第二章8『轟く雷鳴、破壊の狂斧』
大地を豆腐のように容易く破壊する大斧。
重量級の武器なのにも関わらず、まるで剣のように扱い、そして演舞のように美しい縦断だ。
その弔いの一撃が、反応させる暇すら与えさせることはなく、アルマの脳天に叩き込まれ、
即死___________
「させねぇよ!!」
咄嗟にディノスが割り込み、この世のあらゆるやり方でも決して砕けないギターで、大斧による攻撃を防いだ。
あの一撃はまさしく破壊に特化しており、切り崩し&切り崩しを徹底的に鍛えた防御無視型。
盾がなくとも、とんでもなく硬い装甲に身を守られたアルマ。
そんな彼でも、不意打ちに急所を抉り取るのに集中した攻撃を喰らえば、ただではすまなかっただろう。
しかしその一撃が防がれたところで、ヘラクレスが戦意を途絶えさせることはない。
「君は我輩の敵であらず、我輩の殲滅対象としても認められていないため、ここで立ちはだかる道理はないと我輩は推測し、我輩は思うが」
「相棒を狙うってのはオレへの宣戦布告と同じだぞ…!」
続く猛攻が、立ちはだかるディノスに対して武、参と襲いかかり、ディノスも負けじと応戦する。
先程まで和やかだった安らぎの場は、一気に血で血を争う戦場と化してしまったのだ。
凡人が見ると、ヘラクレスは近距離、ディノスは遠距離戦の方が得意。
そして、距離を詰めるセットアップが終わった段階で彼らの激戦が始まったのだ。
遠距離戦が得意だと思われるディノス側が不利、ヘラクレス側が有利。よって、本来ならばヘラクレスの勝利で終わるはずだが…
「いざってときに力引き出せず負けるオレじゃねぇんだよっ!!」
「やはり我輩の見込みは正しく、我輩の思った通りだ。だからこそ、このような形で戦わなければならないことが口惜しく、残念でならない」
「お前が武器を下ろしてくれたら解決するんだけどな…!」
振り下ろされる破壊の象徴は、ギター『グングニル』で受け流せられる。
このギターにかかればどんな馬鹿げた力でも力を吸収し、無限を零にできるのだ。
ディノスはカウンター型であり、相手の攻撃をゼロにして自分の行動を押し付けるスタイルだ。
相手の持つ強みを一切引き出させず、そのまま跳ね返してお見舞いする。
そして、近距離戦は苦手だ。
苦手寄りだが、野菜の好き嫌いと食べられるか食べられないかは別なはず。
それと同じだ、できないとは言っていない。楽できない、ただそれだけだ。
「見事な技であり、洗練した武よ。どのように鍛えたか、差し支えなければアルガゼルマを弔った後我輩に教えてもらいたいところだが」
「そいつは企業秘密、しゃべれねぇ、よ!」
ディノスがギターを通して放つ雷は、もちろんそれだけで当たれば痺れ、焦がし尽くされる脅威。
しかもそれだけでは収まらない。
時々意思を持ち、命を授けられたかのように変則的に動く、ギターから伸びている雷も散見される。これこそが『雷鳴の手』。
「第三の手、第四の手を操ってるような感覚だが…」
手を形作るそれらは、上手く操れれば射程にも困らない攻撃、防御、回避、全てに役立つ、優れ物ならぬ優れ技だ。
おまけにギターから奏でられる音でディノスの身体能力はますます上昇し、逆に相手は大量の状態異常や、身体能力低下付きの弾幕に苦しむこととなる。
———しかし、ヘラクレスも化け物だ。
「クソ!!」
意外なことにも、いざ戦ってみると全盛期からの衰えこそ感じるが、それでも彼の戦闘IQは高い。
単なるバーサーカーというわけではなく、通じないと悟れば即座に戦闘スタイルを変え、無限の戦い方を持つのだ。
豪快にも斧で音を破壊して一時的に音を遮断や、風の刃ならぬ岩の刃での撹乱など、だ。
ディノスもそれらに対しての対応策はちゃんとある。彼だって、かつては幾多もの危難を乗り越えた英雄の一人なのだから。
だが、それはディノスだけである。
一人ここに"凡人"が混ざっていることを忘れるな。
「……ぁ」
それは、規格外の強者同士の戦いに混じれない哀れな凡人……否、凡アルマジロだ。
思えば仕方のないことではある。
数多もの戦いを制してきた実績のあるディノスと違い、今のアルマは盾だけを持って実家を飛び出し、そのままこの世界に来てしまい、本能のままに生きる恐獣たちを狩って暮らしていたのだ。
ディノスだって、最初この世界に来たばかりの時は経験値や感覚こそリセットされていた。
しかし今の彼はそれを取り戻している……それが喜ばしいことなのかどうかはさておき、だ。
アルマには何もない。本来ゲームであったはずのイベントを全てスキップし、せいぜい格下の恐獣を倒して、その金で普通に暮らしていた。
そう、"普通に"だ。
ディノスと共に旅をした個体のように、命を散らしかけたことも、そしていざという時に命を散らせる覚悟も、何一つ存在しない。
しかし、ここ最近になってから格上と相対することが多くなってきた。
ザルドアから始まり、ナイトメアに続き、そして今のヘラクレスだ。
だから、仕方のない感情ではある。
「あ………」
怖い。怖い。怖い。怖い。怖くて仕方がない。逃げたい。逃げられない。何かしたい。何もできない。どうにもできない。
規格外の強者と相対することで生じる恐怖は、前からあった。
例えば、ナイトメアがそうだ。まあ、あの時は勇気がその恐怖を上回ったのだが。
だが、アルマは目の前のヘラクレスに恐怖していた。
ナイトメアより幾分力は劣る。しかし、アレとは違う、異なる点がある。
それは、憎悪。それは、殺意。それは、悲哀。それは、悔恨、それは、___。それは、それは、それは…………
それらは全て彼に投げかけられている感情であり、そして何一つ身に覚えのない感情だ。
断じて殺されるようなことをした筋合いはない、そう言いたいが、切迫したヘラクレスを見て押し黙ってしまう。
「ぼ、ぼくは」
今自分は何を、どうしたらいい。今もなお続く超越者同士の激戦に加勢しようものなら、一瞬にしてその余波で灰と化すのではないだろうか。そもそも、足を右と左、どっちから動かせばいいのかすらさえわからない。だから……
たじろいで石のように塊ついたアルマに対し、声がかけられたのは、それからすぐのことであった。
「アルマ、おい! 逃げろ!!」
「——!? で、でも」
「でもじゃねぇ! あいつの狙いはお前だ、オレだって守り切れる自信ねぇよ! それに、ただ逃げろってわけじゃない! 村から援軍を呼んできてくれ!」
今もなお、あの化け物と互角の戦いを繰り広げるディノスがアルマに頼んだのは、村から戦える者を連れてくることだった。
そもそもこの村には戦える者が少なくない。
流石にヘラクレスと同じレベルはいないだろうが、フェイオンやクラインなど、誰か一人でも戦える者が加勢してくれれば有利になる。
「——っ!!」
そうだと分かれば、アルマのやることは一つだけだった。
アルマはカチコチになった足を無理矢理動かすことに成功した。
そのまま、本来は盾として守るべき存在に逆に守られ、そして背を向けて走り出す、という盾にあるまじき姿を披露する。
「逃げることは悪いことじゃねぇ!! 悔し涙を流した分、今度はその盾でオレを守ってくれよ____!!」
背を向けて走るアルマには、続けて投げかけられたその言葉がはっきりと聞こえた。
悔し涙を交えて、彼は、走る、走る、走る____




