第二章4『モンスターパートナー・リスタート』
「それで、アルマくんと出会う準備はできたんですかっ」
「もちろん」
ラクールの秘術もあり、完全復活とまでは行かないが、なんとか動けるほどには回復した。
少なくとも、このまま入院する必要はないだろう。
それでもナイトメアによる破壊の影響が大きいためしばらく戦闘は遠慮したいところか。
今はディオラと入れ替わりにやってきたアルトと談笑していたところである。
どうやら、彼はアルマに諸々の事情を説明してくれていたようだ。
出会いの時こそディノスからの印象はあまり良くなかった彼だが、同じような境遇だったこともありこの一ヶ月で随分仲は良くなったと思う。
記憶こそ消滅したものの尋ね人は見つかった自分に対し、未だ尋ね人が見つからない彼。
本意ではないにしろ、抜け駆けして悪いなと思う気持ちもあり…
「なんて、考えないでくださいね。むしろ、感謝してるんですっ!」
「——感謝? 」
「アルマくんは見つかった。記憶はありませんが…でも、ディノスさんが見つけれたんだから、僕だって見つけれるんじゃないかって!」
「……なるほどな」
どうやら、感動の再会とまでは行かずともアルマと再会できたディノスを見て、半ば諦めの感情に支配されていた彼の再燃のきっかけとなったようだ。
アルトの状況は何一つ変わっていない。後退もなければ、前進もない。手がかりもない。
ただ絶望から反転し、希望を持った彼なら、本当に見つけれそうなそんな勢いがあった。
「それじゃ、行ってくるよ」
「いってらっしゃいですっ」
愛用していたマントが消えたことを除けばいつもの服装のまま病室を出る。
一足先に病室から出て、ラウンジで待っているであろうアルマの元へ向かうのだ。
しかし……マントがなくなった結果、今のディノスは正義のヒーローから一転、
「我ながら、その、なんだ。蛮族そのものな姿になった気がするな…」
凶悪な面なことさえ除けば、かろうじて正義側と言われても説得力があったはずが、今じゃこれである。差別と偏見に悩まれそうな姿だ。
まあ確かに、消えた故郷に正義も置き去りにしたとはいえ、それでもこれは酷いのではないか。
「——ふぅ」
アルトには見栄を張ったが、やはり怖いものは怖い。この廊下の先に彼がいる。
もし彼とのコミュニケーションを間違えたら、と思うと緊張する。
だが、その緊張を逃げるための言い訳としてはならない。
深呼吸して精神を穏やかにし、最大限リラックスして体も落ち着かせるのだ。
息を吸って、吐く。落ち着く。だが、この落ち着きも長くは続かない。緊張感が一瞬途切れた今、ここだ。
廊下とラウンジを繋ぐこの境界、で立ち止まったことによる停滞を打破し、足を右、左と順に動かす。
——こうして、
「よう、一日ぶりだな。元気だったか?」
そこにいたのは、不安そうな顔つきを隠しきれず座っていたアルマだ。
不安というものは、いとも容易く他者から他者へと伝染させる。その逆も然り。
こちらが例え表面上でも元気でいれば、相手もすぐ元気になるだろう。それがアルマなら尚更だ。
不安と緊張で裂けそうになりながらも顔には出さず、笑顔と空元気で立ち回るディノスは彼に声をかけた。
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「しっかし、何にも覚えてねぇのか」
「えぇ…まあ…そうっすね。僕が覚えてる限りだと……実家を飛び出たところが最後っす」
彼は何か気まずそうに言い淀んだ。
言いたくない、とばかりだが…悲しくもディノスにはアルマの過去が全て筒抜け。
言い淀んだその理由が、一から十まで全てわかってしまう、とは言えない。
「剣聖の家系の一人息子が、剣を持ちたくない…………本来なら、その問題は解決したはずなんだがな」
少しばかり脱線してしまうが、実はアルマは剣聖の家系なのである。
彼は意思に反して、本来は剣を握らざるを得ない身だった。
その問題には大きく頭を悩まされたが、ディノスが血を吐くほど頑張り解決した。
もっとも、それらは全て今の彼にはなかったことになっているが。
しかし、皮肉にも故郷も仲間も敵も全て滅んだ。その関係もあり、今やそれらの問題に頭を悩ませる必要はない。皮肉にも。
「———それで今後お前はどうしたい」
「どうしたいか、っすか。本音を言えば、早く元の場所へと帰りたいっす」
「そうだよな。気持ちは本当にわかるぞ、オレだってそうだ」
願って叶うなら、一刻も早く元の居場所へと帰りたい。
それは目の前のアルマも、もちろんディノスも同じことだ。そこは自らが必要とされ、そして自らも必要とする場所なのだから。
しかし実際のところ、全てをかなぐり捨て願ったとしてもそれはもはや叶わない。
既に取り返しもつかない事態となって、滅んだのだから。
「あいつらは割とエンジョイしてるけど、それはオレだってそうだ。でも、帰る方法が……」
「——?」
「____まだ、見つかってねぇんだ」
