表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その知恵、世界の礎(いしずえ)につき ~現代知識で異世界を便利にしたら、女商人と共に世界の道理を書き換えていた~  作者: カミツキ
復興編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/54

第39話 その効率、淀みの蓄積につき

難民街から、「暑さ」という名の絶望が消え去ってから一週間。

街は、リールの掲げる『ソレイユ・コア』の赤い輝きに満たされていた。


「マスター! 見てくれよ、この明るさを!」


広場を通りかかった一人の男が、湊の姿を見つけるなり破顔して声をかけてきた。


その手には、リール商会が配った最新の魔石が握られている。


「リール商会は炊き出しだけじゃねえ、新しい街灯まで寄付してくれたんだ。あんたの作ったあの細い『道』を通る明かりより、ずっと力強くて涼しいぜ。やっぱり大商会様は太っ腹だな!」


男は湊の答えを待たず、鼻歌まじりに去っていった。


その足取りには、かつての難民としての悲壮感は微塵もない。


彼らにとってリールは、文字通り暗闇を照らし、熱地獄から救い出した「聖母」そのものとなっていた。


だが、湊は一人、街の境界線に立ち、華やぐ街とは対照的な「足元の地面」を見つめていた。


「……おかしい」


「何がだよ、湊。こんなに平和じゃないか。みんな笑ってるし、俺たちの仕事も少しは楽になったんだ、喜ぼうぜ」


隣に立つガトが、不思議そうに首を傾げる。


だが、湊が指差した先――リールの魔石を使っている大型テントの周囲の地面を見て、ガトの顔から余裕が消えた。


真夏だというのに、そこにはどろりとした『黒い霜』がこびり付いていたのだ。


「ガト、これを見てくれ。……部屋を冷やせば、奪った熱はどこかへ捨てなきゃならない。僕の送電網なら、その『熱』を循環させて逃がしていた。でも、あの独立した魔石には、ゴミを捨てる場所がないんだ」


湊は、その黒い霜にそっと指先を近づけた。


触れた瞬間、心臓まで凍りつくような冷たさが走るのと同時に、内側からねっとりとした、「熱」が指先にまとわりついてきた。


それはただの氷ではない。


冷気を生み出した後に残る『なにか』が、行き場を失ったまま地面に沈殿していた。


湊の雷鳴コアは、街の外へ熱を逃がしていた。


だが、ソレイユ・コアには、その『逃げ道』がない。


各テントの足元に溜まり続ける黒い霜。


湊の懸念は、目に見える霜だけではなかった。


彼は鼻をひくつかせ、遠くの森に視線を向けた。


「……エレナ、最近、森の方から変な臭いがしない?」


「森? そうね、言われてみれば……何かが焦げたような臭いがするかも……」


「森……臭い……」


湊は、以前フィーナに言われた、あの残酷な自然の連鎖を思い出していた。


【ボアが減りすぎれば、それらを餌にしていた『ビッグベア』が飢え、人里を襲うようになるでしょう】


(……あの時と同じだ。規模が違うだけで、本質は何も変わっていない)


「リールさんは、目に見えるゴブリンやスライムを片っ端から燃料に変えた。……でも、それらを餌にしていた『上の連中』はどうなる? 餌が消えた上に、あの臭いまで漂ってる。……空腹の獣にとって、今のこの街は、暗闇に灯る巨大な松明と同じだよ」


* * *


「あら、湊。まだそんな陰気な顔をして、私の粗探しをしているの?」


視察に来たリールが、優雅に扇子を揺らしながら湊に声をかける。


彼女の背後には、最新の魔石を積んだ馬車が誇らしげに並んでいた。


「リールさん。あんたのソレイユ・コアは、『ゴミ箱のない家』だ。吸い取ったゴミを足元に溜め込みながら、新しい燃料を注ぎ込み続けている。……この黒い霜が街を飲み込んだら、どうするつもりですか?」


「ふふ、掃除をすればいいだけのこと。そのための新しい道具を開発すれば、また雇用が生まれるわ。……湊、あなたの考える『循環』は、あまりに歩みが遅すぎるのよ。商売は、止まった瞬間に死ぬのよ」


リールは湊の警告を、負け惜しみだと一蹴した。


「……リールさん。あんたは『道』を不要にしたと言ったけど、道っていうのは、ゴミを捨てるための『排水溝』でもあるんだ。……それが詰まった時、何が溢れ出すか、考えたことはありますか?」


リールは答えなかった。


ただ、もう一度だけ、遠くの森の暗闇に目を向けた。


「……掃除の道具が間に合うといいわね。手遅れになる前に……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