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第42話 魔王軍の侵略(?)

 魔王とは言っているものの、実際に侵略に行くことはなかった。


 ――と思っているのは、魔王だけかもしれない。


 彼の名はジェイビー。彼の特殊能力はスプラウツ・オブ・ポテト。つまりジャガイモの芽を手から産出するだけの能力であった。


 そんな彼も神殿から追い出され、ギルドを点々としていたものの、結局は誘い入れられなかった者である。

 街の外に出て弱い魔物から始めようと思った矢先、ばったりと出会ったヒル・ワームに延々追いかけまわされているのだ。


「食らえッ! スプラウツ・オブ・ポテト!!」


 声高らかに詠唱をする彼は、必殺技のようにその名を叫んだ。そして、出されたのはソラニン(毒)たっぷりのジャガイモの芽だけである。もちろん生でも食えないし、加熱しても食えない。

 でもなぜかそれは、ヒル・ワームを刺激するに至った。


 逃げながら後ろを向き、必死にジャガイモの芽で抗う。だが、怯むどころか混乱と狂暴化が進み、それは次第に暴走し始めていた。


「い、嫌アアァァアアァァ!!」


 絶叫し、逃げ惑うジェイビー。その彼の背後には、何十ものヒル・ワームが群れを成していた。

 ジェイビーは走っては休むことを繰り返し、野を越え川を越え、しばらくすると、その進路を街へと向けていた。


 ジェイビーは、木の棒を杖代わりに歩いていた。そんな彼は、マレスティアの街のすぐ側まで来ると、手ごろな岩に腰を下ろして休んでいた。


 やがて、兵士がその状況を目撃した。


――座っている彼の背後から、土煙が近づいてきたのだ。


 兵士は双眼鏡を取り出して、岩の上で腰を下ろしているジェイビーに視線を合わせた。


 その直後であった。ジェイビーは後ろを振り向き立ち上がると走り始めた。


 だが、その直後。彼は右足で左足を蹴り上げ、足がもつれた。

 そして、倒れまいと咄嗟に踏ん張ろうとしたその姿勢は、まるで『指揮官が攻撃指示を出していた』ように見えたのだ。


「――て、敵襲だアァァ!!!」


 その瞬間、街には警鐘が鳴り響いた。子どもを抱え、逃げ惑う人々。冒険者ギルドからは無数の冒険者が飛び出し、街の入口へと集まっていた。


 塩の勇者ソルダスや酢の勇者ビネガー、油迂やアレスト達もそこにはいた。


 ほどなくして、合戦が始まった。


 塩の勇者ソルダスは、華麗なステップで突進してくるヒル・ワームの攻撃を寸前の所でかわしている。叩きつけようとする尻尾をジャンプしてかわし、その背に乗る。

 剣に生えた無数の塩の結晶で、ヒル・ワームの背中に切り込みを入れると、切り裂いた傷口から無数の塩の結晶が発生した。

 もがき苦しむヒル・ワームは、その場に倒れ、消滅していく。


「……つ、強い……」


 油迂はその光景を前に、思わず言葉を漏らした。


 一方でアレストは水を得た魚のように、笑いながら敵陣へ切り込み、斬撃を繰り返していった。ソルダスのステップには負けていない。まるで流れる水のように、敵の脇を切り刻んでいった。

 もちろん、ゴードンもリュミナも負けてはいなかった。ゴードンが盾を構えて突進し、集めたところでリュミナが火柱を立てていた。


 油迂もそれなりに働いていた。敵との距離を一定に保ちながら、マヨネーズをばらまき、リュミナにそこを狙うように叫んでいた。


 延焼するマヨネーズ。何とも言えない香ばしい匂いが辺りに立ち込め、焼き尽くしていく。


 その後方では、セリナが負傷した者を癒し、その前方では酢の勇者ビネガーが剣を構えて切り込んでいく。


 とはいえ彼、ビネガーに近づく敵はいなかった。


 距離を詰めれば避けるように逃げ出し、ヒル・ワームを散らしていった。それは負傷者の救出へと繋がる。彼が近づくことで、敵が近づけないため、こうして瀕死の仲間を救出していくのが主な役目である。


 ただし、臭いはついて回るので、救出される側も、それ相応の覚悟がなければならない。


 そんな状況をうつ伏せのまま、見ている男がいた。


 指揮官に間違われたジェイビーである。


 彼は下敷きにはならず、背後から迫っていたヒル・ワームを辛うじて避けていた。


 体を起こし土埃を払うと、混戦にまぎれて街へと戻ろうとした。だが、数匹のヒル・ワームがジェイビーの気配と臭いに反応したのだ。


「ちょ、ちょっと待ってくれえぇぇええ!!」


 そう言って街とは逆方向に走り出すジェイビー。何度か振り返っては、スプラウツ・オブ・ポテトを懲りずに唱えるが、やはり無力であった。


 それからどれくらいの時が経ったであろう。ジェイビーの膝は笑いはじめ、その手すら詠唱をやめていた。

 やがて、森をくぐり開けた土地に出ると、妖しげな緑色の雪がチラチラと微かに舞っている場所へと出た。


 安堵……いや落胆したのもつかの間、耳に届くのは、後方から聞こえるメキメキという枝の折れる音。それは、ヒル・ワームが確実に迫ってきていることを示していた。


 なんとか逃げなければならないと思ったジェイビー。彼はそれでも、その緑色の雪の中をひたすら進んでいった。だがそれは同時に、狂暴化したヒル・ワームを正気へと戻していった。


 そして、ジェイビーはたどり着いたのだ。青海苔とアオサが降り注ぐ城に。


――――

――

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