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デジタルアライズ  作者: ワニ
1章 『デイノスクスの夜明け』
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第一章13『システム:ナイトメア』

予想外と言うしかない、アルマに発された言葉は、槍と化して心を抉りとる。

 ほんの数秒が悠久とでも言うかのように長く感じ、やっとの思いで出すことのできた言葉は、


 「——なんで、だ」

 

 今にも消えてしまいそうな、震えと動揺を隠せない掠れ声だけだった。

 努力してきたものが、耐えてきたものが、全て無駄だったと突きつけられる。


 笑えない冗談だと思いたいが、目の前で困惑しているアルマの様子が、これが冗談でも何でもないことを示している。

 呆然とし、固まるディノスに対し、懐からもう一人の相棒がピリッとした電流で合図を送る。——それは、燃えるように赤い神器のギター。


 「そ、そうだ!こいつなら思い出せるかもしれん」

 

 記憶喪失と言えども、培った感覚は忘れないものだ。脳が忘れたとしても、痛みや心地良さ等は肉体が覚えているもの。それら感覚こそが、生命をあるべき姿に誘導するのだ。だから、それを利用する。


 ディノスはギターを手に取り、弦を弾き、澄んだ水のように綺麗な音を響き渡らせる。

アルマにはよくこの曲をせがまれたものだ、この曲なら何かアルマも思い出せるかもしれない。

 せめて断片さえ思い出せればいい、そうすれば少しずつピースを当てはめ復元することができ…


 「——? ああでも、いい曲っすね!」


 「……そうだな」


アルマは最初は怪訝な顔をして聞いていたが、やはり彼なだけありこの曲はかなり好みな様子。当然だ。これは彼が一番好きだった曲なのだ、嫌い、なわけがない。だが…


 たかだがそれ止まりで、彼はそれ以上の気持ちをこの曲には抱かない。

 どちらかと言うと、『忘れた』というより『知らない』が、今の彼にとって一番相応しい言葉かのような感触さえする。


 それこそ、目の前にいるアルマはアルマであって、全くの別人のようにすら思える。


 「いい曲だったっす!こう、明るい曲調に反してどこか悲しげがある感じ、あれが見事にマッチしてたっすね!…ああそうだ、そろそろ名前教えてくれないっすかね?」


 「ディノスだ。ディノス。うん」


目の前にいるのが初対面である人物を忘れ、目を輝かせながら騒ぐアルマに対し、ディノスは虚に、壊れた機械のように自らの名前を反復した。

 心の中を、この世で最もドス黒い悪感情が支配する。紅い紅い汚濁が徐々に手足を汚染していくのを感じるのだ。


 「なんだったんだろうな…」


 ディノスは虚空を見つめる。

 

 意味がない。そう全てに意味がない。確かに同郷で今もなお英雄として活躍する彼や、言動に反し世界の内側から守る彼女に、様々な人物と会ってきたし、別に彼らのことは嫌いなわけではない。しかし、アルマと比べると格段に優先順位は落ちる。傲慢と言われようともこれが実際のところなのだ。例えアルマが世界の敵となったとしても彼を選んでいた。傲慢だと言われようとも。だが、彼は自分のことを覚えていなかった。否、"覚えていない"だけならまだ良かった。自分のことを知らないのだ。そもそもの関わりがなかったことにされた、近いようで全くの別人なのだ。だから、思い出すも何もない。これが正常なのだから。待て、待てよ、そもそも自分の記憶がおかしかったのではないか。アルマたちと過ごしたあの日々の記憶は偽物で、本当は作られた空っぽの記憶…世界5分前説というものがあり、世界は5分前にできたという馬鹿げたものを誰も否定できないとからあはまだからたらでつまるところ今の、ああ、ああ、そうなのだ。ゲームの世界から来たのだ。作られたゲームの世界から来た。だからあれらも偽物だったのだ。偽物。否定したくとも否定できるほどの根拠がない。よくわかる。自分は知力を多めに割り振られたゲームのキャラクターなのだろう。だからわかるのだ、あれらの旅が全て偽物だったと。受け入れたくなくても良くわかってしまうのだ。——待てよ、一度作られた世界から来たのだ。なら今も何者かに作られた世界なのではないか。これもゲームの世界で、誰かがこちらを監視しているのではないか。嘲笑っている"何かが"画面の前にいるのではないか。この世界もそげーむだとすれ?ば、それが




 「———ソコマデダ」


 突如轟音が鳴り響き、それまでのノイズが途端にかき消された。どこかで見覚えのある、紫色で五つ首…そして巨大な目玉が中央に埋め込まれたヒュドラのような存在。

 そう、こいつはデバッグルームで見たことがある。目が閉じられていたあの時と違い、その目玉はギッチリと開かれており、そして…


「プロトコル『ナイトメア』起動。世界ノ規定ニノットリ、浄化ヲ開始スル」


 その凶悪な目玉をディノスに向け、彼に対して明確な殺意を露わにした時点でそれは彼にとっての救世主でないことは明らかだった。


 この世のものとは思えない禍々しくも神々しい覇気を纏いながら、その怪物は図体に似合わない俊敏さで襲いかかる___!



 ここで一つ確かに言っておかなければならないのは、ディノスは元のゲーム世界では優れたキャラクターだったということ。

 強さのランク的には上から二番目、よく序盤中盤のぶっ壊れキャラとして持て囃されたものだ。

 ——それが…


「ぅ、ごけ、ん…」


 アルマと違い、ナイトメアの出現と同時、とてつもない倦怠感と疲労に襲われ始めた。もはや立っているのがやっとなくらいである。体の内側から引き裂かれるような感覚に陥る。


 当然だ、システム・ナイトメアは彼のような精神的に撹乱し、とある状態に陥った者たちを殺すためだけに生まれた存在なのだから。

 

 故に、かの怪物にはディノスの力は無力に等しい。全てを切り裂く稲妻も、全てを魅了する音も、この血も涙もない浄化兵器には通用しないのだ。


 「——シャァァァァァ!!!」


 射程無限で異様に伸びる五つの竜の首が、ディノスに襲いかかる。不気味なことに、ナイトメアはザルドアよりも圧倒的に強いことは確実なのだが、地形には傷一つつかない。


 竜の首はそれぞれ爆発を伴いながら縦横無尽に飛び回るが、それらは世界に干渉をしない。

 本当にディノスだけしか狙う気はないようだ…ただ。


「でぇぇい!!!」


 浄化を邪魔する者、それを許しはしない。アルマが盾でなんとかディノスを餞別から守った。しかしザルドアの時とは違い、盾もミシミシと悲鳴を上げており、守るのも一苦労である。


 「警告。ソノ世界ヲ壊シカネナイ汚濁ヲ庇ウナラバ、貴様ニモ処罰ヲ下サナケレバナラン。殺シハセヌガ」


「そんな見た目で言われても信用ないっすよ!ここは絶対譲らないっすからね!」


 アルマが盾を構え、ナイトメアと相対する。悪夢は半眼で、哀れな者を見るかのような目で彼を見つめている。

 それもそのはずで、実力差は火を見るより明らか。ほとんど使い物にならなくなったディノスと、そして実力の面でまだ未熟なアルマ。


 彼ら二人でこの『世界の守護者』に勝てる可能性は、ゼロだ。

立ち絵資料 『ナイトメア』

挿絵(By みてみん)

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