ミリー
王都にある広い御屋敷。
私はそこでメイドとしてご主人様にお仕えしている。
幼児体型の使徒様のお着替え、ご食事、お風呂多種多様なお世話と共に御屋敷の管理、お仕事の雑務、メイド達の教育など多忙な毎日を過ごしている。
私はこの身をご主人様に捧げ、過去は捨てたのだ。
今では主様にお仕えするのが天命だったのだと思える。
そんな私の元へご主人様部屋付きメイドのリファが現れる。
「ミリー様ぁ。今月の使徒様通信のゲラが届いてますぅ。」
間延びした喋りをする彼女もまた、敬愛するご主人様へと仕える同志である。
「ありがとうごさいます。何か気になる点はありましたか?」
私の問いにリファは首を傾げ少し考えた後で話しだす。
「気になるというかぁ。新作のカエルさんとアヒルさんの会員証ケースは欲しいですぅ。」
あぁ、あれか。提携店の店主が売り出したいと試作品を持って来た時には私も良くやってくれました。と賛辞を送った物だ。確かに私も欲しい。
「手配しておきましょう。3つで大丈夫ですか?」
「3つ?1個ずつで大丈夫ですよぉ?」
なんとっ!1個だと何用なのですかっ!?保存、鑑賞、使用で3つ必要無いのですか!?
私は内心の驚きを悟られぬよう極めて冷静に話す。
「そうですか、手配しておきます。他に何かありましたか?」
「ゲラをお持ちになった方がぁ、応接室でお待ちですぅ。」
そういうのは早く言って下さい。
足早に応接室へと向かうと扉をノックし中へ入る。
客人は私を見ると神殿で使われる礼をする。
「隊長お久しぶりでございます。」
私を見てそう言った彼女は青い神官服を身に纏い笑顔でそう告げる。
「お久しぶりですね、ネフィア。半年振りでしょうか?あなたがゲラを持ってくるなんて珍しい。何か問題がありましたか?」
「いえ、今回の異端審問に私も参加しましたのでご挨拶とご報告をと。」
異端審問。
神の教義に反する行いを摘発、処罰し神の教えの正しさを民に伝える。我々オリジンの主要任務の一つとして挙げられ、数多くの同志達が各地にてその任務をこなしている。
「使徒様通信にも書かれていた、会員番号3409番の使徒様との過度な接触ですが、使徒様御本人から抱っこの要請があった事が確認されたので不問といたしました。また東区冒険者ギルド内にて使徒様の侮蔑を行った者に対しては、各々程度により対話にて議論させていただきました。」
ふむ。使徒様は移動為さる際に抱っこを多様される節が多々あります。あまり過度に規制すると我々同志も会員の皆様も使徒様と触れ合う機会が減少してしまいます。不問で問題無いでしょう。
「それで構いません。」
因みに冒険者との議論は拳で行われている筈でしょう。きっと深くご理解いただけた事と思います。
私は自分用の紅茶を手早く淹れると少し口にする。
報告と挨拶。彼女はそう口にしましたが、きっとそれだけでは無いでしょう。
通信のゲラ、試し刷りを持参するのにオリジン第5席の彼女が態々来るとは思えません。異端審問の報告も別途書類にて決裁済みとなっています。
私がカップをそっと置くと、彼女は意を決したように話し出す。
「隊長っ!私も使徒様のお側でお仕えするのをお許し下さいっ!」
彼女の決意に揺らぎは無いようだ。過去にも同じ様な事を話した事を覚えている。彼女もまた同志として同じ気持ちなのを嬉しく思う。
「なりません。」
「何故ですっ!?使徒様にお仕えする為にレベルも大幅に上がりましたっ!私にも使徒様のお側にお仕えする資格がある筈ですっ!」
彼女の努力とひたむきさが嬉しい。何事も努力できるという事は尊敬に値する。ただただ光を求め、自らに枷を嵌め、その人に並び立とうとする心のなんと清い事か。
「現状ではお仕えする人員の変更の予定はありません。私、ルビアス、リファこの3名で滞りなくお仕えできております。」
私の言葉にネフィアは悔しそうに俯き拳を握る。
彼女の気持ちが痛い程わかる。彼女の純粋な敬愛の念が痛い程わかる。
「た…せば」
「3人のうち、誰かを倒せば代わって貰えますか。」
その言葉に私は思わず笑ってしまった。
嬉しかったのだ。彼女もまたオリジンなのだと。
「勿論。我々オリジンは対話こそ全てです。」
私は手元にあるベルを鳴らし、リファを呼ぶ。
「お呼びですかぁ?」
「リファ。ネフィアが側仕えを代わって欲しいそうです。」
私の言葉にリファの殺気が瞬時に広がる。空気がビリビリと重くなった。
彼女もまた自分の居場所を奪われるのを良しとしない。
「私とぉ。戦うんですかぁ?」
言葉とは裏腹に彼女の目つきは鋭い。
「少し遊んであげますぅ。」
そう言うとリファとネフィアは訓練場へと向かっていった。
きっと彼女はまだまだ強くなる。
いつかは使徒様のお側にお仕えできるだろう。
だが今ではない。
「ふふ。共にお仕え出来る日を待っていますよ。ネフィア。」




