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その知恵、世界の礎(いしずえ)につき ~現代知識で異世界を便利にしたら、女商人と共に世界の道理を書き換えていた~  作者: カミツキ
文明開化編

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第15話 その煉瓦、偽りの救済につき

大繁盛する屋台の煙の向こうで、新たな工事が始まっていた。


「木を切ってたら間に合いません。土を焼いて作る『煉瓦』を使いましょう」


湊が指差した先では、巨大な窯が赤熱している。


石鹸用に改良した高火力窯。


今度はそこから、赤茶色の煉瓦が次々と吐き出されていた。


さらに、焼いた石灰石を砕いた灰が、水と混ざり白い泥になる。


その泥で煉瓦を積み上げるたび、建物はまるで一つの岩のように固まっていった。


木造では数ヶ月かかる建物が、わずか数日で形になっていく。


労働者たちは、半ば呆然とその光景を見上げていた。


「……石の家だ」


誰かが、ぽつりと呟いた。


アラインカプスに、「煉瓦建築の時代」が訪れようとしていた。


そんな中、完成間近の建物の前で、緊迫した「商談」が幕を開けた。


対峙するのはリール、そして隣区の代表である商人。


さらに、その後ろにはこの地を治める領主の執事が慇懃無礼(いんぎんぶれい)に控えている。


「リール商会様、あまりに偏った繁栄は困りもの。私の区は税を納めるのも困難なほど困窮しております。そこで領主様は、こちらの区画への『特別増税』を検討されておりましてな」


執事の言葉に、隣区の商人が恨みがましい視線で続いた。


「そうだ! あんたの安売りのせいで俺たちの客は全滅だ。領主様に税も払えねえし、このままじゃ一家心中だぞ!」


だが、リールは少しも動じず、悲しげに瞳を伏せてみせた。


「まあ……なんて悲しいことでしょう。執事様、私に一つ、名案がございます。隣区の皆様にこの店舗を提供し、我が商会の名前で商売をしていただくのです。そして――これを機に、衰退してしまった隣区の管理そのものも、我が商会に一任していただけませんか?」


「なっ……!?」


隣区の商人が顔を真っ赤にして身を乗り出した。


「ふざけるな! 店を借りるだけならまだしも、区の管理まで渡せだと? それじゃあ俺たちはあんたの言いなりじゃないか! 執事様、こんな無茶苦茶な話――」


「黙りなさい」


執事の冷徹な一言が、商人の言葉を叩き切った。


「執事様……?」


「今の貴殿の区に、領主様へ納めるべき税を立て直す策があるのか? 飢えた民を黙らせるパンがあるのか? ……ないだろう。リール商会殿の提案は、死に体となった土地を領主様の益となる『黄金の地』へ変えると言っているのだ。それを拒むというなら、貴殿が私財を投げ打ってでも不足分の税を即刻納めるという理解でよろしいか?」


「そ、それは……」


商人は絶句し、蛇に睨まれた蛙のように震え上がった。


「執事様のおっしゃる通りです。皆様が手を取り合えば、街はさらに発展します。私はただ、皆様と幸せを分かち合いたいだけなのです」


リールの聖母のような微笑みに、執事は満足げに頷き、商人は力なくうなだれた。


「よかったー! リールさん、お店を奪うどころか、困っている人たちを招き入れて隣の区まで助けちゃうなんて。やっぱり本当に優しい人だ……!」


物陰で見守っていたイベリーは、リールの手腕を絶賛した。


だが、リールがイベリーに背を向けて浮かべたのは、冷酷極まりない愉悦の笑みだった。


(ふふっ……これで隣区の商人たちも、私の名前なしでは生きられない)


リールは執事へ微笑み、静かに頭を下げた。


ほんのわずかな協力金。


それだけで、領主の権威まで手に入った。


(さて……次は王都ね)


イベリーの無邪気な声に背を向け、リールは拡大した自らの「帝国」を見つめながら、静かに笑う。


その視線の先では、赤茶色の煉瓦街が、まるで王国を侵食する菌糸のように広がり始めていた。


「……第二段階、ね」

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