第二章16『襲撃』
月華村の南方に聳え立つ『人喰い山』は、防波堤としての役割を備え持つ。
恐獣よりも恐ろしい…………とされている、実際は優しい竜の少女が、やってくる愚か者たちを返り討ちにしているのだ。
_____しかし、あくまで恐獣による被害を防ぐことができるのは、南方だけだ。
それ以外の方角となると、月華村は野晒しであり無防備。
大都市クラスともなると街を覆う防衛設備が絶対の安全を確保しているのだが、ちょっとした町村レベルだとそうも行かない。
となると、村に在留しているハンターたちがどうにかするしかないのだ。
「ふむ、僕たちを呼び寄せるとはね。魔女の祭り<ワルプルギスの夜>の始まりかい?」
「また強い野良恐獣でも迷い込んできたのカ、それとも不審者でも現れたのカナ?」
「申し訳ない! 今回、不可解な点が多くてね! 念の為に集まってもらった! それで本題だが……」
ディノスが指定された場所に到着した頃には、既に戦える者たちが集まっていた。
フェイオンの指示によって既に民間人の避難は完了しているらしく、なるほどこれは優秀である。
「東から大量の恐獣たちが、この村に迫っていることが確認されたようだ。しかも電波が遮断されているらしく、外部とは連絡が取れなくなっているから僕たちだけでなんとかしなければならない」
「え、えっと、群れはともかく、電波が遮断されているのはおかしく……な、ないですか?」
「そう、僕が言いたいのはそこさ。今回の襲撃は明らかに変だ。願わくば、クラインくんに詳しく聞きたいところだね」
「ははぁ、ワタシが今回の襲撃の主犯ってことですカネ?そう、いかにも……」
「_______玉石混合、様々な種類の恐獣たちが団結して迫っているようだ。恐獣使いとしての意見を聞きたい」
「————」
群れで活動する習性のある恐獣は稀だが、いるにはいる。番で行動する、寒冷地帯に生息するフロストテリウムや、クマクイアリアリなどがそれに該当する。
しかし、今回の場合……
「申し訳ないが、そのようなことはありえないネ。運良く習性が噛み合って共生共存関係になることはあるケド、基本は殺し合いを始めるはずダヨ。それに、それだけの数が突然ポップすることも稀ダシ、おそらくは……」
「人為的なものが絡んでいるかもしれない、と。ありがとうクラインくん、助かった」
今回の事態、驚異さはそこまでである。
しかし、何者かの思惑が働いている可能性が高いようでその意図が全く見えない。
「あー、口出してすまないが、そろそろ行かないとまずいんじゃないか?」
「同感、彼らケダモノがここまでやってくるのにあと一、二時間もかからないでしょう」
「我輩の推測に過ぎず、あくまで我輩の考えであるが、時間の猶予はなく、ここで時間を無駄にするわけにも行かない」
「その通りだ! それでは各自配置を決めるよ。元凶の解明は後回しにして、今はとりあえず目先の問題を解決しよう!」
△▼△▼△▼△
「我輩と比べて暴で劣り、我輩と比べて理で劣る。果たして、君たちが我輩に何ができ、何を成し遂げられるのか、是非とも教え、説明してもらいたいものだ」
「「「———!?」」」
破壊力×スピード×防御力。
シンプルながら対処は難しい、ヘラクレスから繰り出される圧倒的な暴力を前に恐獣たちは一掃される。
感情の薄い彼らに"恐怖"というものを叩きつけ、たじろぎ判断に迷った彼らに鉄槌を下す。
ディノスのサポートでその驚異度をさらに上げた、最前線で暴れる彼を止められる者は、少なくともこの軍勢の中にはいない。
スピード自慢なはずの霜獅子を速度で上回り制裁を下し、パワー自慢のミドリホネグマを打倒し、防御力自慢のガビアルマイマイを軽々しく粉砕する。
主戦力であろうザルドアも、彼の力に抗える技も、力も、理も、何もない。
「てぇぇぇい!!!」
「ククク…少しはこの僕を煮えたぎらせられることを祈っておくよ」
リヴァの訓練もあり、サポート役として味方を補助できるくらいにはなったアルマと、鋼鉄の体と水の力を用いて最前線で奮闘するメタルムの連携も高水準。
波長がそこそこ合うようで、そして単純に戦闘の相性も悪くない。
戦場に響き渡る旋律によって力を増したアルマならば単純な火力もバカにできず、雑魚くらいならねじ伏せられる。
そして素の防御力が高いため、敵の攻撃をほとんど寄せ付けないのだ。
「貧弱だね。悪夢の宴<ヴァンパイア・フェスティバル>もこんなものか」
対してメタルムは、アルマほどではないもののそこそこ頑丈であり、武装を纏った体当たりは範囲こそ狭けれど強力である。
そして何よりも………
