表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断罪された最強の女騎士、傭兵少女と地の底から逆襲を開始する 〜冤罪で国を追われた騎士団長は、王国を守るために牙を剥く〜  作者: 十目 イチ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/22

第14話 敗走の果て

 石室ではアルテアとベルガが対峙し、ミーナとサギリは、ベルガが率いる私兵団と向かい合っていた。 


 地下石室の冷気がアルテアとベルガ、ミーナたちと私兵団、二つの戦闘が生み出す熱で歪んでいく。

 

 アルテアの放つ『夜帷』の不可視の震動と、ベルガの細剣『蒼氷(そうひょう)』が纏う不気味な蒼炎。

 かつて王立騎士団で切磋琢磨した二人の剣技は、鏡合わせのように互いの急所を読み合い、致命の一撃をことごとく相殺していた。


「……どうした、アルテア! その程度の覚悟で、私に勝てると思っているのか!」


 ベルガの鋭い刺突が、アルテアの頬をかすめる。

 アルテアの心には、拭いきれない葛藤があった。

 目の前の男は、今確かに王室への忠義という道を踏み外した。

 だが、かつては共に王国の平和を誓い、背中を預け合った無二の戦友だ。

 そんな男に純然な殺意を向けることが出来ない……その迷いが彼女の剣撃を鈍らせていた。

 対して、ベルガに迷いはない。

 彼にとってこの戦いは、旧時代の象徴であるアルテアを葬り、自らが望む新時代を切り拓くための儀式だった。


「貴女の剣は、『汚名』という呪いに縛られ、牙を抜かれた老犬と同じだ」


 ベルガの『蒼炎』が、アルテアの『夜帷』の魔力を喰らい、その火力を増していく。

 一歩、また一歩と、アルテアは後退を余儀なくされる。

 そしてベルガのその強力な一撃に、アルテアが態勢を崩す。

 その背後には、水晶の中で眠るエリオス王子。ベルガが残酷な笑みを浮かべ、必殺の構えを取った。


「かつての主君の隣で果てるがいい。……それが、君に相応しい最期だ」


 蒼い炎が細剣の先端に収束し、一条の雷光となって放たれる。

 魔力を奪われ、体勢を崩していたアルテアには、それを防ぐ術は残されていなかった。


「――アルテア、危ないッ!」


 鋭い叫びと共に、視界の端に割り込む小さな影があった。

 ミーナだった。

 彼女は強力な魔力を絞り出し、圧縮した空気の盾をアルテアの前に瞬時に展開する。

 しかし、ベルガの蒼炎は魔法そのものを喰らう。風の盾は紙細工のように焼き千切られ、蒼炎の魔力の奔流が、術者のミーナの細い体に返ってくる。


「が……はっ……!」


 ミーナの小さな体が吹き飛ばされ、石畳の上を無惨に転がり、彼女の血が宙に飛ぶ。


「ミーナ!? ……ああ、嘘だ、そんな……!」


 アルテアの頭が一瞬で真っ白になる。

 ミーナの元に駆け寄ろうとするが、膝が震えて力が入らない。

 

 自らの甘さが、仲間を傷つけた……。

 

