表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された最強の女騎士、傭兵少女と地の底から逆襲を開始する 〜冤罪で国を追われた騎士団長は、王国を守るために牙を剥く〜  作者: 十目 イチ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/25

第15話 死神の嘲笑

 深夜の王都。

 暗い路地裏には、冷たい湿気と鉄錆の匂いが充満していた。

 アルテア、サギリ、そして重傷のミーナを阻むのは、賞金稼ぎの男グレイヴ。

 彼は巨大な大剣を肩に担ぎ、獲物の逃げ道を完全に塞いでいた。


「さあて……三億ゴルドの首を、どう料理していただいてやろうか?」


 グレイヴが指先を弾いた瞬間、目に見えぬ細い鋼鉄のワイヤーが路地の壁から壁へと張り巡らされた。

 サギリが反射的に抜刀するが、放たれた斬撃は空を切り、代わりにワイヤーが彼女の腕に絡みつき、肉を割く。


「……っ、ただの糸じゃない。重りが仕込まれている!」

「正解だ。浪人娘」


 グレイブが懐から出した投擲玉を投げる。すると割れた玉から凄まじい勢いで煙幕が上がり、辺りは更に暗闇が広がる。

 暗闇に溶け込む不可視のワイヤー。

 グレイヴがそのワイヤーを引くと、サギリの体勢が強引に崩される。

 そこへ彼の大剣が、重戦車のような圧力で振り下ろされた。

 アルテアが何とか『夜帷』で受け止めるが、超振動の刃を持ってしても、純粋な質量とワイヤーによる不規則な遠心力を加えた一撃は、彼女の腕に痺れるような衝撃を与えた。


 トリッキーというよりも野性的と言ってもいいグレイヴの戦い方は、アルテアたちが歩んできた武道とは対極にあった。


 彼は正面から打ち合うことを徹底的に避ける。影に潜み、壁を蹴り、死角から隠し刃を放つ。

 アルテアが間合いを詰めようとすれば、足元を這わせたワイヤーが波打ち、その足を止めさせる。

 更に大剣の柄と繋がったワイヤーを掴み、不規則な斬撃を放つ。

 アルテアとサギリの剣撃は、ダメージの影響で本来のキレを落としているとはいえ、僅かな動きで軌道を察知され、躱される。


「テメェらの剣は分かりやす過ぎんだよ! 騎士様だの、武道だの……教本通りの動きじゃ、俺みたいなドブネズミは殺せねぇぜ!」


 焦りがアルテアの動きを更に硬くする。

 背後で壁に寄りかかっているミーナの顔色は、失血のために今や紙のように白い。


「……ぁ……アル、テア……」

 

 掠れた声。うなされたようなその声が、アルテアの心に冷たい刃のように突き刺さる。


「諦めな、騎士団長さんよ。周りにゃ公爵私兵団がわんさかいる。どう足掻いたってもう逃げ切れやしないぜ。あんたの首にゃ、一生酒に溺れて暮らせるだけの金がかかってるんだ。俺は逃がさねえぜ」


 グレイヴがワイヤーを操り、アルテアの『夜帷』の刀身をがんじがらめに封じ込める。

 力任せに引き剥がそうとするアルテアへ、グレイヴが隠し持っていた鋼鉄の(つぶて)を投げつけた。


「死ねッ!」


 礫がアルテアの肩に当たり、骨を砕く音と同時に刺すような痛みが走る。

 ついに膝を突きそうになるが、彼女の視界の端に、傾けた態勢から必死に自分を見つめるミーナの瞳が入った。


(……ミーナ、すまない。私が巻き込んでしまったがために……。だが、私はまだ戦えるッ!)


 アルテアの中で、何かが音を立てて崩れ去った。

 彼女は『夜帷』を握り直すと、これまでの洗練された構えを完全に捨てた。

 地面を這うように駆け、身を投げ出すように回ると、グレイヴの懐へ入り込んだ。


「……なんだと!?」


 グレイヴが驚愕する。

 正統派の騎士がするはずのない、獣のような泥臭い突撃。

 アルテアは上から突き刺すように、グレイヴの足首を『夜帷』で抉った。


「が、あぁぁぁぁッ!?」


 アルテアの意表を突いた攻撃に悲鳴を上げ、グレイヴが後方へ大きく跳んだ。

 その衝撃で彼のベルトから転げ落ちた投擲玉……その投擲玉をアルテアは迷わず拾い上げ、


「喰らえッ!!」


 騎士の礼節も、戦士の誇りも捨てた一投。

 玉はグレイヴの鼻先で炸裂した。その投擲玉は目眩ましだったようだ。

 強烈な閃光と鼻を突く刺激臭が路地を包み、グレイヴは顔を抑えて呻きながら後退する。


「サギリ殿ッ!」


 アルテアは激痛のする肩でミーナを抱え上げ、サギリの手を掴んで、煙の向こう側……グレイブのいる方向とは反対へ駆け出した。

 背後からグレイヴの「待ちやがれ、このクソ女ぁ!」という怒号が聞こえてくるが、今のアルテアにはそれさえも遠い雑音に過ぎない。

 月明かりに照らされて、アルテアは二人を連れて必死に走った。

 

 そして三人は、逃げ込んだ広場の隅にある、重厚な鉄の蓋をこじ開けた。

 

 暗く、悪臭の漂う地下水道の入口。

 そこへ滑り込むようにして、彼女たちは追っ手の光から逃れた。


 ◇◇◇


 しぶきを上げ、冷たい汚水の中に着地した三人は、息を殺して地下の迷宮へと消えていく。

 地上ではまだ遠くに、私兵団の哨戒の声が交錯していた。


 しかし彼女たちは気づいていなかった。

 滑り込むように逃げた広場の石柱の影に身を潜め、震える手で治癒魔法の紋章を握り締めている一人の青年の存在を……。


 彼は自らの罪悪感と希望をその眼差しに込め、地下水道の中へと消えた三人の後を追い、白い法衣が汚れるのも構わずに、自らも地下水道へと入って行った。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 凄く励みになりますので、面白いとか、続きが気になるとか思った方はぜひブックマーク、★評価をお願いします。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