27話 最難関ルート!?
クロエがルイスルートに入っているのかもしれない。それはアイリスにとって朗報だった。このままクロエがルイスルートに進んでくれれば、ウィルバートとローズは無事に結ばれる。
「雑談はされましたか!? 好きなお花の話とか!」
「そんな話はしていませんが? ああでも……貴女にお弁当を分けてもらったり、魔法の基礎を教えてもらったと、それは楽しそうに話されていましたよ。随分懐かれているようですね」
不機嫌そうだった雰囲気から、僅かにルイスは瞳を和らげる。すると割り込むように、隣に座っていたジークがアイリスに肩を寄せた。
「アイリス嬢ってお昼はお弁当なんだ。俺も食べてみたいな〜。ねえ、今度お邪魔しても良い?」
「それならば僕も同席していいだろうか? ローズ嬢もその席にいるのだから僕がいても問題ないだろう?」
「殿下が行かれるのであれば、護衛として俺も同席しよう」
「絶対に駄目です! 均衡が崩れてしまいますから……!」
ただでさえクロエとローズという華やかな美少女が揃っているというのに、そこにウィルバートとジーク、ディランまで加わればアイリスの平穏は崩壊してしまうだろう。
「みなさんでお昼をとりたいのなら、私抜きでお願いします……」
「そういう事ではないのだが……手厳しいな」
「つれないなぁ〜、アイリス嬢は」
ウィルバートとジークが目に見えて残念そうな顔をしたが、アイリスはこれ以上の追及を逃れるように「ちょっと本を探してきます!」と本棚の奥へと逃げ込んだ。
高い書架が並ぶ静寂の空間で、アイリスは乱れた呼吸を整え本の背表紙に目を向ける。
『秘密の地下書庫』にあった本は、禁書として回収された本もあるが、ほとんどはこの第二図書館へ戻された。
この本棚は、地下書庫にあった本が並べられている。あの後から一冊ずつ読み進めているが、読みたい本はまだ半分近く残っていた。
アイリスは目的の本を取ろうと、少し背伸びをして手を伸ばすと――
「これですか?」
そう言ってアイリスの後ろから、軽々と目的の本を抜き取り手渡してくれたのは、ルイスだ。
「ありがとうございます……!」
アイリスが振り返ってお礼を告げると、ルイスは「どういたしまして」と、本棚から別の本を抜き取った。
ルイスが手にした本は、アイリスがまだ読めていない本の内の一冊だ。つい気になって見つめてしまっていたらしく、ルイスが「気になります?」と可笑しそうに笑みを溢した。
「あぁ、そうだ。貴女に相談したいことがあるんです」
ルイスはそう言って、アイリスの隣へ並ぶと手にしていた本のページをめくる。そして細くしなやかな指で紙を撫で、ある術式の上でピタリと止まった。
「この術式の表記が曖昧で……貴女ならわかりますか?」
アイリスはルイスの手元を覗き込むが、その術式は難解で、即座に答えを出せるものではなかった。
「……手書きで何度も書き換えられていますし、かなり古い術式ですね。……その場ではわからないので、一度持ち帰って調べても良いですか?」
「ええ、もちろん。助かります」
ルイスから本を受け取ると、彼は先程までの不機嫌さが消え去ったように、穏やかでご機嫌な笑みを浮かべている。
(いいことでもあったのだろうか?)
「ルイス様、どうかしましたか?」
「ああ、すみません。貴女がどんな答えを導き出して私に教えてくださるのか、今から楽しみなんです」
「お、教えるって……術式は解読できたとしても、私は教えるのは上手じゃないですよ?」
ルイスと魔法について相談し合うことはあっても、アイリスから彼に教えるなんてことは滅多にない。なにせ圧倒的にルイスの方が知識が豊富だからだ。
だからこそ、そんな彼がアイリスを頼ってくれたことが素直に嬉しいし、期待に応えたい。けれどルイスのように上手に教えられるかは自信がない。
「そんな事ありませんよ。クロエ嬢からも貴女の説明はわかりやすいと評判でしたよ」
「それを言ったらルイス様の教え方の方が、簡潔でわかりやすくて――あ、ルイス様がクロエに魔法を教えてあげるのはいかがですか? 私よりも適任だと思いますよ」
クロエの話をするルイスはなんだか楽しそうだと思った。今も、先程みんなと話していた時も。
もしかしたらルイスは、クロエに惹かれかけているのかもしれない。そう考えついた、アイリスは名案だと言わんばかりにクロエの指導者の変更を提案した。
けれどルイスは目を見張った後、その表情に苦笑いを浮かべてしまう。
「……それでしたら一度、貴女も踏まえてクロエ嬢に魔法をお教えする場を設けましょうか。けれど私は学年も違いますし、放課後はウィルの付き添いや生徒会で時間が取れそうにないので……お昼を一緒にとられている貴女方の席に私も同席してよろしいですか?」
その時、ルイスがクロエに惚れかけているのでは、というアイリスの疑惑が確信に変わった。
(クロエとお昼を一緒に食べたいから、私をダシにして同席しようとしてる? ルイス様は笑顔で外堀を埋めるタイプなのかもしれない)
アイリスはルイスの意図を完全に汲み取り、笑顔で頷いた。
「もちろん! ぜひ同席してください!」




