21話 ローズと偽ウィル!?
「さて、それでは作戦会議といきましょうか。ローズ様の最大の課題は『殿下の前では緊張して上手く話せなくなる』というところですよね」
「最初の課題は、殿下の顔を見て普通に話せるようになるところからですね、ローズ様!」
追加の紅茶が用意され、ジークとアイリスがローズへ視線を送る。けれど彼女は戸惑うようにカップの中で揺れる紅茶へと視線を下ろした。
「それができれば苦労しませんわ……。殿下の美しい瞳に見つめられると、それだけで頭が真っ白になってしまいますのよ」
ため息をつくローズを見て、ジークは「良い案がありますよ」と微笑むと彼の大きな両手が彼自身の顔を覆うように隠した。
刹那。ジークの身体が霧のようなモヤに包まれる。モヤが消え顔を隠していた両手が下ろされると、そこには――
陽の光を浴びてきらめく金髪に、鮮やかなエメラルドの瞳。第二王子ウィルバート・エルセリオの姿が現れたのだ。
「やぁ、ローズ嬢」
声のトーンから表情まで本物と寸分違わぬウィルバートの姿に、ローズは「は!?」と短い悲鳴を上げて椅子から転げ落ちそうになっている。
「すごいです、ジーク様……! 外見だけでなく、声まで模倣しているなんて。相当高度な幻影魔法ですよ!」
「あはっ、アイリス嬢に褒められると嬉しいな。ちょっとは見直してくれた?」
アイリスが目を輝かせて魔法の完成度を褒めちぎると、ウィルバートの姿をしたジークは少し気恥ずかしそうに頬をかいてアイリスを見つめる。
「ちょっと、ジーク様。殿下はそんな緩んだ顔をなさらなくってよ!? 殿下を演じるのなら徹底的にやってくださる?」
いつもの調子を取り戻したローズが、ウィルバートの解釈違いを真っ先に抗議し、鋭い眼差しを向ける。ジークはやれやれと言ったように、ウィルバートらしい爽やかな好青年の笑みを作った。
「はいはい、注文が多いな〜……。さっそく練習をしましょうか。ローズ様」
ジークがウィルバート(偽)の顔を彼女に向けると、ローズはそれだけで「うっ……」と言葉を詰まらせ視線を泳がせてしまった。
「こちらのバラはどれも美しいな。様々な種類があるが、ローズ嬢は何色のバラがお好みで?」
「フンッ! 殿下にお教えする義理はありませんわ。それとも乙女の内心を探るおつもりなのかしら!?」
ウィルバート(偽)の瞳を凝視して間髪入れずに口走ったローズの返答に、ジークもアイリスも思わず苦笑いを浮かべてしまう。
「えっと、ローズ様は普段から殿下にそんな反応を……?」
「……〜〜ッ! だから言ったでしょう!? 殿下を前にすると上手く話せないのよ!!」
ローズ自身も自覚があるようで、後悔をするように頭を机に伏せてしまった。ローズはウィルバートの瞳に見つめられると上手く話せないと言っていた。ならば目を見なければ、多少は改善するのかもしれない。
「ローズ様、どうしても緊張してしまうのなら無理に相手の目を見る必要はありません。相手の目ではなく眉間のあたりや、鼻の頭あたりに視線を固定すれば、相手からはしっかり目を合わせているように見えますよ」
アイリスは、ローズの隣にそっと寄り添ってアドバイスを続ける。
「上手く話そうとする必要もないのかと。返答は一呼吸おいて、一言に収めてみるのはいかがでしょう?」
「殿下にそんな失礼な態度とれませんわ……!」
「大丈夫ですよ。ウィルバート殿下は寛大なお方ですし、この程度で怒る方ではありません」
アイリスの助言に、ローズは深く息を吸い込んだ。それを合図にジークはもう一度「何色のバラがお好みで?」とウィルバートと瓜二つの顔と声で彼女へ問いかけた。
ローズは彼の眉間のあたりをじっと見つめ――
「……き、黄色が好きですわ」
心なしか、いつもより声のトーンが柔らかい。高飛車な刺々しさが消え、少女らしい素直さが滲み出ている。
「お! いいですね。これなら普通に会話ができるんじゃないですか?」
ジークがパチパチと拍手を送り、アイリスも「素晴らしいです、ローズ様!」と笑顔で太鼓判を押した。ローズは少し恥ずかしそうにしながらも口元を綻ばせる。
それから何度か練習を重ねるうち次第にローズの緊張が和らいだのか、スムーズに返答することができるようになっていった。
「うん、良い感じですね。もっと思考を変えて練習してみましょうか。……なにが良いと思う?」
ジークはそう言いながら本来の姿へと戻り、隣のアイリスに軽くもたれ掛かり意見を促す。一方のアイリスはそんなジークを気にすることなく、しばらくの沈黙の末、名案だというように声を発した。
「そうですね……魔法の練習はいかがでしょう!」
「あはっ、それはアイリス嬢限定でしょ〜」
「そ、そんなことありません。ここは魔法学園なんですから、一緒に練習することで仲が深まるかもしれませんよ……!?」
そんな軽口を叩きつつも笑い合うジークとアイリスの姿を不審そうに往復するローズの眼差し。しばらく無言で観察していたローズだったが、やがて探るような声を漏らした。
「…………ところで貴方たち」




