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魔導書

魔術通り。

その名の如く魔術全般のあれこれが揃う通りである。

幼い見習い魔術師から果ては大賢者といわれる者達まで、そんな全ての魔術の叡智が集まったのが王都の魔術通りだ。


まだ見習いであろう、シンプルなトンガリ帽子にローブを羽織った定番魔女スタイルで走り回る幼子達に挨拶しながら、私は目的の店へと急ぐ。

少し古ぼけた外観ながらも歴史を感じさせるその店は、決して大衆店のような軽さも、高級感店のような堅苦しさも感じさせる事は無い。

ただそこにあるのはどんな無理難題にも応える王都の魔術通りを支える誇りと自信だけだ。


「夜中にふくらはぎが攣る呪いの魔導書下さいっ!!」

「んなもん、ねぇよ。」

私の渾身の注文をあっさりと否定したのはこの店の店主であるミランダだ。エルフ族なのにまるで歴戦の魔女のような妖艶な彼女は椅子に座り魔導書に目を通している。こちらを見ずに接客するなど使徒様への大不敬罪である。


「あるのはわかってるんだっ!早めに出した方が身のためだぞ。」

はぁ、とため息をつき魔導書をパタンと閉じて店主はこちらを見る。

「いや、だから、んなもんねぇよ使徒様。」

「なんでだよっ!出せよっ!!こちとら遊びや酔狂でやってませんのでねぇ!えぇっ!出さないとこの店の悪評記事を週間使徒様通信に書かせるからなっ!!」

「いや、ヤクザかよ。」

呆れた様子でこちらを見るエルフ。もう一押しだ。押してだめなら引いてみるんだ。

「お願いだよミランダー。あれがないと死んじゃうんだよー。お金はいくらでもだすからさー。」

「いやこわっ。」

「おぅおう。仮にも王都の魔術通りに店構える一国一城の主が客の要望に応えられないとはどういう了見だいっ!事と次第によっちゃぁ出るとこ出てもイイんだぜぃ。」

「情緒不安定すぎだろ使徒様。」

くそ駄目か。使えない店だ。こんな店潰れてしまえ。ピンポイントでカラスの糞が毎日落ちろ。

「使徒様。全部口にでてるからね。だいたい、そんな魔術あるわけないじゃないか。何に使うんだよ。」

おっと素直さが美徳の使徒様は声に出てしまっていたようだ。

私はミランダに先ほどコーヒーショップであった事件を話した。

「ぎゃははははっ!おねしょっ!駄目だよ使徒様っ!おねしょしちゃ!」

事もあろうに話しを聞いたミランダは大爆笑だ。腹を捩って涙まで出ている。笑いすぎだろこいつ。

しかもおねしょの冤罪付きだ。こいつも呪ってやろうか。

「ひーっ。笑った笑った。それで使徒様は魔導書探してんのかい。」

「夜中にふくらはぎ攣る魔導書とタンスに足の小指ぶつける魔導書下さい。」

「いや、なんで増えてんのさ。意味わかんないよ。」

使徒様プンプンである。

「それなりに長い事生きてるが、そんな魔術があるなんて聞いた事無いねぇ。呪いや祝福は神の領分だろうに。そんな珍しい魔導書があるなら見てみたいもんさね。」

確かに呪い、祝福は神の御業と言われている。しかし私はそんな正論聞きたくないのだ。かの悪魔憑きをぎゃふんと言わせたいのだ。

「やだやだっ!出せよー!見た目詐欺ババアー!若作りーっ!」

必殺使徒様の駄々こねだ。仰向けになり手足をバタバタさせる幼児の必殺技だ。幼児体型を余すところなくつかった最強の一手である。私にも精神的ダメージが入るが目的を達成する為なら致し方ない犠牲だ。


「困ったねぇ。ミリーちゃんに使い魔飛ばすしか…」

「自分調子に乗ってましたっ!あとは自力で何とかしますっ!お忙しい所お時間いただき誠にありがとうございましたっ!」

スクッと立ち上がり綺麗な礼をする。角度は90度だ。直角オブ直角だ。

悪魔憑きを呼ばれる前に撤退だ。なおこれは敗戦ではない、あくまで戦略的撤退なのである。


「面白い魔導書あったら持ってきてねー」という声を背後に聞きながら私は再び魔術通りを進む。

露天っぽいお店や高級店、冒険者向けのお店やグレーゾーンぎりぎりのお店などを冷やかしつつ目的の物が無いか探す。

途中で魔女っ子幼児達と鬼ごっこした。楽しかった。


おやつの時間なので甘い物をと考えながら魔術通りを抜けようとすると、みんなのアイドル使徒様にまたも声が掛けられる。


「ご主人様。」

……

「ご主人様帰りますよ。」

幻聴ではなかったようだ。


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