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商業ギルド

マヨネーズ問題を肴に紅茶をちびちびとやっていると、テラスへと一直線に走り寄ってくる影が。

襲撃かっ!とレイコさんの従者達は彼女の前へボディガードのように立ち塞がる。

うん。君たち使徒様も少しは守ろうね。


その影を作った人物はピタと止まると息をきらし慌てたように何かを伝えようとしている。

従者達とやり取りしたあと、番傘を差したままのサスケが声をかけてくる。

「姫様。使徒様。ご歓談中に申し訳ありません。商業ギルより使いが参りまして姫様にご報告が。」

サスケはチラとレイコさんを見る。

「よい。そのまま申せ。」

レイコさんの言葉に頭を下げたサスケは使いの報告を話しだす。

曰く、商業ギルドにマヨネーズ量産野郎がまたやって来て、絶対に売れるからと食品の特許登録をしろと受付で揉めているのだそう。

食品の登録ならば規定の書類等があれば申請自体は受け付けているので何かしら不備があったのを強引に進めようとして揉めているのだろう。


これは離脱の大チャンスだ。

私は急いでませんよ、という雰囲気を出しながら言葉を紡ぐ。

「非常に楽しいお茶会でありましたが、そういう事なら仕方ありません。名残惜しいですが、私はここで失礼いたしましょう。」

完璧である。相手を立てつつも失礼しますと断言しているのだ。

「まぁ、なんと嬉しい事を言って下さいます。そうだせっかくなので使徒様も商業ギルドへご一緒されませんこと?光栄な事に使徒様も名残り惜しく思って下さっているご様子。ならば是非商業ギルドへとお越しいただいて我がギルドの職員達の成長を見ていただきとう御座います。」

余計な事言った。「じゃあ帰ります」って言えばよかった。



レイコさんに連れられて西区商業ギルドへと足を踏み入れるとカウンターを通り過ぎ応接室へと通される。

受付で大きな声で騒いでいるのかと思ったが意外だった。

流石商業ギルド。煩いヤツはすぐ人目のつかない所に隔離だ。

応接室の扉を「姫様どうぞ。」とサスケが開ける。サスケよ使徒様もおるぞ。


中へ入ると商業ギルドの制服を着た職員と、メガネをかけた優等生っぽい人物が何やら話し込んでいた。

職員は私達を確認するとすぐに立ち上がり礼をすると席を譲る。

お誕生日席に座ってみようかなと思ったが、冗談が通じなかったら面倒くさいので大人しく姫様の隣に座る。

「西区商業ギルド副ギルドマスターのレイコじゃ。何やら登録で問題があったとか。」

私は名乗らない。この件に深く関わるつもりはないのだ。

レイコの言葉を聴き優等生が話しだす。

「商人のユウトです。この度は食品の特許登録に参りましたが、何やら書類不備とやらで、何とかならないかと職員さんにご相談させていただいておりました。」

うわ。白々しい。ギルド職員さんがダッシュでレイコさん呼びにくるなんて、よっぽど職員に無理言って居座ってたからだろ。嫌いなタイプだわこいつ。


「ほう。相談とな。受付で揉めているとギルド職員が慌てて呼びに来たが間違いであったかの。」

「まさかまさか。私は商機を逃がすまいと職員さんに何とか出来ないかと相談をしていただけです。」

たぬきが2匹おる。

「それはそれは商人として大変良い心がけじゃの。しかし書類不備となるとのぉ。」

レイコさんが書類をペラペラと捲りながら告げる。

「そこなのですっ!私は商人として画期的な食品の製造工程を知っています。きっと王都、いや大陸全土でも需要があり、尚且つ今は誰も手を付けていない分野なのです。きっと商業ギルドにも多大な利益となる食品を少しの書類不備で却下されるのは商業を生業とする者としてどうかと思う次第です。」


あー。嫌なタイプだわ。

書類不備だけど売れるんでどうか再考お願いします。で良いじゃんね。

なにが生業とする者としてーだよ。なんでマウント取りたがるんだよ。

商業ギルドの職員さんはお前より数多くの案件取り扱っとるわ。


「商業ギルドの利益とな。ふむ、では書類不備は横に置いて話しを聞いてみるかの。」

パラパラと書類を見ていたレイコさんはそう告げる。

えー?聞いてあげるの?ぶん殴って森に帰したら良いのに。


商業ギルド副ギルドマスターにそう言われた優等生くんは、まるで極秘事項を語るように喋りだす。

「私は実は異世界人なんです。」

知っとるわ。黒目黒髪でマヨネーズ量産野郎なんだから。

「ほう。」レイコさん優しい。

「そしてこの世界にある食品が流通していない事に気がついたのです。そして原材料は他品目にも使用されておりません。つまり材料は大量にあり、誰もこの分野に進出しておらず、さらに食卓には欠かせないものになる可能性を秘めた食品なのです。」