 その罪悪感が、彼女を底なしの絶望へと引きずり込もうとしたその時。


「アルテア! 前を見ろッ!!」


 鼓膜を突き破らんばかりの一喝。サギリだった。

 彼女は襲いかかる私兵団の兵士たちを、鬼神の如き太刀筋で斬り伏せながら、アルテアの傍らへと跳んだ。


「立ち止まるな! ここは一旦退く! ミーナを抱えろ、早くしろッ!」


 サギリの鋭い眼光に、アルテアの意識が強制的に引き戻される。

 そうだ、絶望している暇はない。今ここで倒れれば、ミーナの献身が…王子の生存が無意味になる。


「……わかった。……すまない、サギリ殿!」


 アルテアは血に染まったミーナを抱え上げ、出口へと走り出す。背後からは、ベルガの冷徹な追撃の号令が飛ぶ。


「……ここから先は、一歩も通さない」


 サギリが独り、追撃の群れに向かって立ち塞がった。

 彼女は東方刀『不知火』を正眼に構え、吐息と共に体内の気を練り上げる。

 私兵団の兵士たちが一斉に襲いかかるが、サギリの姿は一瞬でかき消えた。


「『落花(らっか)!』」


 舞い散る花びらの如き円運動。

 すれ違いざまに放たれた三連撃が、先頭の兵士たちの膝関節と手首を正確に破壊した。不殺の誓いを守りつつも、二度と剣を握れぬほどの打撃。


「化け物め……! 構わん、魔法で焼き払え!」


 石室に駆けつけた魔導師たちが詠唱を開始する。

 だが、アルテアの腕の中で意識を繋ぎ止めていたミーナが痛みに耐えながら、その魔術師たちに向かって指先を動かした。


「……風よ……すべてを、覆い隠して……!」


 風の大魔術。

 地下石室に猛烈な塵旋風(じんせんぷう)が巻き起こり、視界をゼロにする。

 その混乱に乗じ、サギリはアルテアたちの背を押し、複雑に入り組んだ王宮の通路の一つへと姿を消した。

 舞い上がる風の向こうで、扉の中に消える三人の姿を見送ったベルガが呟く。

 

「……逃がしたか」

 

 ベルガは剣を鞘に納め、風に舞う塵を見つめていた。

 その瞳には、かつての友を追い詰めた愉悦と、想定外の戦力……ミーナとサギリへの警戒が混在していた。


 ◇◇◇


 深夜の王都。

 人目を避け、暗い路地裏を走り抜けた三人は追っ手を振り切り、崩れかけた廃屋の影に身を潜めた。


 ミーナの呼吸は浅い。

 アルテアは必死に止血を試みるが、その手も激しく震えている。

 サギリは刀に手をかけたまま、周囲の気配を探っていた。


「……クソっ、私兵団だけじゃない。騎士団の哨戒網に参加してきている。夜明けまでにここを脱出するのは……」


 サギリの言葉が、途切れた。

 背後の闇から、乾いた拍手の音が聞こえてきたからだ。


「……いやぁ、傑作だな。元騎士団長ともあろうお方が、泥棒猫みたいに路地裏を這い回るとはな」


 路地裏の陰から、ゆっくりと一人の男が姿を現した。

 重厚な鎧を纏い、背中にはワイヤーの付いた巨大な大剣。

 彼はまるで散歩でもしているかのような軽薄な足取りで、アルテアたちとの距離を詰める。


「これはツイてる。私兵団の連中に捕まっちまったかと思ったが、俺の鼻を信じて正解だった」


 男の視線が、ぐったりとしたミーナ、そして消耗しきったサギリとアルテアを舐めるように動く。


「その眼、その佇まい……。ボロボロだが、間違いねえな。あんたが懸賞金三億ゴルドの主、元騎士団長アルテアだな?」

「お前は誰だ?」

「俺ぁ、ただの賞金稼ぎだ。グレイブってんだ。以後お見知りおきを……元騎士団長殿」

「賞金稼ぎ……」

 

 賞金稼ぎと名乗ったグレイブの目的は、自分だと察知したアルテアはグレイブから遠ざけるようにミーナをサギリに預け、ふらつく足取りで前に出た。


「目的は私か?」

「決まってんだろ」

 

 グレイヴが背中の大剣を抜き放ち、肩に乗せた。

 その瞳には、戦士の誉れも正義もなく、ただ獲物を値踏みする強欲な光だけが宿っている。


「お前の首は、俺がいただく。……安心しな、ガキとそっちの浪人娘には興味ねえ。死体が増えると運ぶのが面倒だからな」


 アルテアが漆黒の刃を構える。

 ベルガという強壁を越えた直後に現れた、賞金稼ぎ(ハイエナ)

 

 満身創痍のアルテアの前に、一筋の情けも持たない男が立ち塞がった。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

 凄く励みになりますので、面白いとか、続きが気になるとか思った方はぜひブックマーク、★評価をお願いします。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