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断罪された最強の女騎士、傭兵少女と地の底から逆襲を開始する 〜冤罪で国を追われた騎士団長は、王国を守るために牙を剥く〜  作者: 十目 イチ


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第16話 贖罪の誓い

 冷たい汚水が跳ねる音が、湿った石壁に反響する。

 王都の地下水路は、地上に降り注ぐ月の光も、星の瞬きさえも届かぬ暗き迷宮だった。

 アルテアたちにとっては、一縷の光さえ見えない絶望が目の前に広がる暗闇に重なり、心からは希望を、体からは体力を吸い取っていく無限に続く回廊のように感じていた。

 そんな中でもアルテアはミーナを両腕で抱え、暗闇の回廊を進んでいた。

 その数歩前を進むのはサギリ。彼女は前方を警戒しながら歩を進めていたが、その足取りからは隠しようのない疲労が滲み出ていた。


 「ハァ……ハァ……ミーナ、もう少しだ。頑張れ」


 アルテアの腕の中で、ミーナの体はだんだん冷たくなっていた。

 彼女の命の灯火は今にも吹き消されそうなほどに揺らいでいる。

 ミーナの顔色は、もはや白を通り越し、月明かりさえ届かぬ闇の中では青白く透き通っているように見えた。

 唇は紫色に変色し、失血による悪寒からか、小さな体はガタガタと激しく震えている。


「……うぅ……さむ、い……」


 掠れた、湿った声。肺に血が回っているのか、呼吸のたびに喉の奥で嫌な音が鳴る。


「頑張れ! ミーナ! すぐに地上に出る。あと少しだ」

 

 アルテアはミーナを励ましながら彼女を包み込み、必死に体温を伝えようとするが、自身の指先もまた、疲弊と足元に広がる水路の水の影響で、氷のように冷え切っていた。


 

 その時、背後から三人を追跡する足音が響いた。


「誰だッ!」


 アルテアが首だけを振り返り一喝すると、その追跡者が足を止めた。

 アルテアはミーナを壁際に座らせ、『夜帷』を抜き放ち、追跡者に切っ先を向ける。サギリはミーナの側で身を低く構える。


 満身創痍でありながらも、その殺気はかつての騎士団長そのものだ。

 暗がりの向こうから近付いてのは、泥にまみれ、端々が擦り切れた白い法衣を纏った一人の青年だった。


「待ってください! 僕は……敵じゃありません!」


 両手を上げ、必死に叫ぶ青年の顔は恐怖に引き攣っていた。アルテアとサギリを交互に見ながら更に続ける。


「僕は、王宮魔導院の見習い治癒師、テオ・エバンスです。アルテア団長……あなたが王子暗殺の犯人じゃないことは知っています。あの日、僕は見ていたんです……エリオス殿下が、何者かに連れ去られていくのを!」


 アルテアの瞳に疑念の火が灯る。

 ルーバス公爵の差し金か、それとも罠か。だが、テオの瞳は真っ直ぐにアルテアに向けられていた。

 そしてその視線が、壁に寄りかかるミーナに向かう。


「団長! 今は僕を疑うより、その子を! 処置が遅れれば、本当に死んでしまいます! 僕に付いてきてください、安全な場所を知っています!」


 アルテアが答える前にサギリが口を開く。

 

「……アルテア、今は賭けるしかない」

 

 サギリが、ミーナの消え入りそうな拍動を確かめながら低く告げる。

 

「この男の言っている事が嘘だった時は、私が一撃で始末する。だが今は……ミーナを救うのが先だ」



 テオに導かれ、辿り着いたのは下層街の端にひっそりと佇む小さな廃墟だった。

 外観は崩れかけているが、内部は注意深く掃き清められている。

 テオはその二階にある古い寝台にミーナを横たえると、震える手で治癒魔法の紋章を描き始めた。


「……『共鳴せよ、命の律動』……」


 テオの魔力は、ベルガのような強大さも、アルテアのような鋭さもない。

 しかしそれは陽だまりのように温かく、ミーナの傷口を優しく包み込んでいった。



 テオの治癒魔術、そして必死の処置の末、ミーナの呼吸がようやく安定し、頬に微かな赤みが戻る。

 それを見届けたアルテアとサギリも、極限まで張り詰めていた糸が切れたように、その場で深い眠りに落ちた。


 ◇◇◇

 

 翌朝、窓から差し込む一筋の光がアルテアの瞼を叩いた。

 体を起こすと、窓際で外の様子を伺っているテオの後ろ姿があった。


「あ……起きましたか」


 アルテアは隣でまだ眠っているサギリと、寝台で寝息を立てているミーナを見た後、テオに視線を向ける。

 

「テオ。……礼を言う。君がいなければ、私たちは今頃死んでいただろう」


 アルテアは重い体を動かし、彼に問いかける。

 

「だがなぜ、ここまでして私たちを助ける? 君は昨日、私が暗殺の犯人じゃないのを知っていると言っていたが……。それにしたって、もし騎士団に見つかれば、君もただでは済まないぞ?」


 テオは自嘲気味に笑い、窓の外を見つめたまま、絞り出すように声を震わせた。


「……僕は、卑怯者なんです。あの日、地下通路でエリオス殿下が連れ去られるのを見ていたのに、僕はただ物陰で震えていただけだった。公爵の兵たちがあなたを糾弾する声を聞いても、真実を叫ぶ勇気がなかった。……僕が声を上げていれば、あなたは逃亡犯にならずに済んだかもしれないのに」


 テオは拳を強く握りしめ、言葉を続ける。


「王宮で時間が経つにつれ、自分の無力さが毒のように体を回るのが分かりました。だから、あなたが王都に戻ってきたと聞いた時、決めたんです。……今度こそ逃げない。エリオス殿下を、そしてあなたを助けることが、僕の止まってしまった時間を動かす唯一の方法なんだって」


 テオが振り返る。

 その瞳には、静かだが強い意志が宿っていた。


「アルテア団長。僕に……あなたの断罪を晴らす手伝いをさせてください。……エリオス殿下を、救い出したいんです」


 アルテアはその想いを受け止めるように、力強く頷いた。


「ありがとう。テオ・エバンス。ぜひ力を貸してくれ」


 はにかむように微笑むテオに、アルテアもまた笑顔で応えた。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 凄く励みになりますので、面白いとか、続きが気になるとか思った方はぜひブックマーク、★評価をお願いします。

 

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