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違ううまがいいな

店主とリファのケンタウロス推しをなんとか躱し、まだ見ぬ名馬を求めて厩舎内を進む。

「当店のイチオシだったんですがねぇ。」

諦めろ店主よ。私は普通の名馬が欲しいのだ。普通の名馬ってどういう事なんだろう。

きっとあのケンタウロスには相応しい主が現れるはずだ。

彼はケンタウロスとして優れているのだ。きっと私じゃなくても大丈夫だ。


店主はブツブツ言いながらも新たな名馬を紹介してくれるらしい。

規模に恥じない取り扱いの多さだ。次こそは理想の名馬であってほしい。

店主は迷う事なく厩舎を進むとまた扉付きの馬房の前で止まる。

「次こそは、是非使徒様にオススメできる1頭となっておりますっ!」


うん。ケンタウロスの後だからね。何か信用ならん。

「次は上半身人とかじゃないですよね?」

「もちろんでございますっ!今回は正真正銘の馬でございますっ!」

主人は今回こそはっ!と胸を張る。その自信が不安である。


小間使いの少女が扉を開ける。

そこには黒い毛並みの立派な馬がいた。

素晴らしいじゃないかっ!体格もがっしりしていて、何より黒い毛並みが素晴らしい。

馬ながらに強者の風格を感じさせるのもまた良い感じだ。

大人しい子と伝えたが、やはり風格も大事である。


私はその馬に近づくと撫でてみる。

馬は私が近づいても大人しく、毅然とした態度でその場に佇んでいた。

「素晴らしいじゃないか、まさに名馬といえる風格、私の愛馬に相応しい。コレほどの馬を所有しているとは店主の手腕は素晴らしいのだね。」

「お褒めの言葉ありがとう御座います。黒く光る毛並み、ハリのある臀部、人を受け入れる度量、どれを取りましてもこのポテンシャルに並び立つ黒葉馬は他にはいない…」

「ちょっ!ちょっ!ちょっとまって。」

私は店主の言葉を止める。今なんか聞こえた?


「今なんと言いました?」

「黒く光る毛並み?」

いや、そこじゃない。

「ハリのある臀部?」

いや、お尻は素晴らしいがそうじゃない。

「他に並び立つ黒葉馬は…」

そうっ!そこっ!こいつ黒葉馬なのっ!?ウニョウニョ蔦だすあいつなのっ!?

私の言葉に店主は不思議そうな表情をして首を傾げている。

「黒葉馬は騎馬として一般的でございますよ?」

いやっ!そうなのかもだが、私はあのウニョウニョが受け入れられないのだ。

生理的に無理なレベルなのだ。

「そうで御座いましたか…。しかし使徒様。あのウニョウニョは切断して手を入れれば然程気にならないかもしれませんよ?」

えー?ウニョウニョだよ?大丈夫なの?

「えぇ使徒様。黒葉馬の蔦は朝切ってしまえば、夕方には少しジョリジョリする程度まで抑えられます。」

……

いや、もっと嫌だわ。何なん、その朝剃ったヒゲみたいな生態。

余計気持ち悪くなったわ。無理解散。


「此処には私に相応しい愛馬はいなかったようだよリファ。」

応接室へと戻りながらリファに話しかける。

「そもそもぉ、ご主人様はぁ、足が短いのでお馬さんに乗れないと思いますぅ。」

リファよ。足が短いではなく身長が足りないと言いなさい。私ご主人様ですよ。

ポニーも候補に入れるべきか悩んでいると、今まで一緒に付いて来ていた小間使いの少女が意を決したように喋り出した。


「あっ、あのっ、使徒様っ!実はご相談したい事があるのですがっ!お話し聞いてもらえませんかっ!」

突然話しだした少女に若干びっくりしていると、我に返った店主が少女を咎める。

「こらっ!使徒様に無礼だぞっ!控えなさいっ!」

店主に咎められた少女はしゅんとしたように顔を伏せる。

「まぁまぁ、私で良ければお話しをききますよ?」


そう言うと少女は嬉しそうに顔を上げ、せきを切ったように話しだす。

「あっ。あのっ!いま放牧に出されてる子なんですけどっ!なんか様子がおかしくて、喋りかけても返事も適当な感じで、あっ!私お馬さんの喋ってる事がぼんやりわかるんですけど、その子なんだか悲しんでるみたいでっ!それで心配になって!みんなが凄いって噂する使徒様なら何とかしてくれないかなって!」

必死に思いを伝えようとする少女を落ちつかせる為に私はゆっくりと少女に話しかける。

「馬の気持ちがわかるというのは、君はテイマーの才能があるのかな?」

「あ、あの。才能があるかはわからないけど、お馬さんの言いたい事が単語でわかる感じです。」

少女は不安そうに答える。

「大丈夫。君が今のまま一生懸命頑張れば将来きっとお馬さんと話せるようになるでしょう。」

私が少女の頭を撫でながら告げると少女は嬉しそうに笑う。


「それで、そのお馬さんが悲しそうとはどういった様子なのかな?」

少女はハッとした様子で自分が思った事を上手く伝えやうとしている。

「あのっ!なにがとかでは無いんです。最初うちに来た時は楽しそうにしてて、でも日が経つとだんだん元気がなくなって。今じゃ帰りたいってずっと言ってるんです。」

少女は自分の事のように寂しそうにしている。

「そうなのですね。それはとても心配ですね。お馬さんは何処に帰りたいとか言っていましたか?」

少女の悩みが少しでも解消出来るように情報を聞き出す。


「最近はずっと言ってるんです。ニホンに帰りたいって。」


……

あー。

馬に転生しちゃったかー。

私は思わず遠い目をしてしまう。


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