第二章21『敗因』
「イヒャヒャヒャヒャヒャ!!! 決めた決めちまった、お前たちに自分自身の心臓を食わせてやることにしたってなぁ!!」
喉が焼け焦げ言葉を発するのにも相応の痛みが発生するはずだが、ディゴはその痛みを押し殺してまで自らの怒りを露わとする。
気にも留めてなかったただの音の並びを堰き止めようと動く。
「いよいよ自らの精神を解き放ったか。君は地にいずれ辿るであろう運命<サダメ>から逃れられるかな」
「っあ!!!! 邪魔だ邪魔だ、今はてめーに呼び出しベルは押してねーっての!」
一回転したメタルムが、鋼鉄の刺股と化した尾鰭を白煙の悪魔に振り下ろそうとしたが、その寸前に鉤爪に堰き止められた。
追撃として鰭から放たれた水の波動も弓手で防ぎ、そのまま彼の尾鰭を掴み、力任せにぶん回してメタルムを地に叩きつける。
身の毛もよだつほど鋭利で殺戮に特化した鉤爪で、獲物の急所に狙いを定めて……
「でぇぇい!!」
「おまっ…!?」
ディゴにとってこの場での脅威は一人しかいない。一人でしかない。
頭を使うのが苦手なディゴだが、雑魚を苦しめる能力と肉体勝負でなら、そんじょそこらの底辺に劣るわけがない。
だからこそ、頑なに妨害してくる三下が、まるで羽虫のようにただただ鬱陶しくて仕方ない。
体重を全てかけた渾身の体当たりがディゴの横っ面に直撃し、その衝撃でアルマごと彼は大地に倒れ込んだ。
「だーがーら"ーー!! 弱虫雑魚助に用はねーってわからねぇのかい!?」
そこで終わるようでは到底悪魔など名乗れまいと、ディゴは悶えながらもなんとか立ち上がり、アルマの首根っこを掴んでそのまま地面へと向かって叩きつけた。
「ぐぅぅ……」と苦しそうな声が漏れ、次は目でもくり抜いてやろうかと画策する。
ただでさえ散乱としていたダンボールたちが、無惨な姿であちこちに転がっており……
「———あれれ、なんでこんかのが転がってる?」
最も、ゲーム世界の存在が台頭してから根本的な建築構造が変わり、600年前の過去の時代より遥かに建物が頑強になっている。
ましてや、臨時的なシェルターとしても機能するよう設計されたこの場所など尚更だ。
だから、派手にぶっ壊せなくても仕方ない……と上からも言われているし、自分でも納得している。不服だが。
——-だが、この散乱しているガラクタどもですら、多少原型を留めているというのには納得が行きがたい。
それらは普段貧弱の化身たる人間が使用しているものであり、そこまで頑丈でもないはずだが。
これだけ大暴れした割には………
_____あ?
「お前を無力化するのと、できるだけ被害を出さないこと。これらの両立は非常に面倒だった」
______何を
「生け捕りにして尋問すれば、ある程度の目星はつく。もっとも、これがただの捨て駒な可能性もあったが」
______手、足、口も…何故だ、何があった、塞がれてい
「体が突然大きく衰えると、当然だが誰だって違和感を覚える。その違和感を感じさせないよう仕込みし、罠を設置するのには疲れた、以上だ」
ディノスがそう締めくくると同時、ディゴの体を拘束した電流たちが蒼く轟き、強烈な稲妻がディゴを叩きのめしたのだった。
△▼△▼△▼△
「はぁ、はぁ……つかれた」
「やった、っすか?」
「流石、旋律の達人<コードマスター>だね。感心したいところだよ」
「ちょっと呼び方ランクアップしたか?」
彼らの眼前に映るのは、二度も強力な雷撃を喰らい息も絶え絶えのディゴだった。
もはや動く気力もなさそうだが、目だけは怒りと共にこちらを捉えていた。
種明かしをすると、体中ディノスの方も膝をついており動ける気力はない。
「死にはしないから安心しろよ。素直に吐くなら、命だけは助けてやれないか考慮してやる」
見渡せば、先程まで戦場と化していた体育館があちこち傷だらけ。
被害があまり出ないようディゴ自身へのデバフや空間の保護など尽くしていたが、中々思う通りには行かないものだ。
少なくともしばらくはここで子供達を遊ばせたりはできず、本来の役割を果たすためには修理は必須だろう。
「この人はどうするっす?」
「うーむ……とりあえず凶器になりうるものはは全て縛って尋問だな。尻尾は最悪斬り落とす」
「これに、影に隠れた事件の黒幕<ヴィラン>について問いたださなきゃいけないからね」
それらの言葉を聞いた瞬間、倒れ伏すディゴから凄まじいほどの敵意をぶつけてきた。
それを直にぶつけられたアルマは少し体をビクッとさせ後退るが、とくに心配する必要は……
「stupid and fool… ドコマデ行ッテモ愚者ハ愚者デス」
しかし、アルマのその心配は杞憂ではなかったと、壁ごとぶち抜かれ発生した轟音が証明する。
先程まで加害性の高い煙に晒され続け、ボロボロに剥がれかけた壁はいとも簡単に破壊され、それと同時に極寒の風が支配し始めた。
「お前も、こいつの仲間か…!」
「smart and smart. イカニモ。フロウム、ソウオ呼ビクダサイ」
フロウムと名乗る、氷の翼を生やしたかのような機械は絡繰仕掛けの単眼でジーーっとこちらを見ていた。
煙の次は雪と言うべきか、新たなる刺客は氷の翼を広げ臨戦体制を整えていた。
「denie and denie.今貴方達ヲ滅ボスツモリハアリマセン。回答ニヨリマスガ」
「薄氷の兵器<ブリザード・ウェポン>、君は何を望むつもりだい?」
奇妙な電子音を鳴らしながら、フロウムは尚も倒れて動けないディゴを見つめると
「Naturally and Naturally. 当然、コノ愚カ者ヲ助ケニ来タマデ」
「グソ………機械風情が俺のことを何だと……」
「dead or life? ナラバココデ死ニマスカ?」
「クソがァ…」
冷淡で仲間に対しても慈悲の欠片も見せないフロウムは「ソレデ」と電子的な音を発して続けると、
「歯向カウナラバ相手シマスガ、イカホドニ。モットモ、その場合屍ガ四個誕生シマス」
「それだとお前の仲間も殺してるじゃねぇかよ……」
彼はまだディゴを失うわけにはいかないらしく、ここで回収しにきたということだろう。
まだ彼らの狙いはわからないが、ここで抵抗さえしなければ大人しく帰るつもりらしい……今は。
「………」
一方、ディノス側もこれ以上の消耗は避けたかった。
メタルムにアルマ、そしてディノスと全員そこそこダメージを負っている。
しかし、敵を尋問できるこのチャンスを逃したくもない。
「待て、そろそろフェイオン達も戻ってくるはずだぞ」
———ならば、たとえ勝てはせずとも、三人で死ぬ気でかかれば援軍が来るまでは粘れる。
そう思ったディノスはちらりとアルマに目を向けると、苦虫を噛み締めたかのような表情になり……
「……わかった。受け入れよう」
「smart and smart. 素晴ラシイ選択デス」
———恐怖に叩きのめされた相棒の顔を見て、これ以上戦わせるなんて酷なこと、彼にはできなかった。




