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愛の致死量  作者: 藤堂虎太郎
強欲の章
30/41

リアル・タイム・アタック(2)

 はい、ミホちゃん攻略完了! エンディングロール(ピロートーク)は全スキップ! 「え、もう帰るの?」というNPC特有の引き止め台詞は「ごめん、仕事のトラブルで呼び出しが」という汎用マクロ定型文でキャンセル! ベッドに残された温もりとか未練とか、そんな重たいテクスチャはメモリの無駄なんだよ、俺のSSDには次の女を入れる空き容量しかねえんだ! ホテルを出た瞬間、俺は大きく息を吸い込む。渋谷の汚れた空気がうまく感じるのは、俺の内面がそれ以上にドブ川みたいに濁っているからか? いや違う、これは勝利の味だ。実績解除のファンファーレがまだ脳内で鳴り響いている。「実績解除:昼下がりの情事」「経験値ゲット」。でも足りない。全然足りない。ミホは所詮、スライムレベルの雑魚モブ。経験値効率はいいが、俺の魂の飢餓感を埋めるには質量が圧倒的に不足している。俺が欲しいのは、もっと手応えのある、もっとレアリティの高い、そしてもっと「数」の暴力だ!

 現在時刻15時30分。次のアポ、アイリ(24・丸の内OL・推定年収高め・プライドエベレスト級)とのマッチング開始時刻は17時。場所は六本木。移動時間を考慮しても1時間のインターバルがある。ここで普通のプレイヤーなら「カフェで休憩」とか「マッサージで回復」とか甘っちょろい行動を選択するだろうが、俺は違う。俺には、このクソみたいに広大な東京砂漠に唯一存在する、奇跡の回復スポットがある。

 タクシーに飛び乗り、行き先を告げる。「代々木上原まで」。

 そう、そこには俺の「本命(仮)」、カスミ(26・保育士)のマンションがある。

 彼女こそが、俺の「絶対安全地帯」。

 俺がどれだけ外で女遊びという名のレベリングに勤しもうが、彼女だけは「仕事が忙しい彼氏」という俺のロールプレイを疑いもせず、聖母のような慈愛で待ってくれている。だが今は彼女の愛が欲しいんじゃない。彼女の部屋と設備が必要なだけだ。

 合鍵を使って侵入。ガチャリ。静寂。カスミは仕事中だ。完璧なスケジュール管理。「うわ、最低w」「空き巣じゃん」「不法侵入乙」とリスナー共が騒いでいるが、合鍵持ってるんだから正規ユーザーだろ! 俺は靴を脱ぎ捨て、一直線にバスルームへ向かう。

 シャワー全開。ミホの安っぽい香水と、ホテル特有の洗剤の匂い、そして俺自身の雄の匂いを洗い流す。使うのはもちろん、カスミが愛用している一本五千円もするオーガニックシャンプーだ。聖女の金で買った洗浄液で、薄汚れた強欲の脂を落とす。これぞ錬金術。これぞリサイクル。

「ああー、生き返るわァ」。HP・MP全回復。さらに冷蔵庫を漁り、彼女が作り置きしていたタッパーの肉じゃがを素手でつまみ食いする。スタミナ回復。ついでに彼女のベッドにダイブして、残り香を吸い込む。

 よし、リセット完了。

 これで俺は、新品同様の清潔な「ハイスペック彼氏」に生まれ変わった。ミホとの情事のログは完全にデリート。セーブ完了。さあ、六本木という名の魔境へ出撃だ!

 17時ジャスト。六本木ミッドタウン前。

 アイリが現れた。

 うっわ、まぶしっ! テクスチャの書き込みが違う! ミホがPlayStation2だとしたら、こいつはPS5、いやハイエンドPCのレイトレーシング実装済みグラフィックだ。ハイブランドで固めた鎧、手入れの行き届いたネイルという名のクロー、そして何より「私を安く扱ったら殺す」という覇王色の覇気を纏っている。

 これだよ、これ! こういうレイドボス級のモンスターを攻略してこそ、プレイヤーとしての格が上がるってもんだ!

