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第37話 油迂と仲間たち

 セリナは揺られていた。その鼻先には金色の髪がかさり、甘く花のような香りが、セリナの呼吸を整えていく。


 そこは、アレストの背中であった。


「あ、アレスト様!?」


「セリナか、ようやく目が覚めたようだな……」


 そう言うとアレストは、足を止め、静かにセリナを下ろした。そこには、油迂やゴードン、リュミナの姿はなかった。


「あれ……皆さんは……」


「皆はもう宿屋に戻っているぞ、セリナ」


 そこはすでに、ギルドの中ではなく、薄暗い夜道の街道。行き交う人々は少なくないものの、昼間の混雑に比べれば、明らかにその数を減らしていた。


「あ、あの……わたしは一体何を……」


 セリナは辺りを見回すと、アレストの裾を掴み、震える声で尋ねた。


「随分と気を失っていたようだったから、私が背負ってここまで連れてきたぞ。セリナ」


「す、すみませんアレスト様……。でも、それで……。わたしは、何をしてこうなっているのでしょうか? 実はその……あまり記憶が無くて……」


 アレストを見上げるセリナ。その目は不安に駆られ、僅かに揺らいでいた。


「記憶がない、か……」


 深くため息をつくと、アレストは、一呼吸おいて言葉をこぼした。


 そしてゆっくりと歩き出すと、ギルドでの状況を語っていった。周囲の料理を貪るように食べ尽したこと。気絶するように、突っ伏したこと。リュミナが戻ってきて、あれこれと試していたこと。


 そして結局、閉店になっても起きなかったので、アレストが背負い、連れ出したということであった。


――セリナが呟いた。


「アレスト様……」


「なんだセリナ」


「彼は……油迂は、一体何者なのでしょうか……」


 セリナはアレストに視線を向け、一つの疑問をぶつける。無言のまましばらく進むアレストであったが、ゆっくりとその足を止め、星空を見上げた。


「あやつも、私と同じ。不遇勇者……なのだろうな……」


「神殿が呼び寄せし、魔王に対抗するための力。本来は皆、正当な勇者となるハズだった者……」


 セリナがその声に言葉を重ねると、アレストもまた言葉を続けた。


「……だが、その勇者のうち。まともなスキルではない者は、皆神殿を追放された。塩も酢も宿屋の店主……そしてこの私でさえ……だ」


「アレスト様……」


 深く息をつくアレストが、指を組み視線を落とした。


「セリナ、私は……どうしたらよいと思う……」


「……」


 セリナは無言だった。アレストの言葉に助言することはできても、それを強いることはできないからだ。

 だが、アレストはそのまま、自問自答するように続けた。


「もし魔王とやらを倒せば、彼らは不遇ではなくなるのだろうか」


――アレストの一つの答え。それは、不遇勇者を救済したいという考えが芽生えつつあった。


「……わたしには分かりません。でも、いずれ。油迂さんなら、あの人たちとも話せるような気がするんです……」


「油迂か……。あいつは、マヨネーズしか出せない。だが、かつて乱暴だったゴードンをも変えることができた。もしかしたら……」


「そうですね……。あの鬼神と言われた、ゴードンをも変えた力、あの人なら……」


 セリナはそう言うと、握る杖に力を入れ震わせた。そしてアレストが拳を握り目を瞑る。


「……だが、同時に危険でもある。ゴードンを虜にし、そして『私』とセリナをも狂わせた、あの愛おしいほどのマヨネーズ……」


 違和感を感じたセリナが、不意に立ち止まり、アレストを見上げた。


「……んん!? アレスト様、狂ってたんですか!?」


「えっ、あっ。いや、違うんだ。そういう意味で言ったのでは……」


 慌てて取り繕うアレスト。その慌てふためく様子に、セリナは口元をゆるめた。


「ふふっ、いいんです。知っておりますよアレスト様。きっと、わたしを庇って、そう言ってくれたのですね」


「あ、ああ……、そうだ。そうだったな……」


 セリナからその顔を隠すように、アレストは歩き始める。

 やがて二人の前に、皆の待つ宿屋と、三つの影が見えてきた。


――油迂たちだ


 リュミナは走り出し、セリナとアレストに抱きついた。

 ゴードンは身体を震わせながら、何故か小鉢に入ったマヨネーズを啜り、その横では油迂がこちらに向かって手を振っていた。


 アレストはその様子を前にすると、ただただ、ため息をつくしかできなかった。


――私はいつになったら、それを常食できるのだろうか。


 そう思っていた、そのとき油迂の口から思わぬ言葉が聞こえてきた。


「アレスト様! 実験用マヨネーズ、たくさん用意しておきましたよ!」


 そして、どこからか喉を鳴らす音が聞こえた。


――第1部終

 中途半端にもおもえますが、第一部はここまでとなっています。そして油迂たちから少しだけ視点を外し、第二部の自称魔王サイドが始まります。

 あらすじで触れていた通り、個性的な者たちとともに、油迂や召喚された者たちの生活をおり混ぜ、次第に巻き込まれていく様を描いていきます。

 続きが気になった方は読み進めてみてください。

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