ない、と言おうとしたが、咄嗟に言葉を言い換えた。
その理由はもちろん、この言葉が槍となってアルマの心を折ってしまう可能性があったからだ。
優しい嘘であり、必要な嘘だ。とはいえ、アルマに正直に話せないのは心が痛む。
しかし、ここでは少しでも希望を持っておかなければ、すぐに絶望に浸されてしまう。
それだけは、なんとしてでも防がなければならないことなのだ。
「その方法がいつ見つかるかはわからない。明日見つかるかもしれないし、はたまた十年、いやそれ以上かもな」
「……」
「まあどのみち、どのみちだ。故郷に戻るまでそれなりに時間はかかる。それまでずーっと一人きりってのもなんだか寂しくないか」
「それは…間違いなく、そう。そうっすね!」
「だろ? だから、一緒に来てくれないかってのがオレの提案だ。どうせ繋がりは作っといた方がいいだろ?」
____まあ、知らない相手からいきなりこんな誘いされても、気味が悪いだろうとは思うが。
見知った相手が自分のことを忘れている、知らないというのは想像以上に悲しく、つらい。
培ってきた全てが潰され、台無しにされた、そんな感触だ。
一方、相手は自分のことを知っているが、自分は知らない場合。
これもまた、苦しい。どう接すればいいかわからないのだ。
何故か相手が、自分の誰にも話してないはずの情報を持っていることで、悲しくもかつてあったはずの繋がりを証明される。
どっちがマシかは、ディノスにはわからない。
少なくとも、どちらも心を大きく抉り取る最悪な事象だとは思う。これは両方経験したディノスにしか言えない。
さて身振り手振りで彼にそう提案した。だが、自分で言うのもなんだが、断られても無理はないと思う。
もしここでアルマに断られていたら、それを受け入れるつもりだった。
……………本音を言うと、そうならない方が圧倒的に望ましいが。
しかし、自分が気持ちよくなりたい。楽になりたい。それを優先して彼を傷つけてしまうとなると、本末転倒にも程がある。だから…
「全然いいっすよ!」
「え」
思考を張り巡らせていたディノスは、彼に不意を突かれ、その情けない声と共に硬直した。
即答、即答だった。いや、少なくとももっと悩むかと思ってた。
「ほ、本当にいいのか? もしかしたらオレが、その、なんだ。怪しい不審者かもしれないんだぞ」
「そうなんっすか!?」
「違うが!?」
そういえば、昔も昔で彼はそんな調子だった気がする。そしてそんな彼を見ると、やはり自分と比べてしまうものだ。
「改めて、オレってだいぶめんどくせぇ性格してたんだな…」
さっぱりしている彼に比べて、ディノスはなんと無様なことか。
すぐ環境に適応して見せる彼に対し、こっちの強面は生きる希望を見出せず一ヶ月は廃人状態だ。普通は逆ではないか。
そう虚空を見つめているディノスに対し、アルマはテンションが上がってきたのか声色を弾ませこう言葉を紡ぐ。
「そういえば、ディノスさんって普段拠点にしてる場所はどこなんっすか。もしかして、一軒家持ちとか?」
あの日、最期に見た彼と今のアルマで様子はほとんど変わらなくなってきた。呼ばれ方を、除いては…………
……あれ。
「いや、あ、あれ」
「———? どうしたっすか」
アルマの質問によって、とんでもない事実に気づいてしまった。
今の自分が、どう過ごしていたのかをありのまま伝えるのはまずいのではないか?
「よくよく考えたら、今までのオレって世捨て人またはラクールのヒモじゃねぇか…?」
生きる希望を失った結果、半分廃人と化し、ラクールの家で過ごし、女から貰った金を使い、現実逃避に女と遊び、たまにアルトと話し、パチンコをする。
我ながら情けないにも程がある。なんだこれは。本当にあり得ない。
先ほどの自分は、どのツラして、アルマにあんなことを言っていたんだ。
アルマがこちらを見て目を輝かせている。冷や汗が床に滴る。
せっかく自分にこんな期待をしてくれてるのだ、ラクールの家に入れるわけにもいかない。
軽蔑される。打開策を、考えなければ。
——-思いついた。
「いやな、実は引越しの準備を進めてて。とある場所に移住しようと思ってたところだ。オレたちって力はあるし、馬鹿でかい防壁にわざわざ守られる必要もないだろ?」
「まあ、確かにそうっすね!!ザルドアをあんな簡単に倒したディノスさんなら大丈夫そうっす!それで、どこへ?」
「行き先は決まってるさ。そう…」
後で空き家がないか、アルトに聞いてみよう。ダメだったら、適当な理由をつけて他の村に変えればいい。
何もかも、全てが情けない彼が思いついた行き場所は、アルトが拠点にしている村だ。
そう、その村の名は
「——『月華村』」
ただの人間は、もしそれに遭遇したら、それができるだけ楽に殺してくれることを祈る。
それこそが、恐獣と呼ばれる蛮族たちだ。
そんな彼らを簡単に狩れる、ゲーム世界の民たちが多く集まるとされる場所の一つ。
それこそが月華村であり、幕開けされる新たな舞台なのだ。




