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その知恵、世界の礎(いしずえ)につき ~現代知識で異世界を便利にしたら、女商人と共に世界の道理を書き換えていた~  作者: カミツキ
復興編

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第29話 その雷鳴、等しい夜の訪れにつき

五十人の難民たちを指揮し、泥だらけになって水車を直す日々が数日続いた。

彼らは驚くほどの熱意で保守作業を覚えていった。


だが、その光景を腕組みして眺めていたオルメイは、休憩時間に湊を工房の裏へと呼び出した。


「湊、お前このままだとリールに足元をすくわれるぞ」


「え……?」


「あいつらは今、リールの『借金返済の代わり』としてお前の手伝いをしてるだけだ。もし明日、リールが『やっぱりあいつらは瓦礫撤去に戻す』と言えば、お前は一瞬で人手を失う」


湊はハッとした。


現場を回しているのは自分たちだという自負があったが、彼らの身分は未だリール商会の『借金奴隷』のままなのだ。


「権力や金を持たねえ素人が、資本家に抗うための唯一の『盾』ってのを教えてやる。……ついてこい」


オルメイは湊の首根っこを掴むと、街の中心にある『ギルド』の支部へと連行した。


* * *


「チコ、いるか」


「あっ、オルメイさん。どうしました? また工房の資材トラブルですか?」


山積みの書類の陰から、ひょっこりと愛嬌のある顔を出したのは、職人ギルドの受付嬢・チコだった。


「おう。今日はな、新しいギルドを作ろうと思ってな」


「えっ、オルメイさんが新しいギルドを!? いよいよ独立ですか!」


「馬鹿言え、俺じゃねえ。こいつだ」


オルメイが湊の背中をバンッと叩いて前に押し出す。


チコは目を丸くして泥だらけの湊をまじまじと見つめた後、プロの顔に戻って手際よく羊皮紙と羽ペンを準備した。


「なるほど、オルメイさんが保証人になる特例の新規設立ですね。分かりました、登録申請書を作ります。……で、ギルド名はどうしますか?」


チコが羽ペンを構えて湊を見た。


湊は少し考えてから名前を口にした。


「えっと、『アラインカプス設備保守の会』でお願いします」


ピタッ、と受付係のペンが止まる。オルメイも眉間に深いシワを寄せた。


「セツビ? ホシュ? なんだその聞いたこともない言葉は。何かの呪文か? もっと誰が聞いても分かりやすい名前をつけな!」


「えっ、いや、電気の修理をする組織っていう意味で……」


湊が慌てて弁解するが、オルメイがやれやれとため息をついて前に出た。


「湊、お前は本当に名付けのセンスがねえな。いいか、こいつらはあの雷みたいな光を操り、暗闇から街を守る連中だろうが。だったら名前は一つしかねえ」


オルメイはニヤリと笑い、力強く宣言した。


 「『雷鳴のライトニング・シールド』だ!!!!」


「おおっ、いいですね! 単なる修理屋じゃなく、雷を制御し、街を守る職人として登録しておきますね。これで、未登録の人が勝手に配線をいじるのは『ギルド規約違反』になりますからね!」


チコの言葉に、湊は顔を引きつらせた。


(えっ、ちょっと待って!? なんで急に魔王の攻撃でも防ぎそうな名前になってるの!? ……でも、そうか。この名前が、彼らの技術を独占的に守る『盾』になるのか……)


ここに一つの新しいギルドが正式に認可された。




 『雷鳴のライトニング・シールド』。

 ギルドマスター、汐見湊。




難民たちはギルドの「正規の徒弟」として登録された。


彼らの労働はリール商会への個人的な借金返済から、ギルド経由の「委託業務」へと法的に書き換えられた。


「俺たちが、ギルドの職人……!?」


「瓦礫運びの奴隷じゃなくて……『雷鳴の盾』なんだな、俺たち!」


* * *


夕方。

ギルド証書を見せられた五十人の部下たちは、そのファンタジー全開な名前の響きに誇りを感じたのか、涙を流して喜んだ。


湊は、ようやく息をついた。


だが――平和は、夜の訪れとともに脆くも崩れ去った。


チカッ、チカチカッ。


広場を照らしていた魔導ランプが、不規則に明滅を始めたのだ。

一つや二つではない。街中のすべての明かりが、息も絶え絶えに暗くなったり明るくなったりを繰り返している。


「マスター! 大変だ、水車の動きがおかしい! 銅線が素手で触れないくらい熱くなってる!」

「なんだって!?」


見回りをしていたギルド員が血相を変えて飛び込んできた。


湊は用水路へ走り、愕然とした。三十基の水車が、軋み音を立てて悲鳴を上げていた。


原因はすぐにわかった。


「……みんな、電気を使いすぎてるんだ!」


さらに悪いことに、本来一軒分しか想定していない銅線から、さらに隣のテントへ線が枝分かれしていた。


「どういうことよ湊! うちの商会の灯りまで消えかかっているじゃない!」


騒ぎを聞きつけたリールが、護衛を連れて用水路に現れた。


チカチカと点滅する不気味な光の中で、彼女の顔は夜叉のように冷酷だった。


「需要が多すぎるんです! みんなが勝手に線を分岐させて、水車の限界を超えてる!」


「……そう。なら、水車が壊れる前に、難民街へ繋がるメインの配線を切りなさい」


リールは事も無げに言い放った。


「高い料金を払える商業区の施設にだけ電気を回すのよ。他を止めれば水車は守れるでしょう?」


湊は息を呑んだ。


システムを守るためには、どこかの負荷を切り離すしかない。


それは正しい判断だ。


だが、その後ろでは、湊のギルド員たちが青ざめた顔で立っていた。


難民街の線を切れば、彼らの家族が暗闇に放り出される。


「……できません。一部の人間だけを切り捨てるなんて」


「いい加減にしなさい! 全部を灯そうとすれば、全部壊れるのよ! あなたがギルドマスターを気取るなら、非情な決断を下しなさい!」


リールの怒声が響く。


湊は泥だらけの拳を強く握りしめ、そして、顔を上げた。


「全部は灯せません。でも、一部の人間だけを贔屓することも絶対にしません!」


湊はリールから視線を外し、自分の部下たち――『雷鳴の盾』のメンバーたちに向かって叫んだ。


「街を五つの区画に分けます! 二時間ごとに、順番にメインスイッチを落としていきます! 電気が足りないなら、全員で少しずつ暗闇を我慢してもらいます!」


「なっ……私の店も停電させる気!?」


リールが激怒して詰め寄るが、湊は一歩も引かなかった。


「平等に痛みを分け合う『計画停電』を実施します」


「ふざけないで! 私は出資者よ、私の命令が聞けないの!?」


「俺は『雷鳴のライトニング・シールド』のギルドマスターです」


湊の静かだが力強い声が、轟音を立てる水車の前で響き渡った。


「水車を守るための技術的な決定に、商会も従ってもらいます。……文句があるなら、俺たちを全員辞めさせて、リールさん自身の手でこの熱を持った線を直してください」


リールは絶句した。


(……不覚だわ。湊に教えた『責任』という重荷を、そのまま、私を殴りつける『権力』に変えてみせたのね……湊……覚えていなさい……)

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