第二章22『敵対』
「すまない。本当は捕縛するつもりだったんだが、増援が来て取り逃がした」
「白煙の悪魔<ホワイト・デビル>に冷凍兵器<フリーズウェポン>……想像以上に厄介だ。これも運命<サダメ>なのか」
「仕方のないことだよ。君たちは最善を尽くしたさ……しかし」
先程まで避難所として活用していたシェルターはもうダメになってしまったので、第二避難所に移ってきた。
新天地で心機一転……となるわけもなく、実際は以前よりどんよりとした空気が漂っていた。
「我らが神龍様よ……我らをお助けください」
「俺若いんで! 暴力は苦手だけどそれ以外なら手伝いますよ!」
「終わりだ終わり…ヒック」
「時々いるアホみたいにメンタル強い奴はなんだよ」
神に祈ったり酒を飲んだくれたりしている者もいる中、明らかにどこかで頭のネジを5本くらいぶち飛ばした精神的強者がいる。もはや見習いたい。
「彼らは嫉妬の使徒……そう言っていたよね」
「言ってたっす!……でも絶対、ありえないと思うっす」
「なーんか、胡散臭いよネェ。あれで信じるの、メタルムくらいデショ。真に使徒であるボクからしたら、冒涜もいいとこだネェ」
「え、違うのかい?………フッ、深淵を見ているとき、深淵もまたこちらを見ている。今回、闇に飲まれたのは僕の方だったか」
「本当にあれで信じてた奴もいるんだ」
ディゴが発していたあれらの戯言は、ただこちらを動揺させるためだけの口からの出まかせだろう。
ただ、今回の被害者はいずれも氷に体を貫かれていることが共通している。
これが被害に遭ったのが人間だけならともかく、恐獣ハンターまで殺されたり行方不明になったりしているのだから、それらを加味するとリヴァが疑われる可能性は一気に高まるだろう。
しかしディノスが彼女の保証人となっていることが、影から全てを操る黒幕にとって予想外の仇となり……
「———本当に、そうか?」
ディノスとリヴァの関係を知らない、それで終わってくれるのが一番。
しかし何故か、ディゴは"リヴァ"の名を知っている。フェイオンたちに弁明する際、彼が盗み聞きをしていたという線もなくはないが……
———もし仮に、それがただのつまらない嘘だったら堂々と「本人に聞けばいい」だの言えるものか。
そして、彼らが嫉妬の使徒など名乗って暴れる理由も不可解……いや、
「もしかしてあいつら、オレたちとリヴァとで対立するように仕向けているのか……?」
それで得られるメリットなどほぼないようなものとしか思えないが、ここまでの彼らの行動から推測するにこれとしか思えない。
____ならば、既にリヴァの方にも魔の手は及んでいるのでは。
「いや、大丈夫、大丈夫なはずだ」
忘れそうになるが、彼女は並大抵の者では抵抗すら許されず叩きのめされるほど高い実力を有している。
当然、それはディゴやレイウムとやらでも例外ではない。
まだ敵の抱える戦力は未知数、もしかしたら彼らを超える大物もいるかもしれないが、それに易々と陥落するほど彼女もヤワではないはずだ。
きっと、返り討ちにしてくれている。
「ククク……黄昏<トワイライト>も近い。行動するなら、急ぐべきだね。闇は急げだ」
「防衛のためにも、何人かは残すべきじゃないカナ? 空っぽにしてくわけにも行かないヨネ。だから、ここは『最後の砦』とも呼ばれるワタシが」
「そうだね、役割分担と行こう。ディノスくんとアルマくん、そしてクラインくんはリヴァさんの元へと向かってくれるかい? 他は全員待機だ」
「あら綺麗に無視されたネ」
リヴァと合流するために下手に人員を多く割けば、その隙を突かれて再び襲撃され、またもや犠牲者が出る恐れがある。
防衛のため戦力として残るのは、この場にいない者合わせてフェイオンやメタルムたち八十名ほど。
それに比べると別働隊として動くディノスたちはたった三名と、少数で戦力に不安が残るが……
「目的地はそう遠くないし、少数なら目立たないしな」
「ディノスくんは確定、そしてアルマくんもリヴァさんと関わりがあるなら行くべきだ。そしてクラインくんは恐獣を使った簡単な偵察が可能。ベストメンバーだと思うけど、どうかな?」
「楽したかったんだけどネ」
「だ、大丈夫っすかね……」
