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第40話 スキルと虫とさかな

「まったく……ワタシのマントをボロボロにしおって、ミンティめ……」


 ウィードは部屋で新しい衣装に着替えていた。部屋にある木製(?)のクローゼットは、蜂型の魔物を使い造らせたもの。そしてその衣装は、蜘蛛に作らせていた。


 そんな魔物たちは、彼女の青海苔を栄養源とし、操る種によっては労働者にもなった。


 その万能とも思えるスキルだが、欠点は入浴時だけではない。元々虫嫌いであった彼女は、蟻やワームはまだしも、人の頭ほどの蜘蛛は卒倒しそうなほど苦手であった。


 そして一番の問題は、虫たちに寄生する微小な虫だった。そうした寄生虫までは、従者にすることができなかった。


 虫の関節の節々に住み、蠢いている蟲。

 彼女、ウィードの苦手なものの一つである。


「ありがたい……ありがたいんだが……」


 テラスで涙を浮かべながら、衣服をはたくウィード。

 眼下にある中庭では、鯉の餌やりのように群がってきているヒル・ワームが、所狭しと沸いてきていた。


 ウィードは、テラスから中庭に視線を落とした。


「……そういえば、虫たちに食事をやる時間か……」


 目は無く口だけのヒル・ワーム。ウィードがテラスに出てきただけで、頭部にある感覚器官が、青海苔の特有の磯臭さを感じ取る。そして身をよじっている。


「ヒル・ワームは、まだこうして喜ぶように表現してくれるから可愛いんだが、蟻とか蜂たちは反応がイマイチ薄くて、つまらんなぁ……」


 ウィードが手のひらを拡げ、青海苔を中庭に落とすと、ヒル・ワームたちがそれを貪っていった。一礼をするように頭をもたげ、再び土中へ帰っていった。


 すると、蟻と蜂がどこからともなく中庭に現れた。彼らは隊列を組むと、喧嘩することもなく次々に青海苔を食べていき、数分もすると青海苔は中庭から消えていた。


 それも終わると、ウィードが言葉を漏らした。


「……う、うう……」


 そして、蜘蛛の番となった。


 森の方から十体程度の蜘蛛が、ウィードを目掛けて跳ねてきた。

 そのたびに、ズシンズシンと地面と建物が揺れた。


 ウィードが、震える手を中庭へと突き出した。そして、手を広げて恐る恐る青海苔を出していった。

 蜘蛛は、正面から来る者もいれば、大きく飛び越え背後に回り込もうとする者もいた。そして、正面から来る蜘蛛たちは、扇状に展開し、一斉に糸を吐き出していった。


 糸はウィードの頬をかすめ、テラスの壁に張り付いた。ウィードの顔は、そのたびに青くなり、引きつっていった。


 テラスの手すりや壁面に、粘糸がぶら下がり始めた。


「ひっ、ひいぃぃ!!」


 ウィードは迫ってきた一体の蜘蛛に、右手から青海苔をぶつけた。すると左から別の蜘蛛が襲い掛かる。それを咄嗟に反対の左手で押しのけた。


 だが、それでは終わらなかった。蜘蛛は一旦地面へと落ちたが、再び起き上がるとウィードを目掛けて、糸をよじ登ってきた。


「少しは考えろ、このクソ蜘蛛どもがああああ!!!」


 ウィードの絶叫があたりに響いていった。


 だが、そんな小競り合いも、三十分ほどで落ち着きを取り戻す。

 しかし、今日に限っては、それで終わらなかった。

 今日に限っては、風が強かった。ただでさえ舞いやすい青海苔だったが、それは風に乗り意図せぬ者の口へと届くと、新たな仲間と火種を運んでくるのだ。


「しまった! シータス、シータスゥゥ!」


 ウィードは部屋へと戻ると、シータスの名を叫んでいた。


「はいはい……ウィード様。また、やられたんですか……」


 そういって、シータスはテーブルの上と、窓の外に向けてアオサを出していった。

 テーブルは、その表面を緑色に埋め尽くすと、次第に周辺の地形を形取っていった。


「ウィード様、本日はどちらで給餌しましたかな」


「そこじゃ! その窓から抜けたテラスじゃ!」


 そういって窓の外を覗くウィード。無数のアオサが雪を降らすように、辺り一面に降り注いでいた。それは地面や壁面に触れると、色も残さず雪のように溶けて消えていった。


「……これは南南東からの風……。この先にあるのは……」


 シータスの能力は、索敵に近い。大気中にアオサを降らせることで、その消えるタイミングを把握できるというものであった。

 こうして、テーブルの上のアオサに、立体構造物を作り出すことができるのだ。それはまるで、ソナーとレーダーのようであった。


「大丈夫です。ウィード様、この風向きと方向ですと、恐らくは海に到達するかと。ですが一応、確認のために誰かを向かわせましょうか」


「そうなぁ。万が一ってことも、ありえるからのう。……では俊足の……あれ……? あいつ何だったっけ……。すぴ……すぴー」


「スピーダーですか?」


「そ、そう。それじゃ! 早速向かわせて、被害が出そうなら、一刻も早く知らせるのじゃ」


「承知しましたウィード様。スピーダーに言って、状況を確認させてまいります」


「たのんだぞ、シータス。ワタシはもう疲れたから横になっておる」


 そう言ってウィードは奥の部屋へと消え、シータスはスピーダーを呼び寄せると、俊足の勇者『スピーダー』をその場所へ向かわせた。


 シータスはテーブルに戻ると立体地図を見ながら、スピーダーの動きを追っていた。


 彼の動きは極端に早く、目では追いきれないため、こうしてシータスが状況を観察するのだ。途中までは順調であったが、林に差し掛かったとき、スピーダーが跳ねるように宙を舞った。


 シータスはその様子を目撃すると、手で額を覆った。

 そして、シリカにソリを持たせて、スピーダーの回収をお願いした。


 やがて海岸へたどり着いたシリカは、砂に埋まったスピーダーと、一様に城の方角を目指している魚たちを目撃した。


 シリカは無言のまま、その魚を籠に詰めると、最後にはスピーダーをソリに乗せその場を後にした。


――――

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