第二章10『道化は語る』
「がぁぁぁ疲れた……」
ヘラクレスとの激闘により、どっと倦怠感に襲われたディノスは、本能のままに畳の上に寝転がっていた。
あれからすぐ我が家に戻ってきたのだが、横になりたい気持ちが強すぎた。なので、荷解きは今アルマにやってもらっている。
まあ、手荷物はそんな大した量あったわけでもないためそんなに苦労はしないだろう。
そうして、多少は疲労もほぐれたものだが…
「や、やること、やることが多いぞ……」
目先の問題が解決したかと思いきや、また別の問題たちが頭によぎり彼は頭を抱える。
まずこれから必要な家具などを買い揃えないといけないし、アルゼイドから貰った金も底をついたため金も稼がなければならない。
何故か状況次第で強さすら変わる今の体では、単身で恐獣ハンターとして活動するのも苦しいだろう。
アルマもまだ未熟だから、彼も育て上げなければならないし、
「そうなんだよなぁ……それも考えなきゃいけん」
アルマはヘラクレスの殺気にやられ完全に滅入っていた。まあ、レベル5の段階でレベル45の敵と戦えと突きつけられたようなものだし仕方ない。
ただあの時のトラブルが彼のトラウマにならないか、それだけが心配だ。精神面だと自分も人のことは言えないのだが…
自慢ではないが自分のギターの腕も考えると、音楽で食っていくことも可能である。
もちろん他の商売でアルマを養うことも、行けるはずだ。
「ただ、あいつに何の役割も持たせないままその生活で暮らし続けるとなると______まあ、病むだろうなぁ…………」
ヘラクレスに『軟弱者』呼びされたのもかなり効いているようだったし、彼の精神面はまだ幼いままだし、それに彼の生きる意味を潰したくない。
しかしハンターとして活動するなら、万が一も考えると、自分とは別に安定した戦闘員がもう一人は必要だ。命の取り合いなのだから死ぬ覚悟も、という綺麗事は受け付けない。
「今だけはロロフ帰ってきてくんねぇかなぁ…」
「ディノスさーん、荷解き、終わったっすよ」
「お、サンキュー」
性格を考慮しない戦闘力という一点だけなら、ロロフがいれば頼りになったのだが、残念ながら故郷の藻屑と化してしまった。
そんなこんなでディノスは非常に頭を悩ませていたのだが、そこにアルマの声がかかった。
「どうにかなれ、としか言えないのが現状だな……」
ほんの少しの期間とはいえ、体を横に、目を瞑っていたおかげで十分に休息は取れた。
立ち上がって、そんな独り言を発しながらアルマの元へと向かう。
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「げ、もうこんな時間じゃねぇか。起きろアルマ、そろそろ寝る時間だ」
「寝ぼけすぎっすよ……」
十分の仮眠を取ったディノスは、アルマと共にゴミ出しルールや医療機関の確認など、最低限やらなければならないことはした。
そして遅めの昼食をコンビニで買って食べた後、また作業をして、時間が少し余ったから布団を敷いて昼寝ならぬ夕暮寝をして今に至る。
やれ時計を確認してみれば時刻は17:10。ざっと1時間半ほど寝ていたことになり、そして……
「あと50分で歓迎会始まっちまうな。準備するぞ」
寝ぼけ眼を擦るアルマに、ディノスは支度するようにと彼は言った。
「やあやあ、来てくれて嬉しいよ! ディノスくんにアルマくん!」
「はいっす!」
「こちらこそだな……一応聞いておくが、ヘラクレスは」
「彼は辞退したよ。安心するといい」
「そうか」
彼はそっとアルマには聞こえないように、フェイオンに耳打ちした。その内容は、もちろんヘラクレスについて。
ディノスの方は別にヘラクレスも大丈夫なのだが、アルマと引き合わせたくない。だから聞いたまでだ。
そう、ここが村の広場だ。どうやらキャンプファイヤーが行われるらしく、焚き木が一箇所に集められている。
屋台までが置かれており、浴衣を着てる人間すらいる。もはやちょっとしたお祭り騒ぎだ、何があった?