「今回はあいつと合流すれば良いだけだから、無理に戦闘をする必要はない。それに、あいつらも取り逃がしたとはいえ復帰にはまだ少し時間がかかるだろ」
少なくともディゴはしばらく戦場復帰はできまい。となると、次に接敵し得るのはレイウムか、はたまた別の化け物か。
「ええい、グズグズしててもいかんな。時間がない、行くぞ」
「こういう役目は本来ベガがやるはずなんだけどネェ」
「わかったっす」
ともかく、彼らに時間を無為に過ごす余裕はない。最低限の装備を整え、姿を隠しながら人喰い山へと向かう。
そして、この現状を打開し得るジョーカーと合流するのだ。
△▼△▼△▼△
「ガァッガァッ!」
「ナルホド……この先、迂回した方がいいかもネェ」
「なんかあったんすか?」
「恐獣が何体かいるっぽいネ。行くならあっちじゃないかな?」
「いや待て………うむ、不自然な音がする。あっちは地雷が埋められてる可能性が高いな」
いつもは平和な月華村とその周辺だが、今回ばかりはそうとも行かない。
血に飢えた獣があちこちにうろちょろしてるし、今みたいな地雷などの罠も置かれており、もはや一つのダンジョンと化していた。
「正面は恐獣、左は地雷……となると、行くべきなのは右っすか?」
「……見え見えの誘導だな。ここで引っ掛かるわけにもいかないから、そうだな……」
ディノスは目を瞑りながら考えを巡らせると、ゆっくりと目を開け
「名前はがーちゃんだったか」
「ガアッ」
「そうだネ」
クラインのペットの一人であるガラカラスことがーちゃん。
確かラクールに出会った頃くらいの時、ディノスに突っかかていたチンピラを襲ったあの鳥と同じ種族なはずだ。
もちろん、がーちゃんはあの鳥とは比べ物にならないほど賢く、聡明な特異個体だが。
「クライン、がーちゃんにさっき倒した恐獣の死体を掴ませ、そして上空から地雷源へ落とすよう指示を頼む」
「地雷を無理やり爆発させて、無力化したところを通るっすか? でもそれだと目立つような……」
「当然目立つ、それでいい。あくまで陽動だからな……どう思う?」
「ナルホド、いいんじゃないカナ? 恐獣たちが音に釣られてやってきた隙に正面を突き進むってわけダネ」
「そういうことだ」
これで案外単純な陽動だが、それでいい。
心というものが希薄な恐獣たちにこそ、単純な作戦が一番効く。逆に、深読みをすればするほど危険だ。
「頼むヨ」
「ァ!!」
流石に潜伏作戦で音を鳴らすわけにはいかないため、ディノスのバフの恩恵をがーちゃんは受けれないが、それでも凄まじい怪力である。
ゴブリンの死体を軽々しく掴み、そのまま旋回を始めると……
「ガァァァッ!!!」
勢いよく地雷源の元へとゴブリンの死体を投げ飛ばした。
地面へ着地すると同時、死体が潰れる鈍い音の後、耳障りな甲高い音と閃光が走り、
「耳塞いでろよ」
「———-っ!」
巻き込まれたもの全てを丸ごと粉々にするほど、威力を極限まで高められた爆発が起こったのだった。
当然、あんなのに巻き込まれたらディノスたちなんてひとたまりもない。
「よし、行くぞ」
「時間との戦いダネ」
恐獣たちがあの爆破に気を取られてる隙に、このまま突っ切る。しかし、ここさえ抜ければ人喰い山までそう遠くはない。
あと少しの辛抱だ。
△▼△▼△▼△
「やっと着いたぞ……! リヴァ、すまない! ピンチなんだ、助けてくれないか!!」
あれから何度も苦難を乗り越えつつ、やっと人喰い山の麓まで辿り着いた。
仕組まれた妨害はそれぞれ巧妙であり、時間を1秒でもロスしたくない彼らにとって、それは大いに苛立たせた。
だが、勝負には勝った。このまま………
「え」
人喰い山を登り、彼女が住むプレハブ小屋まで向かおうとしたその時、不意にディノスを牽制するかのように氷の刃が足元に突き刺さった。
じゃれ合いなどそういうわけでもない。本気でこちらを潰すために投擲された、悲しみと殺意が混じった氷だ。
その出所は、もはや紛れもなく……………
「———リ、ヴァ?」
「その名で呼ぶな、けがわらしい、けがわらしいなの……!!」
見慣れた可愛らしい少女の姿ではなく、首の長い蒼き四足のリヴァイアサンとして。
一匹の竜が………リヴァが、憎しみと悲しみを侍らせながらこちらを睨んでいた。




