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その知恵、世界の礎(いしずえ)につき ~現代知識で異世界を便利にしたら、女商人と共に世界の道理を書き換えていた~  作者: カミツキ
二人の魔王編

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第49話 その直線、断絶の里程標につき

ドォォォン、と腹に響く震動とともに、巨大な土煙が舞い上がった。


かつては魔物が潜む深い森だった場所が、今は無惨に切り開かれ、不自然なほど真っ直ぐな茶色の傷跡が地平線の彼方まで伸びている。


「……次、流し込んでください!」


湊の合図とともに、労働者たちが手際よく木枠を組み、そこへ「灰色の泥」を流し込んでいく。


先頭に立つのは、元勇者アピウスだ。


彼は魔法を一切使わず、ただその圧倒的な剛力で巨木を根こそぎ引き抜き、岩を砕き、道を均していく。


彼の背中からは、魔物を寄せ付けない不可視の圧が放たれ、本来なら数年かかるはずの工期を、数週間へと圧縮していた。


「湊、この先にも古い集落がある。そこまで繋げば、人々はもう夜道に怯えなくて済むのだな?」


アピウスが額の汗を拭いながら、晴れやかな顔で問いかけてくる。


「ええ……。少なくとも、この道を通る間は安全です」


湊の返答は、どこか歯切れが悪かった。


足元で固まり始めた灰色の路面。


それは湊の知識がもたらした、中世の石畳とは比較にならないほど滑らかで、強固な「高速道路」だ。


その日の午後、完成したばかりの「新道」を、一台の商隊馬車が凄まじい速度で駆け抜けていった。


以前なら三日はかかったはずの距離を、わずか数時間で走破する。御者は湊たちの横を通り過ぎる際、景気よく鞭を鳴らして叫んだ。


「最高だぜ、兄ちゃん! この道なら、途中の寂れた村に寄って高い宿代を払わなくて済む! 今日の夜には、アルヴェアルの温かいスープにありつけるからな!」


馬車が跳ね上げた土埃が、道の脇にぽつんと立つ「看板」に降りかかった。


それは、新道からわずかに逸れた旧道へと続く、細く曲がりくねった泥道の入り口だった。


「……リールさん。あっちの村には、寄らなくていいんですか?」


湊は、その旧道の先にある小さな村――かつては宿場町として栄えていたはずの影を見つめていた。


「寄る理由があるかしら? 湊」


リールは日傘を差し、新しく敷設された路面を靴の先で軽く叩いた。


「あの村の井戸水は濁っているし、壁は薄い。何より、魔物の襲撃を完全に防ぐ柵すらないわ。……でも、アルヴェアルには貴方の作った清潔な風呂と、鉄の門、そして規格化された安価な寝床がある」


「でも、あそこには人が住んでいます。商売がなくなれば……」


「ええ。だから、みんな『こちら側』へ来ればいいのよ」


リールは遠く、ゴーストタウンのようになりつつある旧宿場町を眺め、淡々と告げた。


「誰も途中で馬を降ろさなくなるわ。宿も、井戸も、干し肉屋も……全部、通り過ぎられるだけになる……わざわざ時間をかけて不便な場所に留まるのは、合理的ではないもの」


湊は、新道の影に捨て置かれた旧道へ歩み寄った。


そこには、村から出てきたらしい一人の老人が、呆然とこちらの「道」を眺めていた。


老人の足元には、売れ残った干からびた野菜の籠が置かれている。


彼は新道を飛ぶように過ぎ去る馬車を、まるで別世界の出来事を見ているような、虚ろな目で見送っていた。


「……おじいさん。この道、使いにくいですか?」


湊が声をかけると、老人は力なく首を振った。


「いいや、素晴らしい道だ。……ただな、誰もあっちの細い道を見なくなっちまった。俺たちの村は、もう地図から消えたも同然さ」


老人は、新道の滑らかな灰色を一度だけ撫で、重い腰を上げた。


彼が向かうのは自分の村ではなく、木札を持った者だけが受け入れられる、アルヴェアルの巨大な門の方向だった。


「湊、見て。あそこに新しい杭を打って」


ナノの声に促され、湊は再び測量計を手に取った。


彼が杭を打つたびに、世界は真っ直ぐに、合理的に塗り替えられていく。


そしてその直線の外側では、何百年も続いてきた村の灯が、音もなく、静かにかき消されていた。


湊の足元で、舗装されたばかりのモルタルが、逃れられない物理法則のように冷たく固まっていた。

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