「いやね、ディノスくんの他にもここに引っ越す人が増えたし、それにここ最近はどんちゃん騒ぎも中々やれていなかった!だからね、もう一気にやってしまおうと!」
「一気にやりすぎだろ」
つまりディノスとアルマだけでなく、これは最近ここに引っ越してきた者全員への歓迎でもあり、またお祭りでもあるってわけだ。
確かに祭というのは経済が周り、景気も良くなる歓喜すべき物でもあるのだが……
「まあいいか。とりあえず有力者だけでも挨拶は済ませておきたい。アルマは……おい、なんかもう知らん奴らと仲良くなってんだけど」
「全く、彼のコミュニケーション能力には驚かせられるね! 僕も見習いたいものだ!」
「お前が言うと嫌味にしか聞こえないな……」
というわけで、ディノスはフェイオンに案内される形で村の有力者に挨拶しに行った。
本当はアルマも連れていくべきだが、できれば休ませてあげたいというのがディノスの本心。
さて、肝心のアルマはと言うと……
「あんたが黄金の戦士か。僕はメタルム、いずれ鉄海帝になる者さ」
「メタルムさん、っすか? 僕はアルマ、よろしくっす!」
メタルムと名乗る、鋼の鎧に身を護られた魚に話しかけられていた。
どちらかと言うと、恐獣ハンターというよりも恐獣の方が近い気もするが、こうやって意思疎通が図れる時点でそのカテゴリーからは外される。
「漆黒の闇を宿す僕には感情がない………とは言わないけど、感情に乏しい身でね。それでもここで君と会う運命を嬉しく思うよ」
初代面から厨二病全開のメタルムだが、アルマに対して嫌悪感を抱くどころか友好的であり、アルマも仲良く出来そうだ。
「メタルムさんもここでハンターを?」
「僕は答えの出ない問いの迷宮に囚われている。だから、悪魔からの答え(デビルズアンサー)を探しているんだ」
「なるほどっす!」
「うーむ、ワタシにはよくわからない会話ダネェ」
会話を楽しんでこそいるものの、その内容が噛み合っているかどうか自体は怪しいアルマとメタルムの二人に声をかける者がいた。
それは…
「我が同胞<ブラフ・ファントム>じゃないか」
「前から言ってるけどサ、その変な呼び方はやめてほしいものダネ、メタルム!」
二人の会話に混ざったのは、嘘つきピエロでお馴染みクラインである。
しかし、余裕綽々としているいつもとは違い、今日ばかりは彼の方がペースを崩されている。その原因は、メタルムだ。
「全く、キミと居ると調子が狂わされる」
「メタルムさんはクラインさんとお友達なんっすか?」
「彼と僕は永遠の盟友さ」
「違いますネ、ただ彼に懐かれてるだけダ」
やれやれ……と言うかのように、呆れて肩をすくめる道化師と、胸を張る簡素な鋼鉄の魚。
共通性も何もない、奇妙な組み合わせだ。
「全く、ちょっかいをかけて損をしたヨ。それでは、ボクは商売に戻ろうカネ」
「———? クラインさんは何を仕事に? ハンターじゃないんっすか?」
「むむ、知らないのか? 彼はね、魔物使い<スペクタル・エンターテイナー>。恐ろしい獣を操るパフォーマーなのさ」
「え?」
理性も何もない、本能のままに従い、他者を襲うためだけに動くのが恐獣と分類される存在だ。
しかしメタルムが言うには、クラインなら彼らを操ることができるのだとか。アルマが驚いてクラインの方を見ると……
「ハァ………まず言わないといけないことがあるネ。恐獣と呼ばれる存在はネ。生きてて、死んでるんダヨ。ボクは"生きてる"個体を手駒にして、サーカスを開いているのサ」
「生きてて、死んでる……っすか?」
メタルムの紹介を肯定し、そしてアルマが聞いたことのない、『恐獣』についての未知なる知識を披露したのだ。




