ドカナイ、用意周到2
「……少し失礼いたします」
険しい顔をしたメクシトロは席を外す。
「うーん……こりゃあ、本格的にシェルフィーナ脱出計画も必要か……?」
ジケは腕を組んで考え込んでしまう。
戦争に巻き込まれる前にと思っていたのだけど、ドカナイの動きが思っていたよりも早い。
細かいことは分からないが、ドカナイはかなり周到に用意をしていた感じがある。
魔物の繁殖期で道が通行できないタイミングを狙い、警戒の薄い地域を攻め落とした。
クリストフがそんなタイミングでそんな場所にいたのは非常に運の悪いことである。
ただクリストフが捕まったのには本人が悪いところも大きそうだ。
「ゼリマンに何があった……かだな」
戦争で負ける。
そんなこと考えたくないけれど、最悪の事態を想定することは必要だ。
負けたとして、一般市民はともかく旅の途中で少し寄っただけの他国の人にキツく当たることは少ない。
しかしドカナイがどうするのか、確実なことは言えない。
捕まって全部没収なんてこともあり得ないと否定できるものではなかった。
となるとやはりイルヒッコク、戦争からは逃げたい。
今聞いているルートとしてはゼリマンの方から抜けていくものがある。
そちらに行ければ話は早い。
「お待たせいたしました」
もしダメなら女の子たちだけでもシェルフィーナで国境越えようかとか、無理にでも道なき道を突き進むとか考えを巡らせていた。
メクシトロが戻ってきて、ジケはジッと表情をうかがう。
明るいものではないなと思った。
「……なかなか難しい状況に置かれているようです」
メクシトロは短い沈黙の後、ため息混じりに眉間を揉んだ。
「何があったのですか?」
「ゼリマンの状況が良くありません」
もはや隠し立てもできないとメクシトロは正直に打ち明ける。
「ルエンと一触即発の状況らしいのです」
「……なんでまたそんなことに?」
ジケも思わずギュッと眉を寄せてしまう。
「正確にはルエン全体というより、ゼリマンが隣接するピーフォックというところと、なんです。ルエンとイルヒッコクの関係は隣国としてはそれほど悪くはありません」
ドカナイと違ってルエンとは仲が悪いと聞いていない。
ゲルシトンも普通にルエンに入っていたし、ドカナイとは近いもののイルヒッコクと敵対しているわけじゃなかった。
それなのに一触即発の状況になるなんておかしな話である。
ただ隣の国というのは色々関係が複雑だ。
助け合うこともあるだろうが、国という巨大な組織は様々なものが絡み合っている。
争い合うわけでなくとも隣と仲が悪いことも珍しくはない。
「ただゼリマンとピーフォックは仲が悪く……何十年も前ですが、婚約破棄騒動があって、それから両者は仲が非常に悪いのです」
「それで今戦争ですか?」
「戦争が起きているわけではありません」
「……じゃあ、何が?」
「国境ギリギリのところに兵力を集めて駐屯しているようなのです」
これはきっと偶然じゃないな。
ジケはそう感じていた。
「相手はあくまでも軍事的な演習を主張しています。越境しているわけでもないですし、強くやめろとも言えません。ただ……ゼリマンがこちらに援軍を出して手薄になったらどうなることか……」
実際に戦争は起きていない。
しかしその寸前の状態となっている。
仮にゼリマンがピーフォックを無視してシュトレイブルに援軍を出したら、手薄になった隙をついてピーフォックは攻めてくるだろう。
つまり、シュトレイブルは今孤立している状態であった。
「ゼリマン領地は抜けていけないのですか?」
「戦争が起きていない今なら可能かもしれません、が……」
「リスクはありそうですね……」
シュトレイブルの領地だって戦争が起こる前にと言って通り抜けようとして、ダメだった。
ゼリマンでも同じようなことが起こるかもしれない。
「どうにかなりませんかね?」
ジケが戦争を起こしているわけではないものの、ジケが行ってしまうと戦争が起こりそう。
こうなるとルエンがドカナイと繋がっていることは確実だ。
「……一つ、考えがあります」
だんだんと複雑化していく事態。
ジケは無事に抜け出せるのか、と何度目かも分からないため息を漏らしてしまうのだった。