「ほう。それはどのような食品なのじゃ。」

「……それは。海苔ですっ!」


応接室内に沈黙が広がる。

「海苔とな。」

「はいっ!海藻から作られ、日本人なら誰しも食べた事のある、食卓に」

「いやいや、よいよい。海苔は知っておる。」

……

「えっ!?」

「いや、え!?ではなく海苔ならば知っておる。」

「いや、でも何処でも出してなくて、商人さんも聞いた事がないと…」

「ふむ。普通の職員なら知り得ない情報じゃな。かつてそなたの様に海苔を作って売ろうとした異世界人がおっての。しかし出来上がったモノを鑑定するとどうしても微毒が残ったのだ。その者はどうしても海苔を食べたかったのか、王都近郊、海沿いの各領地、隣国まで足を伸ばし様々な種類の海藻と手順で製造したが、ついに微毒を取り除く事が出来なかったのじゃ。」

「いや、でも魔法で何とかしたら…」

「何とかとは?」

「………」

うん。知ってた。海苔って書いてあるの見えたもん。

魔法で何とかってなんだよ。マヨネーズの時と一緒でフワッとしてんなっ!よくそれでマウント取ろうとできたなっ!


「いや、でも必ず売れる商品だし、そこはどうにかして。」

「はぁ、何故売れると?どうにかするのに多大な費用が掛かった場合、商品価格がとても高価になるかもしれないが、それでも長期的に売れると?」

「…でも私が読んだ異世界転移ものだと売れてたし。」

でたよ異世界転移もの。それはそれ、これはこれだろうが。


私がイラッとしているのが伝わったのか、レイコさんが此方に話しを振る。

「使徒様からは何か気になった事はございますか?」

優等生が使徒様という言葉にびっくりして、こちらをみる。

見てんじゃねぇよ。

「どうも。ルーベンス王国付き異世界審問官第4使徒ルカと申します。まぁ異世界人の問題解決の手助けみたいな事やってます。」

私の自己紹介に優等生は審問官と呟いている。

「横でお話を伺っておりましたが、ユウトさんはこの世界のお米の専有率をご存知ですか?」

「専有率?」

「えぇ、お米がどれくらいの割合で食べられているかです。だいたい王都だと食事を出す飲食店で2割だと言われています。」

私の言葉にレイコさんが頷く。

「お米ってまだそんなにメジャーではないです。」

私の言葉に優等生は愕然としている。

「主食ってパン、パスタ類なんですよ。しかもこれは異世界人の方から聞いた話しなのですが、海苔とは生海苔に限って言えば日本人しか分解出来ない酵素があるとか。まぁ分解出来ないだけで毒になる訳ではないらしいですが。それで、この王都には人族に限らず、獣人族、エルフ族、ドワーフ族その他多種多様の種族が生活している訳ですが、海苔とは他種族が食しても平気なのでしょうか?」

「……いえ。わかりません。」

優等生は小さな小さな声で呟く。

「では何故売れると?まぁ売れる以前に最初から安全面の書類不備で跳ねられてたんですが。」

優等生はだんまりだ。

「安全面の確約がない商品が、更に言えば現状2割しかシェアのないお米に特化した海苔という商品が何故万人に受け入れられると?」

優等生サンドバッグだ。


「貴方の様に異世界に来て色々な食品、商品を持ち込む方は沢山いらっしゃいます。しかし他種族故に予想出来なかった事故、アレルギー等で犠牲になった方々がいらっしゃった為にギルドではルールの厳格化が進んでおります。」

私は異世界異世界言ってる無責任な奴らに怒りを覚える。いやこの優等生だけが悪い訳ではないのだが。

「異世界転移もので読んだから…そんな理由で食の安全など守れるでしょうか?もう少し色々な事に目を向けられてはいかがでしょうか。」


優等生は下を見ながら小さくすいませんと呟く。

ちょっと殴り過ぎただろうか。

まあ良いか。嫌味なヤツだったし。


優等生は職員に連れられて退出した。塩撒いとけ塩。

「使徒様本日はありがとうごさいました。」

「いえ、私は何も。商業ギルド内で解決出来た事でしょうし。」

「あの様な者が少しでも減ってくれれば我が商業ギルドも手を煩わせる事がなくなるのですが。」

「異世界異世界言ってるヤツは何処にでも湧きます。」

「また来るんでしょうか…」

「また来るんでしょうねぇ…」


帰ろっ!!

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