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うまてんせい

馬に転生。

うん。聞いた事無いな。あと、もっとちゃんと選べよって思う。


その馬に会う為に放牧されている広場へとやってきた。

そこには多種多様な騎馬がたくさんおり、もちろんポニーからケンタウロス、はたまたペガサスまで様々だ。

多くの騎馬達がのびのびと過ごしている一角に転生馬はあいつだろとわかるくらいどんよりした空気の馬が1頭。

もう木に寄りかかってこれでもかと悲壮感を漂わせている。


「あいつだな。」

もう説明すら不要だ。やる気0だ。

「ディープさんっ!使徒様を連れて来たよっ!」

そんなやる気0の馬にも健気な少女は少しでも憂いが晴れるようにと駆け寄っていく。


「使徒様に話し聞いてもらったら、どうにかできるかもしれないよっ!元気出してっ!」

少女の言葉に少しだけ希望を見出したのか、ディープと呼ばれた馬はこちらを見る。


「あんたが、使徒か?」

その馬はハッキリとそう告げる。

「えぇ。一応異世界人の悩み相談みたいな事をやってます。」

私の言葉を聞くと寄りかかった木からガバっと身体を離し食い気味に迫ってくる。

近ぇよ。馬。


「ちょっと聞いてくれよっ!使徒様っ!俺っ異世界に転生させてくれるって神のヤツが言うから頼んだらこんなんなっちゃったんだけどっ!やり直しとか出来ないっ?ちょっと思ってたのと違うんだけどっ!」

「まぁまぁ、落ち着いて。1からお話し伺えますか?」

食い気味に話して来る馬を両手で押しやりながらそう告げる。


「ディープさんですね。私、異世界審問官をしておりますルカと申します。ディープさんは異世界人との事ですが、日本のご出身で間違いないですか?」

「あぁ。そうだ。日本で会社員をしていた。ある日事故って気付いたら神の前にいた。」

「なるほどなるほど。そこで異世界転生と言われたと。失礼ですが、神とはどんな容姿でどんな会話をされたか覚えていらっしゃいますか?」

「いや、姿はわかんなかったな。でも雑談で競馬の話しで盛り上がった。俺も日本では競馬が趣味だったんだ。」

ふむ。遊戯の神あたりか?馬の神もあるかもだけど。

「なるほど。馬にしてくれとはお願いしましたか?」

「いや、転生とは聞いたが馬とは聞いてない。あー、でも日本に似た名前の名馬がいてさ、そいつ引退後に凄い数の種付けしたらしいんだけど、生まれ変わるならそんなヤツになりてーなーみたいな話しで盛り上がった。」

お前、少年少女の前で何言ってんだよ。知能まで低下してんのか?


因みに小間使いの少女は所々しか聞き取れないようで、カイシャイン?ケイバ?と聞き慣れない単語に首をかしげている。

「いやー、やっぱり男なら憧れるでしょ。馬ってすげーよなー。何千回って話しだよな。」

頭腐ってんのか?お前もう馬のままでいいだろ。


私は否定も肯定もせず質問を続ける。

「此方に来た当初は元気だったと伺いましたが?」

「そうなんだよっ!馬にはびっくりしたんだけどさー、まぁ馬好きだったから自分で走れるのも楽しかったし、神から聞いた話しだとそこら辺の馬より能力上らしいから名馬として重宝されるって思ったんだよ。」

「では問題無いのでは?」

馬でびっくりだけど、馬好きだから大丈夫だったんだよね?


