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断罪された最強の女騎士、傭兵少女と地の底から逆襲を開始する 〜冤罪で国を追われた騎士団長は、王国を守るために牙を剥く〜  作者: 十目 イチ


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第3話 逆襲の拍動

 『リミット』から約二日の強行軍を経て、一行は「鉄錆の町ハル」へと辿り着いた。

 

 年中、空を灰色の煙が覆い、どこからともなく金属を叩く(つち)の音が響いている。

 ここはかつて炭鉱で栄え、今は王国中の武器や農具を数多く引き受ける職人の町だ。


「……あそこよ。先代の頃からずっと私たちの装備を見てくれていた場所」

 

 ミーナが指差したのは、町の中心部から外れた、古びたが頑丈な造りの工房だった。看板には掠れた文字で『鋼の溜息亭』とある。

 ミーナが閉ざされた扉をノックすると、店内から地響きのような声が響いた。

 

「……誰だ。今はまだ開店前だ」


 現れたのは地面に届きそうなほど長い髭を蓄え、煤で汚れた革のエプロンを纏ったドワーフだった。

 その鋭い眼光が一行を射抜くが、ミーナの姿を捉えた瞬間、驚きに大きく見開かれた。


「……おぉ、ミーナか? それにザックス、ロイにカレン……。どうした、急に……。バルトはおらんのか?」

「ガルフさん……」


 ミーナは唇を噛み締め、ファビアンの反乱、そしてバルトが消息不明であることを震える声で告げた。

 ガルフは黙って話を聞き終えると、手にしていた金鎚を力任せに作業台へ置いた。

 その音は、まるで彼の怒りが形になったかのように重く響いた。


「……あのファビアンの野郎……いつかやりおると思っておったが。フロウドが拾い上げた恩を忘れおって」

「ガルフさん。お願い、私たちを助けて。……私たちの身を隠せる場所と、戦うための力が欲しいの」


 ガルフは深くため息をつくと、工房の奥、頑丈な鍵のかかった鉄の扉を指差した。

 

「……ついてこい。お前さんに話さねばならんことがある。そして先代団長フロウドから預かっていた物を渡す時が、ついに来たようだ」



 工房の地下、冷んやりとした秘密の保管庫で、ガルフは埃を被った一つの木箱を机に置いた。彼は静かにミーナを見つめる。


「ミーナ。お前は自分の本当の両親がどうなったか、バルトから聞いたことはあるか?」

「えっ? 兄さんはいつも、流行り病で亡くなったって……。だからフロウドさんが私たちを拾ってくれたんだって、そう言ってたわ」

「なるほどの。バルトらしいの。フロウドとお前たちのために、ずっと口を閉ざしておったのだな」

 

 ガルフは首を振り、意を決したようにミーナに告げる。

 

「お前さんの両親は病で死んだのではない。……殺されたのだ。ルーバス・ボルドン。あの冷酷な公爵にな」


 ミーナの呼吸が止まった。アルテアもまた驚愕に目を見開く。


「十数年前、お前とバルトの両親は王都で小さな商会を営んでいた。だがルーバスの不正な政策に真っ向から反対し、民衆を煽動しようとした。……結果、奴の私兵によって暗殺され、家ごと焼かれたのだ。間一髪でお前たち兄妹を炎の中から救い出したのが当時、その警護を依頼されていたフロウドだ。奴は親友である俺にだけは、事の顛末を話してくれた」


 ガルフの言葉が、ミーナの心に深く打ち込まれる。

 

「兄さんは……それを知ってたの?」

「ああ。お前は幼かったから覚えとらんだろうが、バルトは覚えとったんじゃよ。自分の親が殺された事、家が燃やされ、自分たちも殺されかけた事……。あいつは、ずっと自分たちの凄惨な出自を隠してたんじゃな。お前を復讐なんていう泥沼に引きずり込まないようにな」


 ミーナの目から、大粒の涙が溢れ出した。

 兄の底抜けの明るさ、時折見せていた物憂げな表情、そして自分への献身。

 すべては最愛の妹に自分と同じ暗い呪いを背負わせないための、不器用で深い優しさだったのだ。

 

「……フロウドは言っていた。『いつかあいつらが一人前になった時、これを渡してくれ』とな」


 ガルフが木箱の蓋を開け、二つの包みを差し出した。一つはバルトへの短剣。そしてもう一つはミーナの両親の形見であり、フロウドが魔力を込め直した銀のネックレス。

 ミーナは震える手で、そのネックレスを首に巻いた。込められた魔力から出る柔らかな風が、彼女を包み込む。

 

 ネックレスから流れ込む魔力が自分の風魔術に良い影響を与えているのを感じる。

 彼女はゆっくりと顔を上げ、涙を拭った。その瞳には今までになかった強い光が宿っていた。


「……私は、兄さんが生きているって信じてる。あんな過去を乗り越えて私を守ってくれた兄さんが、ファビアンなんかに屈するはずがないから」


 ミーナは隣に立つアルテアを真っ直ぐに見据えた。それは護られるだけの少女から、一人の傭兵……そして次期リーダーとしての視線だった。


「私は決めた。まず兄さんから団を奪い、私たちを裏切ったファビアンを討つ。……アルテアさん。貴女はどうするの? 貴女の敵はボルドン公爵。私と目的は同じかもしれないけれど、今の私たちの戦いに巻き込まれる義理はないはずよ」


 問いかけられたアルテアは一瞬、虚を突かれたように目を丸くした。

 だがすぐにその翠と緋の瞳に、静かな……しかし烈火のような決意が灯る。


「……ミーナ。私は騎士として、主君であったエリオス様を守れず、国を蝕む逆賊、ルーバスを見落としていた自分を……許せない」


 アルテアは自身の拳を強く握りしめた。


「私にもどうか協力させてほしい。全霊をもってお前たちの剣となり、盾となり、……そして巨悪(ルーバス)を共に討ちたい」


 アルテアはかつての騎士団長としてではなく、一人の同志として深く頭を下げた。


「ガルフ殿。私にも戦うための剣を。この体とこの魂が尽きるまで、私は彼女たちの道を切り拓く」


 ガルフは鼻を鳴らし、二人の女の顔を見比べて、満足げに口角を上げた。

 

「……フン、いい面構えだ。よし、夜が明けるまでにお前さんの剣を作ってやる」


 そう言って工房へ向かおうとするガルフをアルテアが呼び止めた。


「ガルフ殿。一つ……その剣について一つだけ要望がある。構わないだろうか?」

「おお、何だ? 言ってみろ」


 アルテアがガルフに、その剣の要望を伝えると、ガルフは驚いた顔でアルテアの顔を見返す。

 隣で聞いていたミーナも思わず、それで大丈夫なの、とアルテアに問い掛ける。


「……私にかつての仲間を斬り伏せる資格はない。だから、いいんだ」

「お前さんがそう言うなら構わんが……。だがその要望も取り入れた上で、儂もひと工夫入れさせてもらうが、ええな?」

「ああ。私のその要望さえ備わっていれば他は大丈夫だ」

「なかなか面白い剣が作れそうじゃ。儂も楽しみじゃ」


 豪快な笑い声を上げて、ガルフは工房へと向かって行った。


 

 鉄錆の町ハル。煤煙に包まれたその地下で、二人の逆襲は今この瞬間から静かに、だが確実に動き出した。

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