うま
ある晴れた日。私は南区の門へと足を運んでいた。
何故なら昨日ふと思ってしまったのだ。
馬に乗って颯爽と現場に駆けつけたらカッコいいんじゃね?と。
そんな訳で馬を見繕う為に南門へとやって来たのだ。
勿論我が家にも馬車とそれを引く馬はいる。しかし私が欲しいのはもっとキラキラしたヤツなのだ。いや、決して我が家の馬達がキラキラしていない訳ではない。しかしヤツらは私よりミリーに従順なのだ。私なんかは主の隣にいるちっちゃいヤツみたいな扱いなのだ。
そんな馬はいらんっ!私が求めているのは私を孤高の主と認めた誰からも一目おかれる名馬なのだっ!
そんな訳で私はリファを連れ南門へとやって来たのだ。馬屋はだいたい門の近くにある。貸し馬車、乗合馬車が門の周辺にあるのは偏に管理のしやすさだろう。門の外で馬を運動させたり、交通の拠点となる門の周辺は何かと利便が良いものだ。
東は海、西は森、北は山、南は平原となるとやっぱり南門一択なのである。
まだ知らぬ名馬を求めて馬屋の扉を開く。中は想像以上に広さと清潔さを兼ね備えていた。ここなら期待ができそうだ。
「これは、これは使徒様。ようこそいらっしゃいました。本日はどの様なご要件で。」
私を見つけた小太りの店主が走り寄って来て頭を下げる。
「こんにちは店主。今日は私に相応しい愛馬を探しに来たんだ。」
「それは、それは。我が商会をお選びいただきありがとうごさいます。一先ず応接室へご案内いたします。」
小太りの店主は愛馬の部分に若干ピクッとしたが、慣れた手つきで応接室へと案内する。
通された応接室はいたってシンプルで、しかし見る人が見ればわかる高級品も程よく置いてある実に私好みの部屋だった。この商会の店主はセンスが良い。きっと私に似合う名馬もいることだろう。
「さて使徒様。愛馬をお探しとの事でしたが、いったいどの様な馬をお探しでしょうか。」
出された紅茶の香りを楽しみ、一段落ついてから店主が切り出す。
「うん。私が乗るに相応しい名馬はいるでしょうか?」
「……使徒様が乗る?」
私の言葉に店主はしばし硬直し私の言葉を反芻する。
「……馬車を引かせたり鑑賞したりではなく?」
「うん。できれば大人しい子がいいかな。狩りとか連れていったり、馬術もやったりしたいと思っているんだけど。良さそうな馬はいるかい?」
店主は思わずといった感じでリファを見る。リファはブンブンと首を横に降っている。きっと使徒様は生半可な馬では納得しないとのジェスチャーだろう。流石はリファだ。
「も、もちろんでございます。是非我が商会で使徒様の愛馬をご紹介させていただけたらと思います。」
「うん。期待しているよ。」
私がそう告げると店主は「馬の見学の準備をしてまいります。」と部屋を出ていった。
「良い馬がいるといいねリファ。」
私はまだ見ぬ愛馬に夢を膨らませている。
「ご主人様に合う馬はいないと思いますぅ。」
そうか。流石はリファだ。この商会1件で安易に決めてはいけないと言うんだな。確かにその通りだ。私に相応しい名馬がいなければ他所も探し歩くしかない。まだ見ぬ愛馬だ。決して妥協はしないようにしよう。
私が決意を新たにしていると店主が小間使いと共に呼びに来る。
「使徒様。お待たせいたしました。厩舎の方へご案内いたします。」
彼の言葉に私達は部屋を出て厩舎へと向かう。厩舎はとても広く、しかし清潔に管理されていた。何やら扉が付いた馬房もいくつか存在している。店主は現在管理している頭数、管理の工夫など雑談をしながら目当ての馬房へと進む。
「ご紹介しますのは、サイズは少し小柄ですが、とても穏やかな子となっております。」
ふむ。少し小柄な子のほうが小回りが効いたり俊敏だったりするもんね。
馬房を覗くとそこには茶色の綺麗なたてがみをした馬がいた、店主の言葉通り、我々に驚くような事もなく、真っ黒でつぶらな瞳は少しこちらを伺うようなそぶりだ。
「…リファ。私は馬の事をあまり良く知らないのだが、この子は君から見てどうかな?」
「しっかりと調教されているようですぅ。我々に驚くような事もせずぅ、じっとこちらの指示を待っている利発的な子かとぉ。」
「…そうなんだね。少し小柄かな?」
「ポニーですねぇ。」
……
………。
だよねぇっ!ちっさいと思ったわっ!いや、ポニーはポニーでもさらに小型じゃない?大丈夫?子馬のほうがでっかいよ!?
私はグルンっと首を回し店主を見る。
「し、使徒様が乗馬なさると言う事で、条件に合致するサイズはこの子しかおらず…。」
私の眼力に恐れをなしたのか、店主はしどろもどろになりながらも答える。
「こ、これ以外となりますと、その、使徒様のご要望とは少し異なりまして…」
「…ちなみにその子はどんな子?」
「あの、その……ロバです。」
うん。馬を見に来てロバを進められたら、そら死罪だ。使徒様不敬罪だ。
君の選択は正しいよ店主。使徒様ファン3億7千万人を敵に回す所だったよ。
「少し言葉が足りなかったね。私の乗馬云々は気にしなくて良いよ。ぜひこの店でオススメ出来る子たちを見せて欲しい。」
私の身長はこれから1カ月に10センチずつ伸びる予定なのだ、来年の今頃には2メートルを超えている筈だ。ポニーは私の器には少し足りないかもしれない。
店主は私の言葉に「そうでしたかっ!」と納得したように頷き「では少し選択肢が増えました。」と次の馬房へと案内する。
「次ご紹介させていただく子は標準的なサイズとなっております。しかしとても利発的で頭が良く、一度主と認められればとても忠誠心が高い、尚且つ乗馬に際しても意思疎通のできる優秀な1頭となっております。」
おぉっ!いいじゃないかっ!正に名馬と言われる資質を備えている。忠誠心が高い所もプラスだ。そうそう。こういうのを求めてたんだよ。話せばわかるじゃないか店主よ。
しばらく厩舎を進み扉の付いた扉を前に店主は立ち止まる。
「この子は年も若く、まだまだ今から伸び盛りです。ぜひ御覧いただけたらと。」
小間使いの少女が扉を開ける。
そこには程よくハリのある筋肉が付き、しかし足は綺麗に細く正に名馬と言っても良い存在がいた。
「そなたが我の主となる者か。」
私はそっと扉を閉めた。
いやー。下半身は名馬のそれなんよ。でも上半身は人なんよ。
「いかがされました?使徒様。」
いや、いかがも何も上半身人なんよ。そりゃあ頭良いよねっ!人の頭付いとるんやもんっ!
「とても利発的で意思疎通の出来るオススメの1頭となっておりますが…」
えぇっ!そうでしょうねっ!意思疎通出来るでしょうねっ!上半身人やからっ!
「いや、ケンタウロスはちょっと違うかなーって。」
いやどうなん?そもそもケンタウロスって乗るもんなのっ!?人が乗ったら2人乗りになるのっ!?絵面的にどうなん?人の後ろに人でもうなんか良くわからんくならん?なんか私の思ってたんと違う。
「ケンタウロスはぁ。忠誠心がとても高いですよぉ?」
ちゃうねんリファ。そういう事じゃないんよ。




