リアル・タイム・アタック(1)
おい待て待て待て、ちょっと一旦ストップ、いやストップできない、これがリアルタイムレンダリングの暴力であり神ゲーたる所以なわけだが、それにしてもNPC湧きすぎだろうがよ!
渋谷のスクランブル交差点という名の初期スポーン地点に降り立った俺の網膜に飛び込んでくるのは、テクスチャの貼り遅れなど一切ない高解像度の女、女、女!
ショートカットの事務系、インナーカラー入れたサブカル系、量産型地雷系、清楚系ビッチ、丸の内OL風、パパ活女子風、すべての属性が過積載で処理落ち寸前のサーバー負荷をかけて俺の股間にダイレクトアタックを仕掛けてくるこの状況、運営(神)の気合が入りすぎてて笑うしかないだろwww。
脳内を流れるコメントも加速しまくりで「草」とか「神回確定」とか「お前の股間がサーバーダウン」とか好き勝手言いやがって、うるせえよリスナー、お前らは安全圏から見てるだけでいいけど俺はこのオープンワールド『TOKYO』のプレイヤーなんだよ、コントローラー握ってんのは俺、そして俺のスティックは既にドリフト現象を起こして暴走中ってわけだ。
世界は女で溢れている。
これこそがバグだろ。これこそが仕様の欠陥だろ。
だってそうじゃないか、俺の身体は一つ、俺のイチモツも一つ、一日は二十四時間、スタミナゲージには限界があるのに、攻略対象の数は事実上無限!
この圧倒的な需給バランスの崩壊を前にして、指をくわえて見てろってのが無理な話なんだよ。俺は全員抱きたい。全員攻略したい。すれ違うあのハイウエストのスカートの女も、カフェでラテ飲んでるあざといニットの女も、駅の広告を見てるスーツの女も、全員に「攻略完了」のフラグを立てて実績解除のポップアップを脳内で鳴らしまくりたいんだよ!
あああクソッ、なんで一夫多妻制のDLCが導入されてないんだこのクソゲーは!
法規制? 倫理観? 知るかよそんなもん、俺は全ルート回収するまで死ねないんだよ、コンプ率100%を目指すのがゲーマーとしての礼儀であり誠意だろうが!
右手に握りしめたスマホという名の神器が、バイブレーション機能の限界に挑む勢いで震え続けている。
画面上のフォルダー名は『狩場』。
その中には既にインストール済みの『Tinder』『Pairs』『Tapple』『With』『Omiai』『Dine』……ありとあらゆるマッチングアプリが鎮座している。これらはただのアプリじゃない、俺にとってはクエストボードであり、無限回廊への入り口だ。
通知が来るたびに脳内でファンファーレが鳴る。
「新着クエスト:ユカ(22)からの『いいね!』」「報酬:経験値および体液の交換」。
俺は歩きながら、呼吸をするようにマルチタスクをこなす。親指の動きはもはや格ゲーのコンボ入力、右、右、右、ライク、ライク、スーパーライク! 画面に表示される顔写真という名のサムネイルを0.05秒で判別し、イケるかイケないかを瞬時にジャッジするこの動体視力、eスポーツのプロ選手だって裸足で逃げ出すレベルだろ。
「うわっ、こいつ業者じゃんw」「加工強すぎ乙」とかコメント流れてくるけど黙ってろ、業者だろうがサクラだろうが、その奥に生身の女が存在する可能性が0.01%でもあるなら俺はベットする、それが強欲の流儀だ。
昨日の夜は六本木のラウンジ嬢(推定SSR)とアフターという名のボーナスステージに突入したが、惜しくもタイムアップで終電という強制イベントが発生して失敗した。
だが今日は違う。今日は土曜日、全人類の発情期、ログインボーナスとして性欲が二倍付与される確変イベント日だ。
俺は今日だけで三件のアポを入れている。
トリプルブッキング? 違うね、これはRTAだ。一人の女に時間をかけて「心を通わせる」だの「信頼関係を築く」だの、そんなまどろっこしい紙芝居パートは全スキップだ。俺が欲しいのは射精だけなんだよ。プロセスはショートカットしてナンボ、バグ技使って壁抜けしてでもボスの寝室に直行したい、それが俺のプレイスタイル。
