表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その知恵、世界の礎(いしずえ)につき ~現代知識で異世界を便利にしたら、女商人と共に世界の道理を書き換えていた~  作者: カミツキ
復興編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
41/53

第41話 その共生、循環の理につき

地響きが止まない。

広場の中央から噴き出した「黒い氷の棘」が、地表の石畳を無慈悲に跳ね飛ばし、リールが築いた偽りの平和を内側から爆破していた。


「湊、危ない!!」


エレナが湊の腕を引き、横へと飛び退く。直後、二人がいた場所の地面が凍上によって一メートル近くも盛り上がった。


鉄筋コンクリートの壁は耐えていたが、その下の地盤が液体のようにうねり、基礎を持ち上げている。


湊が誇った『防壁』は、今や巨大なシーソーのように傾き、周囲の民家を圧し潰していた。


「助けて……くれ……。足が、抜けないんだ……!」


瓦礫の山から、一人の男の顔が覗いていた。


昼間、湊に石を投げたあの男だ。


彼は地盤沈下で傾いた『防壁』のひさしと、地面から突き出した氷の棘の間に、右足を完全に挟み込まれていた。


男の背後からは、黒い澱みの臭いに誘われた『ビッグベア』が、よだれを垂らして迫っている。


「湊! あの人を助けないと!」


「……助けるんじゃない。『回収』するんだ」


湊の声は、自分でも驚くほど冷えていた。


彼はエレナの手を握り、崩落した瓦礫の隙間に、近くに転がっていた太い金属製の支柱を差し込んだ。


「エレナ、その棒の端を掴んで! 俺の合図に合わせて、魔力を思いっきり下に叩きつけて! 魔力の震えを一点に叩きつけるような感じでいい、この棒を力任せに押し下げるんだ!」


「えっ? でも、そんなことしても、この大きな壁は動かないよ!」


「いいから!! 行くぞ、せーの……ッ!」


湊が全力で体重をかけ、エレナが詠唱と共に魔力の圧力をパイプの端へ叩きつける。



――グ、グギィィィッ!



魔法使い十人の力でも動かないはずの巨大なコンクリートの塊が、不気味な音を立てて、わずかに宙に浮いた。


「い、今だ! 抜け!!」


男が悲鳴を上げながら足を抜き取ると同時に、湊はパイプを放り出した。


凄まじい轟音と共に瓦礫が再び閉じ、背後に迫っていたビッグベアの爪が、間一髪で空を切った。


* * *


やがて、氷の棘に埋め尽くされ、地盤が波打つように崩壊した広場の中央。


リールは、半壊した慈善施設の前で、力なく座り込んでいた。


彼女の誇った施設は、澱みに誘われた魔物たちによって蹂躙され、見る影もない。


「……終わったわ。地盤も、私の商売も、全部……」


湊は、足を引きずる「契約者」を背後に従え、リールを見つめた。


「リールさん。……あんたの商売、地盤沈下まで引き起こしたじゃないか」


「……笑えばいいわ。私、大失敗したのよ」


「笑わないよ。……でも、あんたの組織力はまだ生きている。……今度は、ただ便利さを売るんじゃなくて、この『澱み』を処理して、地盤を固め直すための仕組みを、あんたの力で街の人たちに認めさせてよ」


湊はリールに、泥に汚れた「契約書」――新たな支配の設計図を突きつけた。


「……ふ、ふふ。……いいわ。敗北者のまま終わるのは退屈だもの。……あなたのその冷徹な理屈、私が最高に高く売ってあげるわ、湊」


リールは、湊の差し出した泥だらけの紙を受け取り、立ち上がった。煤けたドレスを払い、彼女の瞳に商人の鋭い光が戻る。


「『契約書』か……。ねえ湊。初めてあなたとした『契約書』の内容、覚えてる?」


「えっ? ええと……石鹸が売れるたびに、僕に銅貨1枚をくれるっていうやつ?」


湊の問いに、リールはくすりと艶やかに笑った。


「ふふっ、惜しいわね。石鹸が『金貨1枚』で売れるごとに、銅貨1枚を払うって言ったのよ。……でも、もうそんな商売も無理。街も工房もこの通りだもの。だから、あなたへの支払いはここまでよ」


「えーっ!? この状況でまさかの踏み倒し!?」


湊の情けない叫びが、静まり返った瓦礫の街に響いた。


「……あなたのその理屈、私が最高に高く売ってあげるわ、湊」


リールは湊の腕を強引に引き、歩き出した。


助けた男が怯えたようにその後を追う。


崩壊した難民街を、二人の足音が踏みしめていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