒険者で賑わっているなか、リュミナとセリナは無言で席に着いていた。


 リュミナは眉間にシワを寄せ、指でテーブルを小刻みに叩いていた。


 やがてアレストと油迂に気付いたリュミナが、むっとした表情でこちらを睨み付けた。


「遅い、遅いッ! いつまで待たせるのよアレスト!!」


「あは……あはは……。ちょ、ちょっと道に迷っちゃって……」


「まったくもう……、セリナも黙ってないでなんとか言ったらどうなの。

 さっきまで『遅いねぇ』とか、言ってたじゃないの!」


「あっ……いや、わたしは……そんな」


「それに、ゴードンよゴードン。

 ふらっと現れたと思ったら、『仕立屋に行ってくる!』って言ったっきり、ちっとも戻ってこないじゃないの!!」


 声を上げ、当たり散らすリュミナの勢いに押され、アレストが顔を曇らす。


「ど……どどど、どうしたのでしょうね……ゴードンは」


「どうせ、そこのヤツから出たマヨネーズでも食って、食あたりでもしたんじゃないの?

 いつもマヨマヨ言ってて、いい気味だわ」


「り、リュミナ……。もう、そのへんで……」


 リュミナを止めようと、セリナが言葉を被せようとするが、彼女の言葉は止まらない。


「何よセリナったら、油迂をかばう気?」


 空気を割るように、笑いながらゴードンが入ってきた。


「ガハハ! すまんなみんな、ちょっと鎧の留め具が壊れてしまってな!」


 その言葉に、リュミナが声を荒げた。


「遅れてきたのに、笑って入ってこないでよ! 自分の鎧くらいしっかり管理してよ!」


「そんなに声を上げて怒るなリュミナ!

 管理と言ったって、この前買い換えたばっかりだ。

 それに、武具の手入れだって毎日やっとる」


「手入れをしてるのに。壊れる意味が分からないわ! それに……」


 ゴードンとリュミナは、言い合いを続けている。

 セリナと油迂が止めようと声をかけようとするが、アレストが二人の肩に手を乗せ首を横に振った。


 そして、五分もした頃。リュミナの息が上がってきた。


「じゃあ、なんで留め具がぶっ壊れてるのよ。

 か、管理……ちゃんと……ハァ……点検しないからそうなるのよ、まったく……」


 アレストはリュミナの肩に手を乗せた。


「どうだリュミナ。少しは、気が済んだか」


「……す、すみません。つい興奮してしまって……」


「いいんだ。私にも責はある。すまなかったなリュミナ」


 そう言って、アレストは一つの丸まっている紙を取り出すと、そのまま言葉を続けた。


「さて、それでは本題なんだが、とりあえず席について欲しい」


 それはマレスティア近郊の地図だった。それをテーブル一杯に広げ、指を差していった。


 アレストの説明によると、最近平原に出現した洞穴。

 そこの穴から無数の魔物が出現し、根幹となる親玉がいるという事だった。


 それは、『特別な結晶』が入手できるという意味へと繋がる。


「……というわけで、ここを叩こうと思うんだ。

 それと幸いにも、その洞穴への挑戦権を一番に得られた」


 その言葉を聞くとリュミナが目を丸くして、手をついて立ち上がった。


「す、凄いじゃないですかアレスト様!」


「これは確かに凄いことだ。ここ最近は富くじには外れ、大食いチャレンジの参加権にすら落選。運に見放されたと思っていたが、ここに来てようやく――じゃなくて、そんなことはどうでもいいんだ。

 問題は、その洞穴に複数の親玉がいるかもしれない、ということなんだ。

 だから今回は危険かもしれない。それを皆が了承してくれるのか、というのを危惧していた」


 その世界には通常個体より大きい、親玉という存在がある。

 群れの中の一個体が変質し、仲間を喰い始める。そうして次第に巨大化し、やがて親玉となる。


 そのため通常は、群れに対して一体が普通であるが、その場所は例外であった。


 そして、彼らからは『特殊結晶』というのが得られる。


 ゴードンが声を張り上げた。


「複数いるなら、全部叩けば良いじゃねぇか! そうすりゃ俺のスキルもパワーアップできるってもんよ」


「……パワーアップ……ですか?」

 油迂が思わず言葉をこぼすと、腕を組んでいたリュミナが、口を挟んだ。


「そんなことも知らないの!?」


「あっ、いや。俺は……」


「良いわ、特別に教えてあげる。

 この世界にはね、ある程度格が違う魔物っていうのが一定数居て、これが特殊結晶を落とすの」


「え、ええ……」


「で。その特殊結晶は、あたしたちの身体に取り込むことで、新しい技能を得たり、能力が向上したりするの。

 あとは魔法使用時の燃費が良くなったりとかかな。だからみんな目の色を変えて求めるのよ」


「は、はぁ……」


 リュミナが言葉をつづける。

「あとゴードンの場合は、魔力を筋力増強に使っているみたい。

 だから、さしずめ強化時間の延長か、新しい技能の取得ってところかしらね……。

 ……って、油迂は人の話聞いてる?」


 リュミナは油迂に顔を向けた。


「そ、そうは言いますが、その流れだと俺の場合は、マヨネーズの出せる量が増えるだけで、あまり役に立ちそうにないなっていうのが……。

 まぁ、技能の取得は気になりますが……」


「まぁ、確かに今のアンタは、役に立たないかも知れないけどね。

 そうやって出来ないとか、役に立たない理由ばかり並べるんじゃなくて、少しは出来ることを探す姿勢を見せなさい!」


 そう言って、リュミナは油迂に革の手袋を投げつけた。


「それはアンタの。あたしが特別に買ってあげたんだから。

 これで剣でもなんでも持てるでしょ!」


「あ……ありがとうございます、リュミナさん!!」


「あたしだってね、足手まといが、足手まといのままでいるのは嫌なの。

 少しは働きなさいよもう!」


 リュミナの言葉には、相変わらず棘があった。

 それでも、油迂のことを考えてくれたのだということだけは分かった。

 言葉は痛かった。

 けれど、投げられた手袋の重みだけは、妙に温かかった。


 リュミナのトーンがいっそう上がりそうになると、それに見かねたゴードンが、彼女の肩に手を乗せた。


「おおっ、気が利くじゃねぇかリュミナ。

 さては油迂のマヨネーズが目当てなんじゃないだろうな! ガハハ!」


「そんな気持ち悪いもの、口に入れたくもないわよ!

 それとゴードンは、気安くあたしに触んないでよね。まったく!」


「すまんすまん。ついつい手がな! ガハハ!!」


 リュミナとゴードンがいつもの言い合いをしているなか、セリナが油迂に顔を寄せてきた。


「ご、ごめんなさい。わたし……手袋のことまで思いつかなくて」


 そこにアレストも言葉を重ねた。


「わ、私もだ。すまない油迂……。全く気付けなくて……」


「い、いや良いんですセリナさん、それとアレスト様。俺もそこまでは、思い付かなかったです……」


 そしてアレストが席を立つ。


「とりあえず、リュミナのお陰で、油迂はなんとかなりそうだな。

 少し道具屋で旅支度をしてから、洞穴に向かうとしようか」


 油迂はリュミナから貰った手袋を握りしめると、決意を新たにする。


 その横で、油迂の手をチラリと見るアレストは、ため息をまた一つこぼしたのであった。


――――

――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。