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31話 仲の悪い二人?


「アイリス嬢! ……と、ルイスだ」

「ジーク様……!?」

 

 聞き覚えのある声と共に茂みの奥から現れたのは、黒いローブを身に纏ったジークだった。


 まさかこんな夜に、茂みから人が現れるとは思っていなかったアイリスは、驚きのあまりルイスに握られていた手を反射的に離してしまった。


 隣でルイスの眉が不満げにピクリと動くが、すぐにいつもの上品な笑みを浮かべ、ジークに視線を移す。

 

「ジーク、こんなところで何をしているのですか?」

 

「外で用事を済ませた帰りだけど」

 

 ルイスの声音に宿る冷たさにジークは全く動じることなく、フードを頭から払いながら軽い調子で肩をすくめた。


 そんなローブを纏ったジークと森で遭遇するのは、今回で二度目だ。一度目は、まだ出会って間もない頃。首元に血痕のようなものをつけ、微かに鉄の香りを纏っていた。


(もしかして、また……)


 身構えたアイリスだったが、目の前のジークの肌に血痕もついていなければ、鉄の香りもしていない。その様子にホッと胸を撫で下ろす。


(あの時の血痕って、本当に魔獣のものだったのかな……)


 今ではもう、その真相はわからない。けれどジークが時々、学園の外で「なにか」をしているのは確かだった。


「アイリス嬢、どうかした? ……もしかしてルイスに意地悪されたの?」


 暗い表情をしてしまっていたのか、ジークが心配するようにアイリスの顔を覗き込んでくる。


「違いますよ! ちょっと考え事してて……」

「本当? ルイス、性格悪いからアイリス嬢が意地悪されてないか心配だな……」


 眉を下げて一歩アイリスと距離を詰めるジーク。そんな彼を遠ざけるようにルイスがアイリスの前に割って入り、にこやかに微笑んでいる。


「性格が悪いのは貴方でしょう? 偶然を装ったフリなんかして」

 

「え〜なんのこと? それより二人は今帰り? 普段よりずいぶん遅いみたいだけど……こんな時間までなにしてたの? それに今日はディランが護衛のはずでしょ。なんでルイスが一緒にいるわけ?」

 

「ディランは朝が早いので、途中で私が引き継いだだけですよ。それに、何をしていたかなんて貴方に言う必要あります? 貴方はアイリス嬢に干渉しすぎですよ」

 

「なんだか今日はいつにも増して不機嫌だね。邪魔しちゃったから怒ってるの? 嫉妬深いと嫌われちゃうよ」

 

「ジークに言われたくありませんけど?」


 ルイスとジークは、どちらも声色は穏やかで顔には笑顔を浮かべている。けれど言葉の節々にはどこか棘があるように感じた。


(ルイス様とジーク様って、もしかして相性悪い……?)


「あの、違いますジーク様! 帰りが遅くなったのは、私が図書館で居眠りをしてしまって……。ルイス様は私が起きるのを、待っていてくださっただけですよ」

 

 ルイスの背後から顔を出したアイリスが慌てて弁明すると、ジークは「ふぅん、居眠りね……」と意味深な視線をルイスにおくった。

 

 けれどすぐに穏やかな表情をつくるとジークはルイスの牽制を軽々とすり抜け、アイリスの隣へと回り込む。そしてアイリスにぴったりと肩を寄せ、自身の体温を分けるように距離を詰めてきたのだ。

 

「それにしても、今夜は冷えるね。アイリス嬢に温めてほしいな」


 囁くような声とともに、アイリスの顔を覗き込むジークは妖艶で色気のある笑みを浮かべている。


「温風程度であれば、魔法でなんとか出せますよ!」

 

「それも良いけど。それだとアイリス嬢の魔力が消耗して疲れちゃうでしょ? だから……手を握ってくれるだけで、俺は充分だよ」


 そう言って、ジークの手がアイリスの下された手に触れる寸前――アイリスの腕が強い力で後方に引き寄せられた。一歩後ずさった拍子に背中にトンッと何かが触れ、ほんのりと温かな体温を感じる。


「近いですよ。離れてください」

 

「ルイスの方こそ離れなよ。君の魔力が漏れ出てアイリス嬢を冷やしてるんじゃないの? これだと上着を貸しても意味ないね」

 

「私が魔力のコントロールを怠るとでも? 言いがかりも甚だしいですね」

 

 アイリスの頭上で冷たい視線を放つルイスと、底知れない黒い笑みを浮かべるジーク。二人の交わる視線には、見えない火花がパチパチと激しく飛び交っている。


 二人に左右から挟まれ物理的にも心理的にも完全に板挟みとなったアイリスは、胃の辺りがキリキリと痛み出すのを感じた。


「あの、とりあえず帰りませんか? もう夜も遅いですし……」


 早く逃げ出したい一心で、アイリスが苦笑いを浮かべて二人を見上げる。


 言い争いを続けていた彼等は互いに顔を見合わせ、少し不満げにしながらも小さくため息を零した。


「そうですね。こんな男に構っていては時間の無駄でした。さ、アイリス嬢、帰りましょうか。寒いのなら、お手をどうぞ」


「ルイスよりも俺の方が温かいよ。アイリス嬢、こっちにおいで」


「いや、あの……私は充分温まっているので、ご遠慮します……。それよりほら! 帰りましょう!」


 アイリスに向かって手を差し出すルイスとジーク。二人の善意はありがたいが、両側から長身の二人に手を握られてしまっては、完全に捕まった宇宙人のようになってしまう。


 丁重にお断りして、少し足早に寮へと足を進めるのだった。

 

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― 新着の感想 ―
銀髪青目=クールかと思いきや、メガネキャラみたいな慇懃無礼さのあるルイス様が最高に好きです。 けど当て馬っぽいジーク様が報われてほしい〜…!アイリスを引っ張ってくれる(善意だけではなさそうだけど)のは…
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