第33話 ゴードンと光る神官
アレストはゴードンに皿を咥えるよう指示を出し、そこにマヨネーズを注いでいく油迂。そしてその両手には革袋が握られ、ゴードンの視線の先には『マヨネーズ食べれる券』が、ぶら下がっていた。
その椅子の前では、セリナがお祈りを始めようと、跪いているところであった。
「な、何やっとんじゃあ、お前ら!!」
開いた扉の奥から、魔導電飾を身にまとった神官が現れ声を荒げた。その妙に大きい帽子は七色に光るイルミネーションに彩られ、羽織っている袈裟のような物でさえ、煌々と光を瞬かせている。
そして、その瞬間。リュミナと油迂が神官を睨みつけた。
「ご、ごめんなさい……」
神官は一言そう言うと、帽子と羽織物を部屋の片隅へと脱ぎ捨てた。
――
部屋の片隅でピカピカと光る衣装。静けさに溶け込むように、寂しげに佇んでいた。
神官はゆっくりと部屋を見回すと、アレストに目を合わせ、言葉を放った。
「というかじゃな……。お前らは何の儀式を始めようとしているんじゃ!!」
「じ……実験です! 欲望の」
アレストが言い切った。むしろ欲望に飢えているのはアレストなのでは、と思う油迂であったが、いまは触れないでおこうと思った。
「……とはいえ、一定数おるんじゃよなぁ。こういうの」
神官はそう言うと、腰に手を添え呆れていた様子だった。
「えっ。こんな狂気じみたことを考えてる人たちが、他にもいるんですか!」
その言葉はアレストから出たものであった。油迂は沈黙し、リュミナとセリナは唖然としていた。
「い、いや。正直ここまでぶっ飛んだヤツは、初めて見るんじゃが……」
その言葉に胸をなで下ろすアレスト。だがそれはもう、何を安心しているのかすら、本人も分からなくなっていた。
「……と、いうわけで、とりあえずお願いします!」
「いや……『お願いします』って言われてもじゃな、その魔法陣の溝に埋まっている、白いものは何じゃい!」
アレストは床に掘られた、魔法陣へと目を向けた。
「ま……マヨネーズです!」
「そんなの知らんわ、馬鹿者どもが。はよ溝を掃除するんじゃ! これじゃあ、魔法陣に魔素を流し込めんし、何が起こるか分からんじゃろうが!!」
「な……何が起こるか分からない……?」
「そうじゃ、この魔法陣にはな……」
そう言って淡々と説明している神官だが、その声はアレストには届かなかった。
――むしろ、何かが起こってくれた方が、都合がいいのだが
アレストはそう思った。
(魔素とマヨネーズ、それがどう混ざり合うのかが気になる。それにだ、仮に暴走してしまえば、効果は周囲全体に広がり、全員に恩恵が得られるやもしれん)
アレストは腕を組み、ゆっくりと視線を上げていく。
(……だが暴走した場合、ゴードンが耐えられるのかも気になるところだ。下手すれば爆散……、いやあいつの身体ならきっと……)
そして目を閉じて、唸り始めると、やがて一つの解を導き出した。
(神官を説得し、このまま敢行しつつ、セリナの回復魔法で上書きすれば!)
目を見開いたアレストが、声を張り上げた。
「神官よ!! その男は大いなる器の覚悟が……って、あれ……?」
油迂とリュミナ、そしてセリナによって溝は綺麗に掃除されていたのだ。
「うわあああぁぁあ!」
膝から崩れ落ち、突然絶叫するアレスト。
「何やってるんですか、アレスト様。なんでも魔素に不純物が混じると、被験者が壁面の血のように、木っ端微塵になるらしいですよ! そうですよね?」
そう言って油迂は神官へと視線を向けると、神官は鼻毛を抜いて散らしていった。
「……まぁ嘘じゃがな」
「う、うそ……ですか……」
油迂は思わず言葉をこぼした。すると、そのまま神官が、真っ赤な液体の入った瓶を取り出し、魔法陣について説明していった。
「魔素で塵や埃、体毛や鼻毛くらいは高温で焼けて消える。逆に液体は、油に水を注ぐように跳ねるから、周りが危ないっちゅうわけじゃ。爆散したりはせんよ、安心するのじゃ」
壁の方をチラリ見るリュミナが、神官へと視線を向ける。
「えっ。じゃあ、壁の血みたいのは……」
「そんなのただの『デザイン』に決まっておろうが。上司の趣味で勝手に増えていくんじゃ。手枷も足枷も、どこで買ってきたのやら、まったく……」
「……は、はぁ……」
そんな様子に、ため息をこぼしていたリュミナと油迂であった。
「つーわけで、そろそろ始めるぞ。とりあえず魔法陣以外は、そのままでいいから、お前らは円の外にでて、待っているのじゃ」
神官は、瓶の蓋を幾つも開けていく。そして、地面に並べていくと、それを一つずつ溝へと流し込んでいった。
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