一件目のターゲット、「ミホ(19・専門学生)」がハチ公前で待機しているのが見える。
服装は事前のスクショ通り、ピンクのカーディガンに白いロングスカート、頭が悪そうで非常に攻略難易度が低そうな素晴らしいモブヒロインだ。
「地雷臭するw」「これ絶対メンヘラだろ」「回避推奨」とリスナー共が騒いでいるが、甘いな、お前らはエアプだ。
こういう承認欲求モンスターこそ、「君が一番だよ」という安っぽいデバフをかけてやるだけで簡単に防御力がゼロになるチョロい敵キャラなんだよ。
俺は髪を整え、表情筋を「爽やかイケメン好青年モード」に切り替える。このアバター操作も慣れたもんだ。心の中では舌なめずりしながら、表面上は無害なNPCを装って接近する。
「お待たせ、ミホちゃん? 写真より全然可愛いじゃん、びっくりした」
はい開幕先制攻撃! クリティカルヒット! ミホの顔が赤らむエフェクトを確認。この時点で勝率80%確定。あとは適当なカフェという名のダンジョンに連れ込み、適当に話を聞いてやるフリをして(連打ボタンで会話送り)、アルコールという状態異常魔法をかければ、あとはホテルというセーブポイントへ一直線だ。
簡単すぎる。ヌルゲーすぎてあくびが出る。
でもな、この「ヌルゲーを効率よく周回する」ことこそが、俺の乾きを癒やす唯一の手段なんだよ。
だって世界にはあと何億人もの女がいるんだぞ? 一分一秒も無駄にできないだろ。
ミホを攻略したら次はアイリ(24)、その次はマドカ(21)、無限に湧き出るクエストを片っ端から消化していかないと、俺の強欲という名のバケツはいつまで経っても満たされないんだよ!
カフェに向かう道中も俺の目は休まない。ミホと手を繋ぎながら、すれ違う別の女の尻を目で追う。
「よそ見すんなw」「クズすぎて草」「今のOLレベル高かったな」と脳内コメントとシンクロしながら、俺は世界を呪う。
なんであの子とも今すぐヤレないんだ? なんで俺はミホという単一のオブジェクトに拘束されているんだ?
分身したい。影分身して、渋谷にいる全女の耳元で同時に愛を囁いて同時にホテルにインしたい。
この強烈な飢餓感、わかるか? 喉が渇いてるのにスポイトで一滴ずつしか水を貰えないようなこの拷問!
だから俺は急ぐ。ミホとの会話なんて「へー、すごいね」「わかるー」「マジで?」の三種類のコマンド選択だけで回しながら、頭の中では次のアイリとの攻略ルートをシミュレーションし、その次のマドカとの対戦カードを構築している。
マルチタスク上等、脳のCPUは常にオーバークロック状態で発熱してるが、知ったことか。俺は止まらない。止まったら死ぬマグロと同じで、女を抱くのを止めたら俺というプレイヤーの存在意義が消失するんだよ。
「ねえ、聞いてる?」とミホが頬を膨らませる。
「聞いてるよ、バイト先の店長がウザいんだろ?」と即答する俺。
オートセーブ機能つきの会話ログのおかげで直前のログは参照可能だ。
「そうなんだよー、マジありえなくない?」と続く彼女の愚痴BGMを聞きながら、俺はテーブルの下でスマホを操作し、さらに新しいマッチングを成立させる。
通知が光る。『Tinder』でマッチ。『Pairs』で足あと。『Tapple』でメッセージ受信。
ピロリン、ピロリン、ブブブブッ。
ポケットの中で俺のイチモツと共鳴するように震え続ける電子機器。もはやこれは俺の臓器の一部だ。拡張された性器だ。
「新規狩場開拓キター」「どんだけやる気だよw」うるせえ、既存の狩場だけじゃリポップが間に合わないんだよ。新しいサーバーにはまだ見ぬフレッシュなヒロインたちが俺を待っている。
俺の強欲は地球規模、いや宇宙規模だ。この世の全ての穴という穴を制圧するまで、俺の実況プレイは終わらない、終わらせない。「実績解除:二股」「実績解除:三股」そんなチャチなトロフィーじゃ満足できない。「実績解除:全人類種付け」まで行かなきゃ嘘だろ!
さあ、まずは目の前のチュートリアルをサクッとクリアして、次のステージへ進むとしますか!
リスナー、瞬き厳禁だぞ、ここからが神速の攻略劇の始まりだッ!




