やらかし。
「俺の読んだ異世界小説は間違ってたのか…」
黒髪がそんな事をぼやいている。
いや、知らないよ?君の読んだのがどんなんかは。ただクロスボウが鎧を貫通するんだっ!ってのは場合によってって話しなだけで、必ずしも不正確ではないのよ。
「異世界小説にしろ何にしろ、まずは生の情報を集める事です。偏った思い込みや勘違いがこの世界では命に直結しますからね。」
諭すようにそう告げると黒髪は神妙に頷いていた。
「私からもすまない。本来口を挟むべきでは無かったのだが、どうしても気になってしまってね。余計な口を出してしまった事お詫びするよ。」
金髪イケメンがそう告げると黒髪は「いや、こちらこそありがとう。」とお互いいやいや、とやり合っている。うん。日本人ぽい。
「リョウさんと言いましたか、気にする事はありませんよ。こちらのレインさんも領主の子息に転生して、滅茶苦茶やらかしてますから。」
私の言葉にレインはバツが悪そうにする。
「そうなのか?領主の息子なら不自由なくチート出来そうなのに。」
黒髪の言葉にレインは遠くを見る。
「私も考えが甘かったんだよ…」
そうだね。肥料改革だとワームの魔物を大量発生させたり、紙を作るぞと森林伐採しまくって生態系を壊したり、布の染色だと河川を汚染してみたり。よく領が滅びなかったなレベルが考えが甘かったで済むならそうなんだろうね。
私がジト目で金髪を見ていると、さらにバツが悪くなったのか、金髪はコホンとわざとらしく咳をして話しだす。
「ま、まぁ。人間失敗から学ぶものさ。」
金髪のやらかしは過去トップ5には入るのだが、彼も反省しているから許してあげよう。
私は寛大な使徒様なのだ。
金髪と黒髪はお互い情報交換をするらしく、こちらに感謝を述べてゾロゾロと去っていった。
まぁヒャッホーして他人に迷惑を掛けた訳ではないので、ましな部類の黒髪だったな。
そんな事より私は武器屋に用があるのだ。
武器屋の前で異世界人っぽいのがごちゃごちゃしてたから時間を置いてみたが、私は武器屋に入りたいのだ。
まったく人の邪魔しおって、とぐちぐち思いながら武器屋の扉をバンっと開ける。
「悪魔憑きを封印できる伝説の剣を下さいっ!!」
「んなもんねぇわっ!」
何処かでやったやり取りを武器屋の店主とする。
はて?デジャヴか?
「違うんですっ!それが無いと悪魔憑きがオヤツの時間削ってまで書類仕事させようとするんですっ!世界の危機ですっ!」
私の切実な思いにも武器屋の店主は冷静だ。
「随分具体的な内容の悪魔憑きだなっ!オヤツが犠牲になるくらいなら大丈夫だろ。」
コイツは何を言っているんだ?オヤツの重要性がわからないとは、人生損してるな。
「貴様にあの悪魔憑きの性悪さが解るのかっ!わからないなら黙って封印の剣を出せっ!」
貴様は何も解っていない。あの悪魔憑きの恐ろしさを。世界なんてデコピンで滅ぼせるぞアレは。
「ねぇもんはねぇ。それより使徒様。あんまり言ってると怒られるぜ。」
店主はそう言うと私の後に控えているリファをチラと見る。
私も釣られてリファを見ると彼女は頷き口を開く。
「ご主人様ぁ。あんまりお痛がすぎるとミリー様にご報告しますよぉ。」
うん。この話はおしまいだ。戦略的撤退だ。
「それより使徒様。表の奴らは片付いたのか?」
ナイス店主!良いパスだ!
「ちゃんと順を追って説明したら納得してくれましたよ。彼ら異世界人は読んだ小説によって知識の偏りがあったりするので困ったものです。」
「まあ、それは異世界人に限ってじゃねぇが、クロスボウ買いにくるヤツが多いのは確かだな。」
やっぱり居るんだよねぇクロスボウヒャッホー。
「うちは実際に試射して威力を見せたらすんなり引いてくれるからイイが、商業ギルドのレイコのトコは毎回大変らしいぜ。」
レイコさんかぁ。あの人苦手なんだよねぇ。
「実物が有るのと無いのとじゃ理解度が違いますからねぇ。東区、西区の商業ギルドには頑張って欲しいところです。」
私は呼ばれるまで仕事したく無いのだ。出来る事なら1日中ぷらぷらしていたいのだ。
そんなこんなで武器屋を後にした私はあっちへぷらぷら、こっちへぷらぷらしてから屋敷へと帰る。
帰りしなにふと見覚えのある後ろ姿を見つける。
「やあミリー。何処かへ出ていたのかい?」
我が家の筆頭メイドであるミリーに声を掛けると彼女は一礼してから素早く馬車へ乗り込む。
「えぇご主人様。少し王城に用が御座いまして。」
王城かぁ。行きたく無い場所トップ10には入っているな。
「ご主人様はお仕事ですか?」
私に問いかけながらもリファをチラと見るミリー。
そんな彼女の圧にも負けず、私は毅然と告げる。
「そ、そうでしゅ。」
……
沈黙が辛い。
「そうでしたか。私はてっきり、伝説の剣とやらをお探しに行かれたのかと。」
………
裏切り者がおる。この王都に裏切り者がおるのだ。
「ち、違いましゅ。」
…
……
私はミリーの視線を感じながらも流れていく景色に目を向ける。
もうおしまいっ!この話しはもうしないっ!
お家帰ってから怒られた。