「お疲れ様、アイリさん? 待った?」

 俺は「仕事の合間を縫って駆けつけたエリート商社マン」というアバターを装着し、余裕の笑みで接近する。

「ううん、今来たとこ。……てか、いい匂いするね」

 アイリが鼻をひくつかせた。

 勝った! カスミのシャンプー(五千円)の効果発動! 清潔感パラメータにバフがかかっている。「ありがとう、シャワー浴びてきたからさ(嘘ではない)」と爽やかに返す。

 だが、ここからが本当の闘いだ。

 アイリのような港区女子モンスターは、通常攻撃や魔法攻撃が一切通用しない。「高い店」という課金アイテムを使わないと防御力が1ミリも削れない仕様になっている。

「お腹空いたね、予約してあるから」

 俺が連れて行ったのは、客単価三万円の隠れ家フレンチ。痛い。財布へのDPSがエグい。だが、これは必要経費だ。この女のガードを崩すための先行投資だ。

 前菜、スープ、魚料理……コース料理という名の強制イベントが長すぎる! スキップボタンどこだよ! 俺はマウント取り合戦の話や、美容整形のダウンタイムの話に適当に相槌を打ちながら、テーブルの下でターゲット3・マドカ(21・アパレル)への連絡を入れる。

『ごめん、仕事押してて19時厳しいかも。19時半でどう?』

 リスク管理。ダブルブッキングのバッファを設ける。

 アイリにはワインをガンガン勧める。「これ、ヴィンテージなんだ(適当)」「君に似合うよ(定型文)」とアルコール攻撃を連打。彼女の頬が赤らみ、目元がとろんとしてくる。

 よっしゃ、状態異常「泥酔」入りました! 防御力低下! ここだ、ここで畳み掛けるぞ!

「この後さ、いいバー知ってるんだけど」

「えー、明日早いしなぁ……」

 渋るアイリ。ガード硬いなクソが! でも俺の強欲スキルはパッシブ発動中だ。こんな上玉を目の前にして、コース料理代だけ払って帰宅なんていうクソゲー展開は許されない。

「一時間だけ。君ともっと話したいんだ」

 スキル「甘い囁き」発動。

「……一時間だけだよ?」

 クリティカルヒット! 陥落! よっしゃあああ! 脳内でガッツポーズ。リスナー見てるか? これがトップランカーのトークスキルだ!

 店を出てタクシーに乗り込む。行き先は西麻布の会員制バー……と見せかけて、その近くの高級ホテルへ誘導するルートを選択。

 車内でアイリの腰に手を回す。抵抗なし。ハンドリング判定成功。

 柔らかい。高い女の肌質だ。ミホの若さとは違う、金のかかったメンテナンスされた弾力。

 興奮する。

 もっと、もっとだ。

 この世の全ての「イイ女」は俺のために生成されたNPCなんだ。俺が触れなきゃバグなんだよ。俺が味わわなきゃデータ容量の無駄遣いなんだよ!

 と、その時。

 ポケットの中のスマホが、不穏なリズムで震えた。

 マドカからの返信か? いや、違う。この振動パターンは……電話だ。

 誰からだ?

 画面を盗み見る。表示されている名前は『カスミ』。

 ッ!?

 セーブポイントからの着信!?

 おいおいおい、バグか!? 今仕事中だろ!? なんで安全地帯から攻撃が来るんだよ!

「……誰?」

 アイリが怪訝そうに見る。

「あー、上司。マジごめん、緊急かも」

 俺は俳優顔負けの演技で眉を寄せ、電話に出るフリをして通話を切断! 「後でかけ直すわ」とテキストを送信。「仕事トラブル発生中」と追記。

 危ねえ……心拍数が跳ね上がる。

 だが、このスリル。この「いつ崩壊してもおかしくないジェンガ」を積み上げている感覚。ゾクゾクする。たまんねえ。安全にクリアできるゲームなんてクソゲーだろ? バグとフリーズとBANの恐怖に怯えながら、それでも欲望のままに突き進む、これこそがこの神ゲーの醍醐味なんだよ!

「着いたよ」

 タクシーがホテルの車寄せに止まる。

「え、バーじゃないの?」

「ここ、最上階のラウンジがすごいんだ(嘘)」

 さあ、第二ラウンド、レイドボス攻略戦のクライマックスだ。

 リスナー、瞬きするなよ。俺がこの高飛車女をどうやって実績リストに加えるか、そのテクニックをとくと見やがれ!

 そしてその裏で、ターゲット3・マドカの到着時間が刻一刻と迫っている。

 リミットは60分。

 やれるか? いや、やるんだよ。

 だって俺は、世界一強欲なプレイヤーなんだからな!

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