↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/41

第28話 摂取した者の思惑

 アレスト、ゴードン、セリナの三人の目は泳いでいた。


――「油迂に使えば良いじゃない」


 リュミナのその言葉は、三人の心を揺さぶり始めた。


 動揺を隠せないアレストは声を震わせた。


「……ばっ、ばばッ、バカな事を言うんじゃないリュミナ!」


 ゴードンは思った。

 油迂のマヨネーズは日によって量が出せないときがある。

 だが、油迂に与えれば、安定して倍以上のマヨネーズを出して貰えるのではないか、と。


 セリナは思った。

 人の精神性をも変えてしまうほどの味。神の試練……。わたしはそれに抗い、正気を保っていられるのか、と。


 アレストは思った。

 このまま油迂に与え続け、無限に出せる能力に昇華してもらえば、私の戦闘時間も延び、無限に斬撃が放てるのではないか。そして、それを理由に、皆の前で公然と摂取できるのではないか、と。


 三人の思惑が渦巻き、それぞれが頭を抱えていった。


 再び沈黙が訪れようとする中、リュミナが口火を切った。


「だって、この前の時の戦闘で、結構使えるって事が分かってきたじゃないですか。

 ただ、その用途が敵や味方を滑らせたりとか、目くらましに使えるとか、それくらいしかあたしには思い付きませんが……」


「そ、そそ。そうだよなリュミナ、それくらいしか思い当たらないよな!」


 アレストのうわずる声が、無理に自分へ言い聞かせるようだった。そんななか、油迂が手を上げ、立ち上がった。


「いや、これは俺ではなく、リュミナさんのように、正しく魔法を使える人に使うべきだと思いますが」


 その言葉を耳にしたリュミナが、僅かに頬を赤らめた。そして、テーブルに両手を付いて立ち上がった。


「あ、あたしは大丈夫! あんたが使って、そのスキルを強化しなさいよ。そうすれば、少しは戦えるようになるでしょ!」


「確かにそうかも知れません。

 ですが、俺に使うよりもリュミナさんに使った方が、確実に強くなれると思います!」


 油迂の言葉に、リュミナがそっと視線をそらす。


「……そんなの……どう強くなるか分からないじゃない……」


「例えばですが、使ったことで燃費が改善され、詠唱速度を速められるかもしれないじゃないですか。

 俺は、リュミナさんが結晶を使う所を見たことがないですが、魔導書が強化されるとか、いろいろ考えられるじゃないですか」


「ま、魔導書の強化……!? そ、そうかもしれないけど……」


 リュミナは考えていた。


 以前、特殊結晶を使用したとき、メンバーには魔力消費量が改善したと説明した。

 実際はそうではなかった。魔導書の鋭い嗅ぎ分けが強化されただけだった。


 だが、それがまたしても下らない能力の強化や開花だったら、と考えるといまいち手が出せなかったのだ。


 この結晶は本心を映す鏡なのかも知れない。


 リュミナはそう思っていたのだ。


「じ、じゃあ……。リーダーなんですから、アレスト様が使ってみてはどうですか」


 リュミナはアレストへと言葉を投げた。


「わ、私か……」


 同様にして、アレストも考えが揺らいでいた。


 私が以前取り込んだ結晶は、一度に食べられる量の増加という、なんとも微妙なものだった。たしかに以前よりは食べやすく、そして沢山食べても胃がもたれることはなくなった。……だが、それだけだった。


 それに、こういうのも何だが、私が使ったところで、多分効果は薄い。そして油迂のマヨネーズは食えぬ。そう思っていた。


 食わせたい……いや、油迂に与えて燃費代わりに貪りたい。アレストの頭は、既に強欲ならぬ『暴欲』で埋め尽くされようとしていた。


 その時であった。沈黙を破るようにセリナがパンと手を叩いた。

 一同の視線が、セリナへと集まった。


「はいっ。それならゴードンさんはどうでしょうか」


 セリナはゴードンへと視線を向けた。


「わ、ワシか……? たしか以前取り込んだときには……衝撃無効だったか、そのあたりが付いた気がするぞ……」


「ゴードンか……。確かにそれも悪くはないな……」


 アレストは、額に手を当てた。そして、その言葉に僅かな可能性を見いだした。


 仮にゴードンが取り込み、副作用で舌が変質してマヨネーズを摂取できなくなると考えれば……それは、私に摂取できる可能性が上がるということではないだろうか。


 アレストは一度そう考えてみた、だが、それは自身で否定した。


 そんなことはないはずだ。

 少なからず結晶を使用した際の特性が、極端なマイナスに働くことはない。これは他の者には言っていないが、私は当人の願望を引きずり出す魔具と見ている。


 つまり万が一、ゴードンがマヨネーズを強く願い、身体からオーラを発するようになれば、間接的に油迂に影響を与えるようになる。そうすれば、マヨネーズの味や量も変わっていくのではないか。アレストはそう考えたのだ。


 アレストはゴードンへ顔を向けると、声を上げた。


「よし、認めようゴードン! お前がそれを取り込むのだ!」


「ガハハ! 盾役は硬くて上等だ、任せとけ!」


 そう言って拳を作ると、自分の胸を叩いた。


「それでは、現時点で会議は終了とする。敵の情報に関しては、追って説明するから、今日はもう休んで良いぞ!」


 それを聞いたリュミナとセリナ、そしてゴードンは自室に戻るために、別々に部屋を出ていった。


 アレストは特殊結晶を鞄にしまうと、油迂とともに広間を後にした。


 そして通路の角を曲がろうとしたとき、向かい側から別の冒険者たちが現れた。


 彼らは会釈をし、次々に通り過ぎていった。


 そのとき、微かな香りが鼻をついた。


――この刺激臭……


 それは、酢の勇者だった。


――――

――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。