「メタルムさんの水の力、すごいっすね!」
「すごいだろう? 本当は闇の力<ダークフォース>もあれば完璧なんだけどね」
鰭を剣として扱う魚としてあり得ない挙動をするメタルム。彼が振るヒレから水の斬撃が波動として飛ぶのだが、それが強力だ。
単純な威力こそ低いが、範囲に優れ、何よりもこの波動に触れた敵を媒介に、自分を含めた近くの味方全員の体力を少し回復できるのが強力だ。
これによって対多戦ならば脅威の継戦能力を発揮する。
「ショージキ、ボクは羨ましいヨ。これだけの数を軍門に下せるなら、サーカスでもすればウハウハなんだからネ」
「ベガ女史、無理をしてはいけないよ! 的確にサポートを頼む!」
中距離戦となるとクラインやフェイオンの得意分野だ。クラインは様々な手品で敵を翻弄し、そこを統率の取れた暴力の化身である手駒の恐獣三体で襲う。
フェイオンの場合、耐久力に若干の難こそあるが、それを補えるスピードと高火力が売りだ。
単純な剣技だけでなく光の魔法も使えるらしく、どうやらこれは単純なダメージだけでなくさらに自身のスピードを上げられるのだとか。
相手の反撃を許さないことで自らの弱点を補っている。
そして………………
「あんた、もしかしてだいぶ強い?」
「否定。お恥ずかしながら、私は近距離戦はできず」
「まあ遠距離タイプが近距離も強かったら理不尽だしな」
ディノスはマルカと名乗った青年と共に、遠距離からこの戦場を掌握していた。
ディノスは今回、中々力が出ないため単体で敵を圧倒することはできないが、それでも豊富な補助技や状態異常技を持つ。
範囲も圧倒的な広さを誇るため、味方を底上げし、敵をじわじわと弱らせ、そして貰ったばかりのバニッシュで敵を牽制できると戦場においてはどのみち理不尽な強さを誇る。
マルカという、タキシードとシルクハットを被った白髪のこの青年は、近距離まで詰められたらなすすべもないようだが、その代わり遠距離戦が非常に強い。
片目を髪で隠した彼は、理不尽な長さの射程を誇る灼熱と光のヤリで、敵を次々と撃ち倒していくのだ。
ヘラクレスによってダウンしていたザルドアが、信じられないかのような雰囲気を出しながら彼の手によって焼き尽くされる。
———そうして、この恐獣たちの襲撃はあっという間に、被害が何一つ出ることのなく、速やかに処理されたのだった。
△▼△▼△▼△
「いささか不可解で、かつ不明瞭だな」
「どうした?」
やることはやったと帰って行った者も多い中、恐獣たちの屍をヘラクレスが一瞥している。
そんな彼を不審に思ってディノスが声をかけると、彼もそれに気づいたようで、
「君か。我輩の気にするところではなく、我輩が考えるべきものでもないが、君の相棒はどこに」
「アルマなら、すっかりお前のことが苦手になっちまった。遠回しに臆病者って言ったのが決め手になったな」
「我輩はあくまで戦士として彼を判断し、我輩は彼の立ち振る舞いを考慮したつもりだったが、事情をよく知らないまま無礼な発言をしてしまった。重ねて詫びよう」
素直に謝れている彼を見て思ったが、リヴァといいヘラクレスといい、基本誤解と偏見が溝を深くしているように感じる。
まあ、今はどうでもいい。
「それで、何してたんだ?」
「______我輩の推測に過ぎず、我輩の足りない考えでしかないが、寒冷地帯に潜む獣たちが今回の襲撃で多く確認されている。もっとも、カモフラージュがされており、不自然さを消しているところを見るに、明らかに人為的なものであると我輩は考える」
「最近、近場で寒いところの奴らがよく発見されるようになったのも」
「何か関連があり、関係があるかもしれんな」
以前、意図的に誰かが霜獅子などを放牧しているのではないかと推測していたが、今回の襲撃を見るにそれは正しかったようだ。
しかし、誰が、何の目的で……までかはまだわからない。
「我輩は請け負っていた別の事件を解決するため、城を離れ、遠征に向かうつもりなのだが、対応はできそうかね」
「このタイミングでお前がいなくなるのはキツイな……どうしてもか?」
リヴァを除けば、この村一番の戦力であるヘラクレスがここで離脱するのは、正直言ってかなり痛い。できれば、とどまってほしいのが本音だ。
「こればかりは我輩の意志ではどうにもできず、我輩の所存ではどうともできない。義理を蔑ろにしては、騎士を名乗ることも許されまい」
「_____そうか」
しかし、あそこまで恐獣の軍勢を簡単にいなせるなら大丈夫……であると願いたいが、それはあまりにも楽観的すぎる。
少しずつ、不穏の風が迫っていた。