「…試験管なんだよ。」

「は?」

「だからっ!種付けが試験管なんだよっ!」

お前でかい声で何言ってんだ。頭沸いてんのか。


私は咄嗟にリファへ指示を出して少女の耳を塞がせる。少女は試験管?と首をかしげている。

聞かなくて良いですよー。このお馬さん馬鹿ですからねー。頭沸いてる種類のお馬さんですからねー。

「だからよー、使徒様。俺もどうせならディープみたいにって意気込んでたのにさー、馬の種付けって模擬馬みたいなのに試験管付けて、それでズドンっみたいな?全然思ってたのと違うんだよー、なんかもう作業よ作業。あんなん1回と数えてほしくないね俺なら。」

いや、知らんがな。もうお前は試験管が恋人で良いだろうが。

一生試験管と仲良くしてろ。


「転生のやり直しとかはやってませんねー。一応馬の話しで盛り上がって、そんなヤツが良いっていう希望も叶えてある形ですしー。」

もう面倒くさっ。こいつが凹んでようが全然気にならんわっ。小間使いの少女が良い子すぎるだろ。


「此処にいたら、ずっと試験管相手で気がおかしくなりそうなんだよ。助けてくれよ使徒様。」

「いやー、どうにもなりませんかねー。」

「なら使徒様の愛馬になるってのはどうだ?ほら、俺結構名馬らしいし。」

「いやー無理ですかねー。うちの家小さいんでー」

お前などいらん。頭腐ってる馬を引き取るくらいならケンタウロスにするわ。


「いやいや、そこを何とか頼むよ。凹んでるトコをその少女にあんまり見せたく無いんだよ。」

うっ。痛い所を突いてきやがる。確かにこの少女は良い子過ぎる。まだ万全では無いスキルで聞き取れた単語から相手を思いやれる超絶良い子だ。もしこの子のスキルが開花してしまったら、頭腐った馬の話しを全部理解してしまう。それだけは避けなければ。


ぐぬぬとなっていると少女の耳を塞いでいるリファが話しに混ざってくる。

「ご主人様の愛馬ではなく、馬車用の馬なら探しているとミリー様がおっしゃってましたよぉ。」

その言葉に馬は嬉々として喋りまくる。

「ほらっ!丁度良いじゃんっ!使徒様の所は馬を探してる、俺は此処からでたい!解決じゃん。」

お前の頭が沸いてなかったらな。


「ディープさん使徒様の所へ行けるんですかっ!」

キラキラした少女の瞳には勝てなかった。

超絶良い子少女は良かったねーと頭の沸いた馬を撫でている。

「使徒様。当店よりお買い求めありがとう御座います。また当店の小間使いの失礼申し訳ありません。」

「いえ、大丈夫ですよ。当家も馬が入り用だったので。」

「使徒様の寛大な御心に感謝を。」

私が店主と話しをしている間リファは書類関係の手続きをしている。なんかいっぱい書類あるんだねー。


手続きを終え、目の前には店主と小間使いの少女がいる。

「では使徒様。ご購入いただいた馬達は責任を持ちましてお届けにあがりたいと思います。」

馬達?リファが他に必要な馬でも見繕ったのかな?

「えぇ、私はこれから少し予定がありまして。宜しくお願いします。」


「使徒様っ!ディープさんの事ありがとう御座いましたっ!」

少女が元気良く告げる。うんうん。子供は元気が1番だ。

少女の頭を撫で頑張るんだよと一言かけて店を出る。


せっかく南区まで来たのだ。それから私はあっちに行ったり、こっちに行ったりして南区を満喫する。

途中で買い食いしたり、色々な雑貨屋、魔導具屋を覗きリファが「いい加減帰らないとミリー様に怒られますよぉ」と言い出すまで買い物は続いた。

中央区の我が家へ馬車で向かう。

すっかり夕方だ。流石に日が暮れたらミリーに怒られるが、まだセーフだ。

楽しかった南区を思い出しながらホクホクしているともう我が家の門だ。


「主様お帰りなさいませ。」

我が家の門番が頭を下げる。いつもありがとうと思いながら門番を見る。


「…リファ。うちの門番って人族だけじゃ無かったっけ?」

「新しく雇いましたぁ。足が早いのも必要なのでぇ。」

「…ぁぁ。そうなんだ。」


ケンタウロスも買ったんだ。


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